■ファッション・クロニクル

 母親はものすごく情が深い人。僕への愛情はうざったいくらいだった。

 3人きょうだいで男は僕1人。小学生の時からバイオリン、習字、そろばん、油絵、家庭教師……。バイオリンの練習をサボって寝ようものなら、布団から引きずり出されて夜中に廊下で練習だよ。間違えると殴られて、涙で譜面がゆがみまた間違える。で、また殴られる。あいさつや礼儀にも厳しかったね。

 周りの子供は缶蹴りや野球に夢中だったけど、習い事が忙しくてできなかった。何度、お姉さんとプチ家出して公園や神社でパンをかじったことか。寒くなって家に帰ると、心配したそぶりなど見せず輪をかけて怒られた。

 でも週に1回楽しみがあってね。仕事で忙しい母親が、食事をつくってくれる。料理はいつもモダンでおしゃれ。天ぷらもオープンキッチンごしにつくって、それぞれ三角に折った半紙のうえに盛ってくれる。穴子やかき揚げ、大葉に片面だけ衣をつけてさっと揚げたりさ。母親のエプロン姿、うれしかったな。

 母親の子育てには、こういう人になってもらいたいという強い目標・理念があったんだろうね。自分の分身に愛情注いで、とにかくもう一生懸命なんだよ。反抗期? 爆発はしたけど、怖すぎてかなわなかったよ。

 結局母親が望んでいた医者や建築家にはならなかったけれど、僕がやることは信用していた。どんな派手な格好をしても頭ごなしに怒らず、理解しようとしていたからね。ブランドで大成功して、月100万円仕送りしていた時もあった。でも、しばらくすると負債が巨額に。そのとき僕がどん底からはい上がれたのは、母親譲りの性格のおかげだと思う。負けん気が強くて諦めない、ものすごい情熱――絶対、僕は母親から受け継いでいるね。

 僕は30代の長女に対して、ああしろこうしろとは言ってこなかった。娘は娘の人生だから。僕の母親は土足で僕の心に入ってきた部分があったけど、娘は僕の仕事や頑張りを見て育ったんじゃないかな。その点は、僕にとって母親は反面教師だね。

 娘はいまベビー服のデザイナーをしているけれど、僕とは価値観も趣味も違う。僕は上昇志向が強いけど、娘は「がっつく」ようなところがないよね。それでも、2人の子どもを育てながら型紙引いて、「よくやるな」と感心するよ。(構成・山本桐栄)