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2012年7月5日
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丸くてモダン ロンドンの新2階建てバスに乗る

文と写真:マクギネス真美

写真:ほかのバスに比べると、ずいぶん丸みをおびている新型ルートマスター拡大ほかのバスに比べると、ずいぶん丸みをおびている新型ルートマスター

写真:後ろのドアは午後10時以降は閉まり、車掌も乗車しないという拡大後ろのドアは午後10時以降は閉まり、車掌も乗車しないという

写真:2階最前列からは景色がよく見える。このルートは日本領事館の前も通る拡大2階最前列からは景色がよく見える。このルートは日本領事館の前も通る

写真:ヌニェスさんみたいな人が車掌さんならバスに乗るのも楽しい拡大ヌニェスさんみたいな人が車掌さんならバスに乗るのも楽しい

写真:安全確認を終え、発車していい、という時に押すボタン拡大安全確認を終え、発車していい、という時に押すボタン

写真:2階部分の天井は、背の高い男性は中腰にならないと頭がつかえてしまう拡大2階部分の天井は、背の高い男性は中腰にならないと頭がつかえてしまう

写真:シート用のモケット生地は、赤とグレーで、ちょっと目がくらみそうなデザイン拡大シート用のモケット生地は、赤とグレーで、ちょっと目がくらみそうなデザイン

 ヴィクトリア(Victoria)駅のバス乗り場。目的の新型2階建てバス、38番をつけた「ルートマスター」が今にも発車するところだった。バス停手前の横断歩道を走って渡りながら「ちょっと待って〜」というつもりで手を挙げると、運転手さんが小さくうなずいて、待ってくれた。

 ありがたい。というのも、2月末に第1号が登場したこの新型ルートマスターは、オリンピックまでに8台が営業になるというが、今はまだ4台のみ。これを逃すと、いつ、次の新型バスに乗れるかわからないのだ。

 あわてて乗り込み、カード読み取り機に、オイスターカードをあてる。料金は1.35ポンド。

二度目の挑戦

 後方に向かって歩くと、見覚えのある車掌さんが笑顔でこちらを向いている。そういえば、この間乗ったときもこの人だった。彼の方も覚えてくれていたらしく「確かこの間も乗ってきたよね」と言われた。

 そう、実は、この新型バスには先週も乗車したのだ。その時には、ヴィクトリア駅から終点のハックニー・セントラル(Hackney Central)まで、約1時間の道のりを、2階最前列に座って過ごした。

 広く取られた窓から見下ろすロンドンの景色を、観光気分で楽しんだのだが、バスがかなり込み合っていて、席を移動することができず、1階の様子をゆっくり見ることができなかった。今回は下の階に座って、このバスを観察しようというわけだ。

 幸いなことに1階に座ったお客さんは2人きり。おかげで、隙(すき)を見ては車掌さんに話しをうかがうことができた。

運転手と車掌は交代で

 「この新しいバスの評判はいいですよ。みんな、好きだっていってくれる。今まで嫌いだって言った人はいない。大人も子どももね。もちろん、わたしも気に入っていますよ」 と、笑顔で話してくださるのは、ヌニェスさん。前回乗ったときも、そして今回も車掌をしているが、実は彼自身もれっきとしたバス運転手だそうだ。

 旧型ルートマスターでは、車掌は検札、切符の販売をするが、新型ではそうした業務は行わない。切符はプリペイドのものを使用するか、購入が必要な場合には運転手から買う。車掌は、乗客の安全確保が主な業務となる。また、新型バスでは、運転手と車掌は、交代で乗務しているという。

 「車掌と運転手、両方できるから飽きなくていいですね。ただ、いろんなお客さんと話しができるから車掌のほうが楽しいね」

 そういうヌニェスさんには、確かに、さきほどから何人もの乗客が声をかけていた。

お客さんとの会話がはずむ

 「いいね、このバス。新しいし、大きいし。昔のルートマスターは大好きで、よく飛び降りしたもんだったよ」と言う男性には「このバスでもみんな飛び乗ったり、飛び降りたりしていますよ。それがこのバスの楽しみでもあるからね」と答える。

 「新型バスの評判はよくない、って聞いてたけど、大きくてきれいで気持ちいいね。以前の『ベンディー・バス(Bendy Bus)』に比べたらよっぽどいい」

 今日、初めて新型バスに乗ったという女性が話しかける。ベンディー・バスとは、以前運行していた、真ん中が蛇腹でつながれた二つの車体が連なった大型バスのこと。

 「あのバスも悪くはないけれど、ロンドン中心地のように、道が狭くて渋滞の多い場所には向かないよね」。返事をするヌニェスさんが新型バスを誇らしく思っているのがそれぞれの会話から伝わってくる。

メディアからは批判も

 実は、英国内のメディアでは、このバスへの批判も多かった。特にそれは1,130万ポンドという、高額な開発予算について向けられていた。

 ヌニェスさんによると「確かに1,130万ポンドは高いけれど、将来的にすべてのバスがこの新型になれば、1台あたりのコストはずいぶんと抑えらると聞いています。それに、このバスはとても経済的にできているんですよ」とのことらしい。窓が開けられない設計になっているので、後ろのドアが開けっ放しにも関わらず、冷暖房が完備しているのだが、それでも1台あたりにかかる運営費用としては、他のバスに比べると安くなるのだともいう。

歩道からも声がかかる

 バスは、ピカピカ、モダンな鮮紅の車体を見せつけるかのように、ロンドンでも最も観光客が集まるエリア、ピカデリーを通っていく。ここは車が大変多い一帯でもあり、専用ルートが確保されているとはいえ、バスも渋滞に巻き込まれやすく、ピカデリー・サーカスの手前ではずいぶんとのろのろ運転になってしまった。

 すると、歩道を歩いている人たちが「新しいバスだ!」とか「クールだね」と言っているのが聞こえてくる。

 信号待ちをしていた老紳士は「古いルートマスターのほうがいいね。こんなモダンなのはダメだ」と笑いながらヌニェスさんに声をかける。ヌニェスさんも笑いながら「乗ってみると気持ちいいよ、一度乗ってみてください」と応える。

 今度は2人の少年が「テスコ(英国内の大手スーパー)どこにあるか知ってる?」と大きな声で質問してきた。

 「えーと、そこの信号を右に曲がってすこし行ったところにあったと思うよ」「サンキュー」――こんなやりとりが車掌と、バスに乗っていない通行人と交わされるのは、やはりこの、車掌さんが乗っていて、かつ、飛び乗り降りができるルートマスターならでは。聞いているこちらも自然に、にやりとしてしまう。

 こうした会話をずっと聞いていたい気もするが、渋滞がひどくなって、次の予定に遅れそうになったので、今回は終点までは行かずに、チャリング・クロス・ロードのあたりでバスを飛び降りた。ヌニェスさんにお礼を言い”Have a nice day!”と手を振って。

五輪期間中のスト?

 さて、ロンドンのバスと言えば、経営側と労働者との間で、オリンピック中のボーナス500ポンドを巡っての交渉がうまくまとまらず、先日、バスのストライキが行われた。

 いまだに話し合いはついておらず、最悪の事態となれば、オリンピック時のストもありえる、とも言われている。

 新型バスを楽しみにロンドンに来た人たちが、ストのせいで乗れなかった、などということにならないとよいのだが…。

プロフィール

マクギネス真美さん プロフィール画像

マクギネス真美(まくぎねす・まみ)
9年半の雑誌編集者時代を経て2003年渡英。共著『ハッピーハッピーロンドン』(双葉社)。「ダ・ヴィンチ電子ナビ」では電子書籍のレビューをしている。辛抱を強いられる公共交通機関、街中のおかしな看板や不思議な食べ物など「イギリスの実態」を、おもしろ画像とともに自身のウエブサイトでレポート。最新情報はツイッターでもつぶやいています。
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