写真・図版

 結婚すると女性が名字を変えるケースがほとんどです。でもなぜ。「夫婦同姓」にしなければならないことが憲法に違反するかどうかを、最高裁判所が判断することになりました。近い将来、夫婦の姓の選択肢が広がるかもしれません。

 「これからは旧姓を使います」

 神奈川県の40代の女性は5年ほど前、結婚前の姓を名乗ると友人や親に宣言した。

 離婚したわけでも、夫婦仲が悪くなったわけでもない。子どもの頃から、結婚しても名前を変えたくなかった。男の兄弟がなく、「名前を変えると、親や祖父母が寂しそう」とも思った。でも、結婚すると、女性が改姓することが「当たり前」になっている。言い出すことさえ許されない空気を感じ、夫の姓に合わせた。

 宣言後、夫も理解してくれ、旧姓で呼んでくれるママ友もいる。「夫の姓で呼ばれるたびに、自分が消えていく思いがして。同じ思いの人は、たくさんいると思います」

■フェイスブック、旧姓派も

 そもそもなぜ、結婚すると同じ姓になるのだろうか。

 日本の民法で、夫婦の姓は同一と決められているからだ。もともと、姓は武士など特権階級のものだった。庶民が姓を名乗ることになったのは、明治時代から。戸主が家を統制し、夫が妻より優位に立つ「家制度」もできて、「家に入る=夫の姓を名乗る」ことが慣習になった。戦後は、新しい民法が定められたが、夫婦同姓の原則は変わらなかった。

 ただ、今の民法では、夫と妻どちらの姓を選んでもいい。それでも、家制度の名残から、夫婦の96%が夫の姓を選んでいるのが現実だ。結婚届を出す際、ほとんどのケースで、妻がこれまで慣れ親しんだ姓を変えていることになる。

 姓を変えることで、仕事や生活上の不都合もある。姓の変更手続きが大変だったり、せっかく取引先に名前を覚えてもらったのに、名刺が変わったり……。

 結婚後に旧姓を通称として使う女性も増えてきたが、パスポートは戸籍名のため、海外で仕事をするときには不便だ。運転免許証や健康保険証は戸籍名になるため、本人確認のために提示を求められたときに困ることもある。

 結婚届を出さない事実婚なら、改姓しなくてもいい。が、お互いに相続ができなかったり、税金の配偶者控除が受けられなかったりする。子どもがいる場合は、どちらかが親権を持てなくなる。生命保険の受取人や、住宅ローンの連帯保証人にもなりにくい。

 こんな調査もある。

 オウチーノ総研が2013年、60歳未満の既婚男女にインターネットで調査したところ、20代既婚女性の42%が、フェイスブックに旧姓を登録していた。理由は、「学生時代の友人などと再会するときに、名字が変わっていると相手に分かってもらえない可能性があるため」という。

■最高裁が判断

 希望すれば、結婚後も夫婦が別姓を選べるような制度の導入案は、1996年に公表されている。民法改正案もつくられ、2009年の民主党への政権交代後には、国会に提出する一歩手前までいった。が、「家族が崩壊する」と、保守系議員からは反対の声が上がった。「夫婦別姓を認めると、親子が別の姓になりよくない」という意見も根強い。

 国会の審議が進まない一方で、最高裁で審理されることが決まった。夫婦別姓を認めない規定が憲法に違反すると判断されれば、国会で法改正され、夫婦の姓の選択肢が広がる可能性がある。

 香川県丸亀市のプロブロガー矢野洋介さん(39)は、戸籍上は妻の姓だが、普段は旧姓を使っている。小学生と幼稚園児の子ども3人は妻の姓を名乗り、自身は子どものPTA名簿にも旧姓の「矢野」で載せている。

 世界には結婚しても名字を変えなくてもいい国がたくさんある。そう子どもたちには伝えている。子どもたちは自然に受け入れ、親子の関係は変わらないという。矢野さん自身、小さい頃から母方の祖母も一緒の家で暮らしていた。「名字の違う祖母も私にとっては同じ大切な家族でした。名字が違うことと、家族の結びつきとは関係ありません」

 あなたは、どう思いますか?(杉原里美、田中陽子)

     ◇

〈今月のWORD〉夫婦別姓めぐる憲法判断

 夫婦に同姓を強制していること、女性にのみ再婚禁止期間があることで不利益を受けたとして国を訴えた二つの訴訟が2月、最高裁の大法廷で審理されることに決まった。判決はまだ先だが、夫婦別姓を認めない民法の規定が合憲か違憲か初めて判断するとみられ、注目されている。