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 子どもの声がうるさいと、都市部を中心に保育園と住民との間でトラブルが絶えません。解決のヒントはどこに隠れているのでしょうか。入園の季節を前に、考えてみました。

 参考になる取り組みがきっとあるはず。2011年に園を開設する前、近隣住民から建設反対の声が上がったものの、理解が深まった東京・世田谷の認可保育所を記者が訪ねてみた。

 「お先にどうぞ」。園児15人を連れた保育士が、高齢の夫婦に声をかける。園児も足を止めて道を譲った。「ありがとう。今日も元気ね」。夫婦が目を細めた。保育士は「地域の人と交流するチャンス。さりげない心遣いを大切にしています」。

 建設反対の声が上がっていた当初から、園は協議を重ねた。9カ月に計7回。住民は多いときには27人が参加した。園長だった栗田怜子さん(67)は「住民の方は地域の先輩。住民の立場ならと考えると気持ちもわかる。子どもをのびのび遊ばせる方針は主張し、率直な意見も聞きました」と話す。

■地道な配慮重ね

 保護者の路上駐車や話し声、指導する保育士の声や笛の音など「大人の配慮」で解決できる部分は大きい。園は住民と一緒にルールを決めた。車での送迎禁止、自転車は園の敷地内に止める、顔見知りになるよう地域の行事には園児も職員も参加する――。

 地道な工夫を重ね、交流が深まってきた。近くに住む梅津政之輔さん(84)は当初、公園の予定地が保育園になると聞き、面食らった。「騒音を心配する周りの声もありました」。それが今では、自宅で飼うオタマジャクシを見に、園児が喜んで訪れる。保育士との散歩中、園児がトイレを借りることもある。「『カエルおじさん』と呼ばれています」と笑う。

■人間関係の問題

 園の近くには「3月完成予定」の看板が掲げられた建設中の別の保育園も。昨年4月時点で全国最多の1109人の待機児童がいる世田谷区。区内では14年度で15園増える予定だ。子どもの声や音が響くのは保育園に限らないが、学校などと違い、少子化でも増設が進む保育園は、地域の新参者として疎まれ、「騒音」が社会問題化するという背景がある。騒音問題に詳しい八戸工業大大学院の橋本典久教授は「騒音トラブルのほとんどは、人間関係に関わる心理的影響が原因。感情的しこりや敵意を取り除く必要がある」と話す。

 記者が取材した、都内の他の園では、地域の理解に悩む声が聞かれた。園庭を使うのは2時間まで、歓声が上がるボール遊びは禁止、ぬき足さし足……と物音を立てない忍者ごっこがはやりという。注意されないよう、園庭で声をひそめる姿は無理に背伸びさせられているようで切なくなった。保育士は「環境が変わる春が大変」と言う。普段よりはしゃいだり、慣れずに泣いたりする子が増えるからだ。でも、それも大切な成長の過程。大人がぶつかり合っているだけでは悲しいと感じた。(川口敦子)

 〈今月のWORD〉保育園の「騒音」問題

 待機児童対策で保育園の増設が急がれる一方、住民から「騒音」と指摘され社会問題となっている。各地で住民による訴訟も相次ぐ。騒音規制の対象を「何人(なんぴと)も」とする東京都の条例が引き合いに出される例もあり、都は就学前児童の声を規制対象から外す改正案を2月議会に提出する方針だ。