スケルトンの日本の第一人者、越和宏(システックス)はワールドカップ(W杯)の出場選手で最年長。23日は45歳の誕生日だ。ミスで11位に沈んだ2006年トリノ冬季五輪後も現役を継続。3度目で最後の五輪となるバンクーバー大会での有終の美をめざし、格闘が続く。
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4日の今季W杯第3戦。イタリア・チェザーナの会場で越は、スタート地点の氷に温度計をあてた。マイナス4度だった。「思ったより高い。氷は軟らかくなる」
事前につけておいたそりの刃は、マイナス5度以下の硬くて滑りやすい氷を想定。走りは悪いが、安定感に優れた刃だ。今季序盤の2戦は2本目の滑走に進めない惨敗続き。この第3戦でそりを横滑りさせたら五輪が一気に遠のく。「でも今日の氷なら、リスクを承知のうえで、よく走る刃で勝負すべきだ」。刃を交換した時、レース開始まで1時間を切っていた。
結果は2回目の滑走に進んで11位。同じチェザーナが会場だったトリノ五輪と同じ順位だが、刃の交換に踏み切れた今回は意味が違う。「土壇場で、迷いなく決断する勝負師に近づけたのでは」
越が「勝負師」と呼ぶのはトレーナーを務める松本整さん(50)。出会いは8位だった02年ソルトレーク五輪直後のテレビ対談。45歳で競輪選手を引退する直前、高松宮記念杯で優勝した伝説の人だ。限られた力を効率的に使う理論を構築していた。
「力が分散しないよう、そりを真っすぐ押せ。足が後ろに流れないように」。スタート時の初速が課題の越に、松本さんはたたきこんだ。片方の足の着地時、他方の足の位置が前か後ろかで、次の着地までの時間も変わってくる。
一連の動作を支えるのは股関節の柔らかさ。こうした肉体改造は、7年目になる二人三脚で可能な限り徹底した。越はW杯優勝経験もある巧みなそり操作技術の持ち主。「初速は改善した。あとはがけっぷちですくまず、踊れるかどうかだ」と松本さんは言う。
五輪代表の選考対象レースはW杯の第4戦まで。越は第4戦で23位と後退したが、第3戦の11位で命拾いし、国際ランキングで日本男子トップ。選考基準には「選手の将来性を優先」という若手重視の項目もあるが、出場枠が想定通り2ならば、若手とともに代表に選ばれる公算は大きい。
ただ、越は「低迷続きなら、五輪を辞退する覚悟が必要だ」と言う。五輪代表の決定は1月中旬ごろの見込み。W杯は年明け後も続く。「残りのW杯で結果を出し、メダルを狙える選手としてバンクーバーに行きたい」(飯竹恒一)
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越和宏(こし・かずひろ) 長野県王滝村出身。木曽高時代は陸上選手。仙台大でボブスレーを始め、92年アルベールビル五輪代表入りを目指したが逃す。スケルトンに転向し、99年W杯で初優勝。そり競技としては日本選手初の快挙だった。現在所属する長野市のソフト開発会社「システックス」で07年にスケルトンクラブを結成。本番の前夜も晩酌を欠かさない。173センチ、82キロ。