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ロンドン五輪パークをゆく 「貧困地域」再生の街づくり 

2011年5月26日12時59分

写真:開閉会式などが行われるメーンのスタジアム。上部の白い骨組み部分は大会後、取り外すことができる拡大開閉会式などが行われるメーンのスタジアム。上部の白い骨組み部分は大会後、取り外すことができる

写真:水泳競技場「アクアティックセンター」。ウェーブ状の屋根は雨に濡れると美しく光るアルメニアン・ルーフ拡大水泳競技場「アクアティックセンター」。ウェーブ状の屋根は雨に濡れると美しく光るアルメニアン・ルーフ

写真:「バスケットボール・アリーナ」(右)と競輪会場の「ヴェロドーム」拡大「バスケットボール・アリーナ」(右)と競輪会場の「ヴェロドーム」

写真:赤いらせん状のモニュメント。水路に橋をかけ、左の水泳会場側から右のメーンスタジアム方向へと渡るしくみ拡大赤いらせん状のモニュメント。水路に橋をかけ、左の水泳会場側から右のメーンスタジアム方向へと渡るしくみ

写真:メディアプレスセンター(MPC、写真左)と国際放送センター(IBC)の間には、通りが設けられる予定拡大メディアプレスセンター(MPC、写真左)と国際放送センター(IBC)の間には、通りが設けられる予定

写真:選手村のアパートメント群。大会後は一般向けに販売される拡大選手村のアパートメント群。大会後は一般向けに販売される

写真:パーク内を貫くテムズ河の支流「リー川」。川沿いには緑地帯や英国式庭園が整備される(写真はすべて今年2月、柏木写す)拡大パーク内を貫くテムズ河の支流「リー川」。川沿いには緑地帯や英国式庭園が整備される(写真はすべて今年2月、柏木写す)

 2012年7月に開幕するロンドン五輪まで1年余り。同市東部の寂れた工業地帯がいま、1兆円をかけオリンピックパークとして劇的に変化している。高く伸びるモニュメントにハイテクドーム、近代的集合住宅の前を新交通システムが行き交う様は未来都市さながらだ。一方で地域を貫くリー川沿いには緑があふれ、多くの橋が各エリアを結ぶ。革新とサステイナブル、そして地域再生を三大目標に掲げ建設の進むオリンピックパークを訪ねた。(アサヒ・コム編集部 柏木友紀)

【写真で見る】ロンドン五輪2012 建設進むオリンピックパーク

 ロンドン市東部、ストラットフォード地区。廃棄物処理施設が立ち並んでいた工業地域で、面積2.5平方キロメートルの「新しい街づくり」が進んでいる。中心部から地下鉄とDLR(ドックランズ・ライト・レールウェイ)を乗り継ぎ、30分弱で最寄りのパディング・ミル・レーン駅に到着。ユーロスターのターミナル駅でもある中心部のキングス・クロス・セントパンクラス駅からも、高速シャトル鉄道で17分で結ばれる。

 今年2月半ば、外国人プレス向けの取材会に参加した。真っ先に目に入るらせん状の赤いモニュメントはまだ30数メートルだったが、完成時には114メートルと「自由の女神」を超える予定。

 パーク南側に位置し、ひときわ目を引く円盤形の建物が「メーンスタジアム」。開閉会式や陸上競技などが行われる。周囲を水路が取り囲み、観客は五つの橋を渡って入場する。ルーフテラスからはロンドン市街が一望できるという。8万人を収容するが、上部座席55000席は取り外せるようになっており、五輪後は競技に合わせてスリム化も可能。3D用の特殊撮影機材や照明も装備する。

 南西の角に位置する水泳競技場「アクアティックセンター」は、波を模した特徴的な屋根を持ち、横幅160メートル、奥行き80メートルのワイドスパンを誇る。両翼の観覧席はやはり取り外し可能で、プールで使用した水は館内トイレで再利用されるなどサステイナブル(持続可能、環境維持)性が特徴だ。

 「バスケットボール・アリーナ」は北側に位置する。暫定スポーツ施設としては過去最大の規模を持ちながら、バスケットボール競技終了後、わずか22時間でハンドボール競技決勝用のコートに生まれ変わるなど可変性が売り物。中継用設備やセキュリティー施設、食堂などは、隣接する競輪会場「ヴェロドーム」、「BMXトラック」と共通化し、コストと資源の節約をはかった。

 世界40億人の読者・視聴者へ向け、2万人の報道陣の拠点となるMPC(メディア・プレスセンター)とIBC(国際放送センター)が隣接する。その間には長さ200メートルの通りが設けられ、銀行や郵便局、売店などが作られる。五輪後には数千人が働く8万平方メートルのビジネス地区になる予定。

 バイオマスと天然ガスを用いた発電所や変電所も建設、これらの施設の電気やガスなどをまかなうほか、将来も周辺地域のインフラとして活用する。

 ◆川と自然との共生

 こうしたハイテク設備の一方、力を入れるのは自然との共生だ。リー川に沿って30万本の湿地植物を植え込み、トネリコ、ハシバミ、カバといった英国産樹木4000本を植林、35本の橋によって回遊性を持たせる。

 南側には英国式庭園を整備してカフェや市場、イベント広場などを配置。北側は自然生態系に配慮した静かな緑地帯とし、時には雨水による洪水なども発生させて、カワセミなど希少生物も集める。

 約1万7000人の選手らが宿泊する選手村はモダンな中層マンションで、リー川をせき止めた泉が中庭に配されるなど安らげるつくり。地域にはショッピングセンターやレストランもあるが、シャトル鉄道でロンドン中心部とも7分で結ばれる。大会後は2800世帯が住む居住区となり、うち1300戸余りは低所得者向けの公営住宅に。

 パーク全体は今年7月末には完成、1年間のテスト使用を経て2012年7月27日開幕の本番に臨む予定。インフラ整備の総工費は現在のところ83億ポンド(約1兆円)。このほか大会運営経費として、20億ポンドが民間から出資される。

 ◆長年の悲願、ハックニー地域の再生

 これだけの巨額の建設費用の出資を可能にしたのは、同地域の再生がロンドン市にとっても英国にとっても長年の悲願であったからという。やや驚いたのは、実行委員会の担当者が貧困、失業者、低所得者、教育水準の引き上げなどの言葉を、臆せず繰り返し用いることだ。

 五輪実行委員会のジェローム・フロスト氏は「これだけの公費を投入をするのだから、使い道を正当化する必要がある。五輪への投資は、東ロンドン再生のための投資なのです」と言い切った。

 実際、ロンドン市東部は廃棄物処理などを行う小規模工場や倉庫がごちゃごちゃと立ち並び、移民や失業者が多く、中心部のハックニー地区などは治安の悪い地域の代名詞となってきた。交通の便も悪く、高校の成績も低迷し続けていることなどから、地域の底上げは歴代政権の政策課題でもあった。

 今回のパーク建設は、450にのぼる地権者をまとめ、10年にわたる国を挙げてのプロジェクトとなった。高らかに歌うのは、「五輪をチェンジのきっかけに」。地域の雇用対策のため、建設のための労働力のうち4分の1は地元から採用、その9割に職業訓練を授ける。大会終了後はパークがそのまま新しい街「リー・バレー」へと移行。住宅に公園、商業施設に加え、1800人の児童・生徒が通う学校も整備する。

 金融地区で知られるカナリーワーフが隣接する立地を生かし、今後は旧居住者だけでなく、他地域からのホワイトカラーの流入もねらう。安い家賃の割に交通の便が向上したことから、既に地域に移り住み始めた若年世帯やアーティストなども少なくない。

 種がまかれ、芽が出始めた「リー・バレー」。1年後には五輪の花が咲く予定だが、その後もその実が熟するまで成長は続く。

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