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ロンドン五輪のメーン会場、オリンピックパーク最寄り駅の商業施設前でボルトがにらみをきかせていた。もちろん本人ではない。手にクレジットカードを持った広告だ。
閉幕を迎える前に、期間中見てきた五輪と企業の関係を考えたい。
スポンサー企業は協賛金と引き換えに、五輪ロゴや映像を広告宣伝に使える権利が与えられる。国際的に活動できる最上位のスポンサーは「The Olympic Partner」の頭文字をとって「TOP」と呼ばれ、現在11社。コカ・コーラ、マクドナルド、エイサー、アトス、ダウ・ケミカル、ゼネラル・エレクトリック(GE)、オメガ、P&G、ビザ、サムスン電子、そして日本から唯一参加のパナソニックだ。
1業種1社が原則だが、扱う商品群ごとに、例えば映像機器はパナソニック、無線通信機器はサムスンなどすみ分けている。
五輪会場でスポンサーは守られる。場内の売店や自動販売機はすべてコカ・コーラ社の飲料。買い物のカード決済はビザカードのみという徹底ぶりだ。
ここまでやると、逆にスポンサーへの風当たりも強い。「排他的では」という質問が、五輪組織委員会が絡む記者会見でたびたび出た。これに対して「スポンサーの協力がなければ大会は成り立たない」というのが定型の答え。協賛金は大会運営費の半分を占める。
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スポンサーが五輪に協賛する最大の理由はブランド力の向上だ。世界中から人や企業が集まる場は、企業にすれば巨大なショーケース。商品の採用実績や、平和の祭典への貢献そのものでイメージアップを図る。
街中を歩くと、ビザカードやマクドナルド、サムスン電子の広告が目立った。
今大会からTOP参加のP&Gは「アスリートの母親を応援する」がコンセプト。扱う製品は洗剤や紙おむつなどスポーツと直接関係ないが、購買層である母親への訴求力を重視した。五輪選手を育てるぐらい頑張る母親はうちの製品を使ってね――というわけだ。
今大会、パナソニックは過去最大規模のテレビやディスプレーを納入した。パーク内に大型3Dテレビの視聴施設もつくり人気を呼んだ。「五輪の年の商戦は他社より優位に進めてきた」(マーケティング担当者)という効果を今年も期待する。
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とはいえ、大会ごとに1社100億円規模とされる協賛金は安くはない。昨年度の巨額な赤字から人員削減に追い込まれたパナソニックが、ここまでする意義はあるのか。2016年のリオ五輪までTOP契約しているが、契約締結は2007年。リーマン・ショックで業績が暗転する前だ。
世界的な不況が続く中で、企業が重い協賛金を払い続けるほどの意味が今後も五輪にあるだろうか。そう考えていたら、もう一つ五輪に企業が関わる理由を耳にした。
過去の大会で公式サプライヤーとして計測機器を納入した実績のあるセイコーホールディングス。広報担当者は「五輪はメーカーの技術力向上の一つの動機になる」と話す。同社は1964年の東京五輪用にクオーツ時計を開発。その技術で69年、世界初のクオーツ式腕時計を市販した。
今大会はオメガがその役割を担った。やはり新しい技術で陸上のスターティングブロックや水泳の計測機器を用意した。
そういえば、パナソニックも今回、大会側から開閉会式向けに超高輝度のプロジェクター(映写機)を求められ、技術開発陣が奮闘したという。4年ごとの大会が、日本の技術革新を後押ししてきたのか。
まもなく閉会式が始まる。日本の技術が大会の締めくくりをどう演出するのか。パソコンを閉じてそのときを待つことにする。(和気真也)