2009年10月9日15時34分
ボブスレーの日本男子が、古いそりの性能アップに取り組んでいる。「氷上のF1」と呼ばれ、強豪国は700万円以上もする新型を手に入れては改造する。財源に乏しい日本は、98年長野五輪前から使っている年代物を磨き上げ、バンクーバー五輪を目指していく。
「こんなに古いそりを使っているチームはないですね。中古車とスーパーカーが戦っているようなものですよ」と日本代表の石井和男監督は笑う。4人乗りは13年前に購入したドイツ製。ドイツやスイスなどのように、五輪に向けて自国で製造したり、買い替えたりする財源はない。
強豪国のそりにはスポンサーのステッカーが所狭しと張られているが、むき出し状態に近い日本のそりを見れば資金力は一目瞭然(りょうぜん)。それでも、ランナー(そりの刃)を動かすステアリングなどの性能を高めれば、旧式そりでも対抗できる可能性はあるという。
近年の傾向は軽量化だ。ボブスレーには重量制限があり、4人乗りはそりと選手の総重量が630キロまでと決められている。スタートで押す力を上げようと、強豪国の選手は年々大型化。その重量を相殺するため、軽くて強いカーボン製ボディーにするなど工夫が施されている。
ところが、日本選手の多くは体重が100キロに満たず、強豪国ほど大型化していない。カーボンより重い繊維強化プラスチック(FRP)のままで、軽量化しなくても、ステアリングやフレームの独自開発に資金を集中させて性能を高めようというのだ。
この方針で00年購入の2人乗りを昨年改造したところ、W杯の格下にあたるアメリカズカップで総合2位の成績を残せた。来季のW杯出場権を獲得したことが自信になり、4人乗りにも同様の基本設計を採り入れることになった。
改造には自動車のノウハウも生かされているという。「成功」した2人乗りも、今回の4人乗りも手がけているのは、鈴鹿サーキットのおひざ元でカスタムカーなどを手がけるファブリルチタン工芸(三重県鈴鹿市)だ。
イタリア車に乗る石井監督が愛車の特注部品を完璧(かんぺき)に造った高い技術力にほれ込み、「世界に一つしかない部品を造れるここなら、そりの改造も可能だと思ったんです」と依頼。自ら海外で収集した情報と合わせて、そりの改造は進められている。
今回の予算は150万円。石井監督は「ほとんど手弁当でやっていただいているので助かります。普通に頼めば2倍以上かかりますからね」。ランナーだけでも既製品なら100万円かかり、設計を担当する東北大などの協力がなければ独自開発は不可能だ。
2カ月以上かけて造り変わったそりは、カナダへ向けて9月に出発。五輪出場枠につながる国際ボブスレー・トボガニング連盟(FIBT)ランキングで、昨季の日本男子は2人乗りが25位、4人乗りは41位だった。バンクーバー五輪の男子出場枠は30。11月から始まる国際大会で、五輪へ向けてポイントを稼いでいく。(斎藤孝則)
(2009年7月9日 朝刊掲載)