現在位置:
  1. 朝日新聞デジタル
  2. ロンドンオリンピック2012
  3. コラム
  4. London Journal
  5. 記事
2012年3月29日
このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

運河をめぐる「チーズ・ボート」

文と写真:マクギネス真美

写真:購入したチーズ。ワックスで覆われているので、そのままで約6カ月の保存が可能。黒いのがチェダーチーズ。手前の二つはそれぞれ、サンドライドトマトと、リーク(ポロ葱)と白ワインが入っていて、クリーミーでこくがあり、どれもワインがすすむ拡大購入したチーズ。ワックスで覆われているので、そのままで約6カ月の保存が可能。黒いのがチェダーチーズ。手前の二つはそれぞれ、サンドライドトマトと、リーク(ポロ葱)と白ワインが入っていて、クリーミーでこくがあり、どれもワインがすすむ

写真:オーナーのマイケルさん。フレンドリーな人柄がお客さんをひきつける拡大オーナーのマイケルさん。フレンドリーな人柄がお客さんをひきつける

写真:試食できるチーズは7種類。それぞれに違う風味、おいしさがあって迷う拡大試食できるチーズは7種類。それぞれに違う風味、おいしさがあって迷う

写真:家族揃って「はい、チーズ」。船内にいるのがジェラルディーンさん拡大家族揃って「はい、チーズ」。船内にいるのがジェラルディーンさん

写真:ウェルシュ(ウェールズ産)チーズに特化したのは、マーケティング力にすぐれたジェラルディーンさんの発案拡大ウェルシュ(ウェールズ産)チーズに特化したのは、マーケティング力にすぐれたジェラルディーンさんの発案

写真:ナローボート。名前の通り幅の狭さが特徴拡大ナローボート。名前の通り幅の狭さが特徴

写真:ロンドンの運河。ナローボートを眺めながらの散歩がおすすめ拡大ロンドンの運河。ナローボートを眺めながらの散歩がおすすめ

 日本人にとってチーズといえば、フランスやスイス、オランダなどがまず思い浮かぶかもしれないが、イギリスにも、国内約90%の家庭で食べられているという国民的人気のチェダーチーズや、世界三大ブルーチーズのひとつといわれるスティルトンチーズなど、おいしいナチュラルチーズがたくさんある。

 クセになるので食べ過ぎには注意だが、ロンドンに来てチーズを食べることなく帰ってしまうのはもったいない。

 チーズはスーパーなどでもたくさんの種類が並んでいるが、先週末、珍しいチーズ・ショップを取材した。ナローボート(Narrow Boat)と呼ばれる、運河で利用される、幅が狭くて細長いボート上でチーズを販売している「チーズ・ボート(Cheese Boat)」だ。

販売するチーズは「ウェールズ産のみ」

 ボートのあるじは、マイケルさん、ジェラルディーンさんご夫妻。65フィート(約20m)の長さのナローボートは、黒い船体が遠くからもよく目立つ。

 試食用に並べられていた7種類のチーズをひととおり味見させてもらってから、お客さんたちへの応対の合間をぬってマイケルさんにお話を聞いた。

「ボートでの暮らしはもう16年、チーズを販売するようになって6年だよ」

 もともとは海洋電気技師をしていたマイケルさんだが、腰をはじめ体の各所に故障がでてきたため、仕事を続けるのが難しくなってしまった。そこで、ボートでの暮らしを続けながらできるビジネスはないかとジェラルディーンさんがリサーチし、船上でチーズを販売することを思いついたのだという。

 「最初に仕入れた50個のチーズは一日で売り切れてしまった。それで、これならうまくいく、って思ったんだ」

 販売しているのは、二つの製造元から仕入れているチーズで、どちらもウェールズ産。 「どうしてウェールズのチーズだけで、イングリッシュはないの?」と聞くとイングランドのチーズメーカーからは異論がありそうだが「だって、ウェルシュのチーズがベストだから」との明快な答え。

ベッドやトイレ、冷蔵庫は8個も

 「船で暮らすのは楽しい?」と聞くと、船内にいて、チーズを購入した人の会計をしているジェラルディーンさんが「とっても快適。わたしは障がいがあるけれど、ここで楽しく暮らしている。ベッドもトイレもテレビも船の中にあって、なんでも揃っているしね」と答える。

 生活に必要なもの以外にも、船の中にはチーズを保管しておく冷蔵庫を8個も完備しているという。もともと海洋電気技師のマイケルさんにとっては、たくさんの冷蔵庫をボートに設置し、維持するのは難しいことではないのだそうだ。

 「冷蔵庫は、船のエンジンからの動力による電気を使っているから、環境を壊す心配もないし」

 ボート所有のライセンス、保険、食品を販売する許可が必要で、船体のチェックの義務はあるが、同じ場所にずっととどまらず、移動している限りは住民税のような税金を支払う必要はなく「この生活をずっと続けていきたい」と言う。

 ふたりの様子を見ていると、ナローボートが好きで、チーズが好きで、人が好き、だからこの暮らしをしているんだろう、と感じられる。そして、イギリスにはこんな風にボートで暮らしている人たちが少なからずいるのだ、と思うと、なぜかちょっとうれしくなった。

 お客さんが増えてきたので、迷惑になってはいけないし、チーズを買ってそろそろ帰ろうと「おすすめはどれ?」と聞くと「オーガニックのチーズ、中でもリーク(ポロネギ)と白ワインのものがとろけるようにおいしいよ」とのことなので、まずはそれをお願いする。それと、ワインによくあう、といわれたサンドライトマトと白ワインのオーガニックチーズ。そして、一番人気の「リトル・ブラック・ボンバー(Little Black Bomber)」という名前がついたチェダーチーズの3つを買うことにした。値段は、ひとつなら3.75ポンド、3つで10ポンドだ。

ロンドンの運河沿いは隠れた観光名所

 今回インタビューをしたのは、ロンドンの「リージェンツ・カナル」という運河でのこと。先週末、イギリスで発行されている新聞「ザ・ガーディアン(The Guardian)」本社ビルで「オープン・ウィークエンド」が開催され、運河に面した場所にオフィスがあるこの新聞社のイベントに、彼らが招待されていたのだ。

 普段はバーミンガムあたりを中心に巡っているという彼らは、このボートでロンドンに来たのは初めてだという。

 「チーズ・ボート」は、残念ながら今年はロンドンに戻ってくる予定はないとのことだが、彼らのウェブサイトでは、現在どこにボートがいるかを知ることができるので、興味を持った方は、訪ねてみてほしい。

 実際、彼らの販売しているチーズはもちろん、フレンドリーな彼らの人柄にひかれた顧客の中にはサイトで彼らの居場所を確認して、わざわざチーズを買いに車でやって来てくれる人もいるそうだ。

 ところで、数多くのナローボートを見ることができる運河は、ロンドンの隠れた見どころのひとつ。特に春から秋、周りの緑や自然が美しい時期の運河脇の歩道、トウパス(Towpath)の散歩はおすすめだ。オリンピックを控え、運河沿いでリラックスしたロンドンの雰囲気を味わってもらいたい、とイベントやアートのプロジェクトなども多数すすめられているので、ロンドンを訪れた際には、ぜひ時間をとってカナル巡りをしてみてはどうだろう。

データ

The Cheese Boatのサイト
Where are we now?のページで彼らのボートの現在位置がわかる。
英国の運河、川等、水路に関するサイト”Waterscape”
ロンドンの運河についての情報がダウンロードできる

プロフィール

マクギネス真美さん プロフィール画像

マクギネス真美(まくぎねす・まみ)
9年半の雑誌編集者時代を経て2003年渡英。共著『ハッピーハッピーロンドン』(双葉社)。「ダ・ヴィンチ電子ナビ」では電子書籍のレビューをしている。辛抱を強いられる公共交通機関、街中のおかしな看板や不思議な食べ物など「イギリスの実態」を、おもしろ画像とともに自身のウエブサイトでレポート。最新情報はツイッターでもつぶやいています。
検索フォーム

朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介

写真

朝刊カレンダー

        26 27 28
29 30 31 8/1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13          
朝日新聞社 アサヒ・コム ロンドンオリンピックTwitter(ツイッター)アカウント朝日新聞社 アサヒ・コム ロンドンオリンピックTwitter(ツイッター)アカウント
ドコモポイントコース