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2012年7月12日
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現代のダ・ヴィンチ?ヘザウィックの特別展をV&Aで楽しむ

文と写真:マクギネス真美

写真:ヴィクトリア&アルバート博物館の正面玄関。設置されている天蓋(てんがい)も、ヘザウィック・スタジオによるデザイン拡大ヴィクトリア&アルバート博物館の正面玄関。設置されている天蓋(てんがい)も、ヘザウィック・スタジオによるデザイン

写真:会場入り口で一人一枚ずつもらうことのできるリーフレット。とっ手を回すと紙がぐるぐる出てくるのが楽しい拡大会場入り口で一人一枚ずつもらうことのできるリーフレット。とっ手を回すと紙がぐるぐる出てくるのが楽しい

写真:会場全体。左奥に見える赤が新型バス=ヴィクトリア&アルバート博物館提供 © V&A Images拡大会場全体。左奥に見える赤が新型バス=ヴィクトリア&アルバート博物館提供 © V&A Images

写真:回転する橋はパディントンにある。6年前に筆者が見に行った時には、残念ながら巻き上がる様子を見ることはできなかったが…=ヴィクトリア&アルバート博物館提供 Rolling Bridge, Paddington Basin London2004 © Steve Speller V&A Museum拡大回転する橋はパディントンにある。6年前に筆者が見に行った時には、残念ながら巻き上がる様子を見ることはできなかったが…=ヴィクトリア&アルバート博物館提供 Rolling Bridge, Paddington Basin London2004 © Steve Speller V&A Museum

写真:展覧会では、実際のスタジオをのぞいているような気分になれる=ヴィクトリア&アルバート博物館提供 © V&A Images拡大展覧会では、実際のスタジオをのぞいているような気分になれる=ヴィクトリア&アルバート博物館提供 © V&A Images

写真:セント・ポール大聖堂の側、パタノスター・スクエアにあるヴェンツ拡大セント・ポール大聖堂の側、パタノスター・スクエアにあるヴェンツ

写真:展覧会を見たら、ぜひ座ってみてほしいSpun Chair(スパン・チェアー)。ARAMから販売されており、購入も可能拡大展覧会を見たら、ぜひ座ってみてほしいSpun Chair(スパン・チェアー)。ARAMから販売されており、購入も可能

 前回ご紹介した新型の2階建てバス、ルートマスターをデザインしたのは、トーマス・ヘザウィック(Thomas Heatherwick)氏。テレンス・コンラン卿から「現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ」と称されたという、ロンドン生まれのデザイナーだ。

 現在、ヴィクトリア&アルバート博物館で、彼の率いるヘザウィック・スタジオ(Heatherwick Studio)の展覧会”Designing the Extraordinary”が開催されている。ヘザウィック・スタジオにとって初めての大規模な個展会場には、ルートマスターの展示もあるというので、新型バスへの乗車体験を終えた後、出かけてみた。

まずは、いすに座って…

 博物館のグランド・エントランスを入ると、ホールの中心にある案内所とチケット売り場の左手に、普段は見かけない、独楽(こま)のような、すり鉢のような形をしたいすがいくつも置かれていた。人々がかわるがわる腰かけては、笑い声をあげている。

 「確かこれはヘザウィックのデザインだったような…」

 説明を受けるまでもなく、思い出した。そして、チケット購入に並ぶ前に、家族連れが去った後にひとつ空いていた椅子に座ってみた。周りを見回すと、皆、いすに体を埋め込むようにして、背中をしっかりと後ろにもたせかけ、ぐるぐると回っている。でも、体をぜんぶ預けてしまうのがどうしても不安で、結局、このときは「起き上がり小法師(こぼし)」のように、前後に何度か揺られるだけで立ってしまった。

巻き紙のリーフレット?

 チケットを買うのに並んだのは約10分ほど。土曜日とはいえ、午前中だったので、それほど混み合っておらず、すんなり入場できそうだ。

 会場は、広大なこの博物館全体の敷地を考えると、決して広くはない。入り口から、展覧会場全体が見渡せる。ただぐるっと歩いて回るだけなら、5分くらいですんでしまいそうな大きさだ。お目当てのバスは、車体の後部の実物大モデルが会場の左奥にあるのが見える。

 会場入り口でチケットを係員に渡すと、左側にある大きな機械から、展覧会についてのリーフレットを取るように言われる。とっ手をゆっくり回すと、大きな輪転機のようなものから、紙が出てきた。「ここで切り取る」というピンクの破線のところで切り取れば、1mほどの細長いリーフレットの出来上がり。会場に入る前にこういう仕掛けをしているところが、さすがヘザウィックだ。こんなふうに、ちょっと普通と違ったことをやってみせるのは、自分の才能(アイデア)を誇示するため、というよりは、見に来た人を楽しませようとするサービス精神の現れ、と感じたが、どうだろう。

「革新的」3Dデザイナー

 トーマス・ヘザウィックという名前を知ったのは、2006年にBBCで放送されたドキュメンタリーだった。そろそろ寝ようかと思っていた深夜、たまたまテレビに映し出された、くるりと曲がって丸くなってしまう橋や、ガラスで橋を作る実験などを見て、その大胆なアイデアの数々に、テレビの画面から目が離せなくなったのを覚えている。彼が「革新的」3Dデザイナーなどと呼ばれていることも、そのとき知った。

 ヘザウィック・スタジオが手がける仕事は、建築物や店舗のデザイン・装飾、オブジェなど、規模の大きなものが多いので、展示されているのは、それらのデザイン画や設計図、模型、試作品、そして完成したものの写真やビデオだ。それらが、会場に所狭しと並んでいる。

 2010年の上海万博でのイギリス館「種の聖殿」に6万本以上が使用されたという、ひとつひとつの先に種が埋め込まれたアクリルの棒。14万2千個のガラス玉をビルの吹き抜け部分に吊り下げて作ったオブジェ。展示されている一部のパーツと、それに添えられた解説や、デザイン画、設計図を見ながらそれぞれの実物を頭の中で描いてみるのは結構楽しい。もちろん、実物を見られるほうがいいには違いないのだが。

 また、こうした壮大な作品に加えて、17年間に渡り、スタジオオリジナルで作っていた歴代のクリスマスカードというのも目をひいた。お世話になった人たちに、アイデアをこらしたものを作って送っていたということで「カードは平面」という既成概念にとらわれない3Dのものや、何枚もの切手でクリスマスツリーを模したデザインのものなど、これならもしかしたら真似できそう、という感じが、他の作品とはちょっと異なる趣を出していた。

ディテールへのこだわり

 さて、お目当ての新型ルートマスターはといえば、人々が飛び乗り、飛び降りができる、後部車両部分が展示されていた。窓が斜めになっているのは、2階につながる階段が外からも見えるようにするため、だとか、旧型に比べてかなり大きい車体の印象を緩和するために、角を丸くしている、といったことが説明されている。車両前方にあるライトの形が、アニメキャラクターのつぶらな瞳のように見える、というのもここで気づいた。   また、旧型との際立った違いとなる3つの乗降口は、車椅子やベビーカー連れの親たちも含めた、多勢の乗客が一度にすばやく乗り降りするために考えられているという。   バスに乗った際、それらを見てはいたものの、こうしてあらためて解説されると、なるほど、と思う。単純だが、やはり、どんな物事も、その背景や物語を知ることで、より興味を増すというのは間違いない。

 正直なところ、実際のバスに乗った時には、外見の斬新さに比べて、内装にはそれほど際立った特徴はない、と感じたが、停車ボタン、2階へ上がる階段の幅やデザイン、座席の生地など、細部のひとつひとつにまでこだわったのが、このバスだったということもここで知った。

「すり鉢いす」に再挑戦

 さて、こうして(自分にとっての)ハイライトを見終え、1時間以上いた会場を後にした。

 たしか、V&Aでは、この時期、紫陽花(あじさい)が一面に咲き揃う中庭があるから見て行こうと、博物館の奥へ行ってみる。中庭では、噴水で子どもたちが水遊びをしている。そして、その周りには、入り口で見た、ヘザウィックデザインのいす「スパン(Spun)」が、あちこちに転がっている。「もう一度」と、懲りずに再度座ってみた。展覧会でこのいすが出来上がるまでを見たせいか、今回は不思議と、素直に体を椅子に任せることができた。すると、頭が地面についてしまうのではないか、というくらいまで、椅子が回転した。その瞬間、「ふわっ」と体が宙に浮くような不思議な心地になる。高層ビルのエスカレーターから降りるときに体が浮き上がる感じ、とでもいおうか…。

 「ヘザウィック・スタジオの作品、楽しい!」体もそう言っている。

 展覧会はオリンピック期間中も開催しているので、新型ルートマスターとともに、体験してみてはいかがだろう。

データ

Heatherwick Studio "Designing the Extraordinary"特設ページ
開催場所:ヴィクトリア&アルバート博物館(Victoria and Albert Museum) 期間:9月30日まで 所在地:Cromwell Road, London SW7 電話番号:+44 (0)20 7942 2000
Heatherwick Studio公式サイト
ARAMで購入できるコマのような形のSpun Chair(スパン・チェアー)のページ

プロフィール

マクギネス真美さん プロフィール画像

マクギネス真美(まくぎねす・まみ)
9年半の雑誌編集者時代を経て2003年渡英。共著『ハッピーハッピーロンドン』(双葉社)。「ダ・ヴィンチ電子ナビ」では電子書籍のレビューをしている。辛抱を強いられる公共交通機関、街中のおかしな看板や不思議な食べ物など「イギリスの実態」を、おもしろ画像とともに自身のウエブサイトでレポート。最新情報はツイッターでもつぶやいています。
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