バンクーバー冬季五輪で唯一の新種目、フリースタイルスキーのスキークロスに２１日、滝沢宏臣選手が挑んだ。１０代からアルペンで将来を嘱望され、モーグルでも五輪をめざしたが、夢は果たせなかった。２度の転向をへて、３６歳でかなえた晴れ舞台だった。

　澄み切った青空。五輪マーク入りのビブをつけた滝沢選手がスタートに向かった。

　スキークロスは「雪上のモトクロス」の異名をもつ。４選手が一斉にスタートし、上位２人が勝ち上がっていく。

　波打つジャンプ台や急カーブなど起伏に富んだコースは、滝沢選手のスキー人生そのものだ。山形中央高時代にアルペンでナショナルチーム入り。１８歳で１９９２年アルベールビル五輪の代表候補になったが、けがに泣いた。９４年リレハンメル五輪切符も逃した。コーチと強化方針でぶつかり、嫌気が差した。

　「モーグルで長野五輪をめざさないか？」。９６年、契約する用具メーカーから誘われ、転向を決意した。すぐに頭角を現し、代表候補に。しかし五輪を前に、欧州遠征で右ひざ前十字靱帯（じんたい）断裂。夢は逃げた。

　その翌シーズン、欧州遠征中にスキークロスの中継をテレビで見た。モーグルは採点競技で自分の感覚と得点が食い違うことも多いが、「スキークロスは一緒に滑るライバルに勝てば文句なし」。単純明快なルールにひかれた。

　実際、性に合っていた。２００２〜０３年シーズンはＷ杯初代総合王者に輝いた。スキーではノルディック複合の荻原健司以来日本人２人目の快挙だった。

　０６年、国際オリンピック委員会が五輪採用を決めた。３３歳だった。体力的な衰えは感じていたが、幼い頃からのあこがれは捨てきれなかった。

　海外遠征など年間の経費は約３００万円。ほとんどが自腹だ。母校の同級生らの呼びかけで後援会が発足し、支援の輪が広がった。

　決勝トーナメント１回戦でスタートから３番手と遅れた。途中、２位の選手と並びかけたが、３位。「悔しい思いはあるけど、結果は結果」。さばさばと振り返った。

　最終成績は２９位だった。

　五輪の夢実現に、アルベールビル大会から足掛け１９年。「あきらめなければ良いこともあるかな、と思った。これからどうやって借金を返そうかと思うけど、僕にとっては、そこまでしても挑戦する意義がありました」。今後については、「五輪は今回が最後。１４年ソチ五輪は育てる方、コーチで行きたい」。一線から退く意向を明かした。（バンクーバー＝稲垣康介）