「まぼろし」と呼ばれる流し屋台が残暑の中、福岡市の街角を巡っている。わらび餅を売る「博多一番太鼓」。かつては博多の夏の風物詩だったが、今では引き手は1人だけになった。歩くコースも一定でなく、なかなか出会えない「まぼろし」を、多くのファンが心待ちにしている。
JR博多駅そばのオフィス街。昼食時、チン、チリリーン……という年季の入った真鍮(しんちゅう)の鐘の音を響かせて、屋台が現れた。
屋台を引くのは長尾重明さん(61)。一角に止めると、すぐに会社員らの行列ができた。「鐘が聞こえたから、うれしくて走ってきた。なかなか会えないもんね」。女性(36)が息を切らしながら注文した。「わざといないわけじゃないんだけどね」と長尾さん。「待って〜」と追いかけてくる客もいた。