
「Welcome to London!」。オリンピック・パーク最寄りの巨大ショッピングモール「ウエストフィールド(Westfield)」で、大きなテレビカメラを抱えた、取材関係者らしき3人組のために、ドアを開けて待ってあげていた2人の中年女性が言った。
それを聞いて「はっ」と気づいたのは、ロンドンはオリンピックのホストシティーで、ロンドン市民はホスト役なのだ、ということ。だから彼女たちは、外国からの取材クルーに対し、現地の人として、自然に「ウエルカム」の言葉が出たのだろう。
実は、周囲のイギリス人といえば、サッカー好きの男性陣はオリンピックにまったく興味を示していないし、子どものいる女性グループは「納税者に負担ばっかりかかって、その上、仕事に行くにもいろいろ面倒になるんだから、オリンピックなんて来てほしくなかった」と言っていた。チケットが取れなかった隣人は「せっかくロンドンでやっているのに、実際に見に行けないのなら意味はない」と残念そうで、つまり、オリンピックを楽しみにしている、という人がほとんどいない。
でも、オリンピックに胸躍らせている人たちだっているはずだ、というわけで、まずはお膝元となるストラトフォード(Stratford)にやって来てみたのだ。
夏のセールが大詰めということもあり、ショッピングセンターはごった返している。ピンクと紫のウエアをまとい、大きなIDカードをぶらさげたオリンピック関係者があちこちにいて目をひく。オリンピックに備え、会場への案内板や、交通機関の案内表示がたくさん登場し、開催が間近だというのをひしひしと感じる。
また、数は多くないが目立つのは、迷彩服を着た、軍の兵士たち。警備員が足りないからと、軍隊に応援要請がされたと聞いてはいたが、ほんとうにこうやって彼らを目の前にすると、ちょっと驚く。オリンピックって、こんなにも警備が厳しいものなのだ。確かに、オリンピック会場は空港なみのセキュリティだと、チケットに同封して送られてきた注意書きにもあった。
パークへと続く信号には、警備の人がいて、IDを持った人しか、反対側に渡ることすらできなくなっていた。
次に出かけたのは聖火リレー。オリンピックにはまったく興味を示していなかった、地方に住む親戚が、少し前に聖火リレーを見に行き、その沿道の人の多さに驚くと同時に、感動して、わざわざメールで写真を送ってくれた。
果たして、ロンドンでの歓迎ぶりはどうだろう?
向かったのは、オールド・スピタルフィールズ・マーケット(Old Spitalfields Market)に面したコマーシャル・ストリート(Commercial Street)。警官が人々を整理していて、道の両脇に人が3重になって並んでいたので、もうすぐ聖火がやってくる、というのがわかった。
観光客に人気のマーケット近くという場所柄か、聞こえてくる言葉などからして、外国からの見物客もたくさんいるようだ。また、建物の2階、3階からのぞいている地元の人たちもかなりいる。
まずはスポンサーの車が数台、先導していく。何かマイクでしゃべっているが、ほとんど聞こえない。そして、がっしりした体格の警官が乗ったバイクが4台、バスが2台。そして、グレーの上下に身を包んだガードの人々に囲まれた聖火ランナーが登場した。途中で何度か手を振り、交差点の手前あたりで立ち止まると、四方それぞれに向かって聖火を掲げてあいさつをしている。
人々は「うわぁー」などといいながら、手を振ったり、スマートフォンで写真を撮ったり、だんだんとランナーに押し寄せるようにして近づいていく。
人波にかき消され、ランナーがバスに乗り込んでしまったのか、そのまま走っていったのかは確認することができなかった。あっという間のリレー見物が終わると、周りの人たちはにこにことして、皆、撮った写真を見せ合っている。あまりにあっさり過ぎ去ってしまったので、正直なところ、期待していたほどの興奮はなかったのだが、「とりあえず、生で聖火を見た」という満足感がわいた。そして何より、集まった人の多さに感心した。 聖火ランナーが去った後、グローバル・スポンサーであるコカ・コーラの聖火リレー特別デザインボトルが人々に無料で配られていた。しっかりそれをいただいて、リバプール・ストリート(Liverpool Street)駅に戻ろうとすると、来るときには気づかなかった、オリンピックのための案内所らしき建物が目についた。
話を聞きに行くと、彼らは「チーム・ロンドン・アンバサダー(Team London Ambassadors)」と呼ばれる人たちで、ボランティアとして、オリンピック会場への道案内をしたり、ローカルエリアについての質問に答えたりしてくれるのだという。案内所となっている建物は「キオスク・ポッド(Kiosk Pod)」といい、この場所では、地元の学生が中心となって、1日3交代でガイドにあたる。
「学生たちは、世界中からやってくる方たちの役に立ちたい、と楽しみにしています。このエリアのことや、オリンピック会場への行き方など、なんでも聞いてください」。
お話を聞かせてくれたキャロリンさんによると、これまでに3日間をかけてのトレーニングを受けた学生たちが、オリンピックとパラリンピックの期間中、毎日、朝9時半〜午後7時半まで、ここで待機しているそうだ。
この日は日本語が話せる、という人はいなかったが、世界中からやってくる人たちを想定し、英語以外の言葉を話せる人は、その言語のバッジをつけているという。この日もイタリア語やスペイン語、ロシア語に対応できる人がいた。
ちょっとまだ照れたような様子もあるが、こちらの質問に対してまっすぐ目を見て笑顔で答えてくれるアンバサダーたち。彼らに会って、思い出した言葉が「Welcome to London」――そうだ、わたしたちはホスト国に住んでいるのだ。世界中からやってくる多勢のアスリートや観客を迎えるのだ。
すでに起こっている交通機関の乱れに対する不満や、警備への不安など、問題も色々あるけれど、せっかくなら世界中の人に向け、笑顔で「Welcome to London」と言いたい、と思う。
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