昨年末にこのコラムで「2012年にはロンドンに新型の『ルートマスター(二階建てバス)』が登場する予定」とご紹介したのを覚えていらっしゃるだろうか(12/28付のコラム)。
この原稿を書いている今日、その新型バスの第一号車が、予定より一週間遅れて始動したというニュースが流れた。
本当なら、先週これに乗車して、今回の原稿はいち早く新型バスのレポートを、と考えていたのだが、さすがイギリス。
案の定(!)発表されていた予定は予定でしかなかった。実は、先週月曜の朝、新型バスの発着駅、ヴィクトリアにいそいそとでかけたのに、係の人に「そのバスはまだ人を乗せて走れるようになっていない」とつれなく言われてしまったのだった。
新型バスについては、乗車がかなったらぜひその体験をお伝えしたいと思っているが、かわりに今回は、観光名物ともなっている旧型のルートマスターをご紹介しよう。
ルートマスターは、赤い二階建てバスの中でも、1950年代後半から60年代に生産された、車両の後方にだけ乗降口があり、扉がついていないタイプのもの。車掌が同乗して切符の販売、検札をするのが特徴だった。
安全性や、排出ガス規制等の問題があるとして、2005年の12月ですべての路線で廃止されたのだが、ロンドン名物であるこのバスの復活を望む声が多く、現在は「ヘリテージ・ルートマスター・サービス(Heritage Routemaster services)」として2路線が運行されている。
乗ったのは15番のルート。バス停は観光名所トラファルガー・スクエアの名前がついているが、チャリング・クロスという駅を目安に行くとその近くに見つけられる。15番をつけているバスすべてが旧型ルートマスターではなく、中には新型の二階建てバスもやってくるので、お目当てのルートマスターに乗るには、バス停で少し待つことを覚悟しておいたほうがよいだろう。
さて、バスがやってきた。
ロンドンに住み始めてすぐの頃は、まだルートマスター廃止前で、乗るチャンスも頻繁にあった。ところが、考えてみたらここ数年、この懐かしい旧型バスにはまったく乗っていない。乗降口に立つ車掌さんの姿を見るのも久しぶり。「ハロー」と言って、とりあえず二階へと階段をのぼる。
一番前に座りたいところだったが、アメリカ人らしき観光グループに先をこされてしまった。二階に上がって来たのは、ほかも皆、観光客ばかりのようだ。
「ディン、ディン」という発車合図のベルの音を聞くと、妙になつかしい気持ちになって、まるで遠足気分。
サヴォイ・ホテル、サマセット・ハウスを右手に見つつ、いくつかの劇場なども通りすぎた頃、車掌さんが上がってきた。検札にやってきたのだ。以前、ルートマスターを利用していた頃には、プリペイドの「オイスターカード」などというものはなかったのだが、今はもちろんこのカードが使用可能。車掌さんが手にしているカードリーダーに当てれば、運賃の支払いは完了。お互いに「サンキュー」といいあう。
前の観光客はお互いにバスの中で写真を撮り合っている。残念ながら外は雨で、景色がそれほどよく見えるわけではないのだが、二階から見下ろす雨のロンドンは、やはり絵になる――そんなことを思っていたら、セント・ポール大聖堂のドームが見えて来た。
バスの行き先は、ロンドン塔に近い「タワー・ヒル(Tower Hill)」となっていたが、セント・ポール大聖堂の一角で繰り広げられている「オキュパイ・ロンドン(Occupy London)」がその後、どういう状況になっているか確かめたくて、次のバス停で降りることにした。
雨が思いのほか強くなっていて、傘を持っていなかったので、しばらくセント・ポール大聖堂の中で雨宿りするはめになった。でも、こんな場所で雨宿りさせてもらえるのもロンドンならでは、悪くない時間だ。
料金については、今回、オイスターカードを使用したので1.35ポンドだったが、このカードを持っていない場合には、事前にバス停の券売機でチケットを購入する必要がある(2.30ポンド)。または、一定区間内の地下鉄、バス、電車に乗り放題となる1日乗車券や7日間有効の乗車券を持っている場合には、それらが使用可能だ。
15番以外に、同じくトラファルガー・スクエアから出発して、ハイド・パーク・コーナーやナイツブリッジなどを通ってケンジントンまで行く9番のルートにもこの旧型ルートマスターが走っている。こちらは、ハロッズにお土産ショッピングに出かけるついでに乗ってみるのがいいかもしれない。
新型バスも楽しみではあるが、歴史ある建物の間を通り抜けるのにはレトロなルートマスターがやっぱりよく似合う。いつかこのヘリテージ・ルートマスターが廃止される日が来ないとも限らないので、今のうちにもっと乗っておきたいと思う。