子どもが生まれてから、好きだった映画やクラシックコンサート、美術館などから足が遠のいている記者(32)。だが最近は、ママ主体で楽しめる文化・芸術イベントが増えているという。(高橋友佳理)

 赤ちゃん連れ専用の映画上映があるというので、6月上旬、埼玉県三郷市の大型ホームセンター内の映画館に行ってみた。

■映画館に遊び場

 上映が始まると、赤ちゃんが歩き回り、ぐずる声が聞こえてきた。でも、ママやパパたちはリラックスした様子。正面スクリーン前には遊び場が設けられ、映画を見ながら子どもに目を配れるようになっている。とっさの授乳やおむつ替えも外に出ずに済む。

 館内は明るめで音響も小さめだが、これまでのラインアップは「テルマエ・ロマエⅡ」や「相棒―劇場版Ⅲ―」など大人向けが多い。10カ月の息子と来た主婦の草野沙織さん(28)は「堂々と見られてリフレッシュできました」。

 「映画館に行けない、映画好きなママにとっての暗黒時代を変えたかった」と、企画した松竹マルチプレックスシアターズの山縣(やまがた)勇さん(40)。2006年、地域の子育て支援団体から「子連れで集える映画館を」と要望を受け試験的に始めた。「採算が取れないのでは」と社内で批判も出たが、09年に「ほっとママシネマ」としてスタートさせた。今では全国の22劇場で毎月最低1回上映会を開き、人気作は予約開始日に席が埋まる。

 本格的なクラシック音楽を味わう望みもかなうのだろうか。4月中旬、東京・渋谷の「ミュージックサロンエスプリ」で、赤ちゃんも入場できる音楽会が開かれた。2歳の娘を連れた記者は、高校はオーケストラ部、大学はピアノサークルと音楽好きだったが、出産後は初のコンサート。子どもを預けてまで行くのは後ろめたい気がして、これまで遠ざかっていた。

 おしゃれな家具や調度品に囲まれ、ビバルディの「四季」やリストの「愛の夢」などが流れる。ピアノやバイオリンの音が体に染み入り、一瞬自分がどこにいるのかを忘れた。大きな声を出した娘を反射的に「シーッ」と叱りそうになったが、白い目で見られない空気にほっとした。「非現実的なひとときを楽しんで欲しい」と、発案したバイオリニストの國吉紫苑(しおん)さん(32)は話す。

■主催者側の意識も変化

 子育てママに注目してこなかった主催者側にも変化がみられる。

 普段は中高年の来館者が多いという東京・上野の東京都美術館。19日に始まる「メトロポリタン美術館 古代エジプト展 女王と女神」は、若い大人の女性がターゲットだ。女神像や装身具など美をテーマにした展示だが、子連れで来やすいよう、子ども向けの「ジュニアガイド」や、お絵かきボードを用意。「幼い頃から美術に親しめば大きくなっても来てくれるはず」と担当者は期待する。同館は4月、託児できる「パパママデー」も導入した。

 イベントでの託児を請け負う「マザーズ」によると、同社が手がけるものだけでも現在、歌舞伎座や国立劇場、コンサートなど全国で毎月約100回、託児サービスが設けられている。費用のほとんどを主催者が負担するため、利用料は割安だ。同社の二宮可子(よりこ)社長によると、以前は主催者に託児サービスを提案すると「公演に来たかったらガキを産むな」と追い返されたこともあったという。「今は、サービス整備にお金をかけても、ママに安心して来てもらおうと主催者側の意識が変わってきた。母親も一人の大人の女性で、文化に触れる機会は大切だ」

 海外の子育てに詳しい佐藤淑子(よしこ)・鎌倉女子大教授は「英国では、子どもを預けての夫婦旅行も見られ、母親が子どもを優先させる時と自分を優先させる時のバランスをうまくとっている。ようやく日本の社会も母親個人の部分を尊重するようになった兆しといえる」と話す。

     ◇

●「ほっとママシネマ」はママ1人1200円で、隣に3歳未満の赤ちゃん席(無料)が確保できる。webサイトからの予約制。

●TOHOシネマズも全国各地で、毎月1~2回木曜日に赤ちゃんと一緒に入れる「ママズクラブシアター」を実施。大人は通常料金、0~2歳は基本無料

●ミュージックサロンエスプリ(03・6455・0190)の「ファミリーコンサート」、次回は8月3日に東京・渋谷で。

●「マザーズ」のイベント時の託児は利用料金が1回平均1千~3千円。詳細は同社HP(http://www.mothers-inc.co.jp/)