日々の献立にも似て、めぐる年々(としどし)にも、こってりした年とあっさり気味の年がある。戦後の昭和なら1964(昭和39)年は濃密な年だ。新幹線の開業はきのう書いた。その9日後には東京五輪が開幕する。50年前の秋、日本は高揚していた▼「開業」と「開幕」にはさまれた10月5日、名古屋市で1人の女の子が産声をあげた。記念になる年に初の子を授かって、母親は感慨深かったそうだ。その子、横田めぐみさんは、この日曜に50歳になる▼実りの多い充実期のはずである。しかし中学1年の秋、新潟市で北朝鮮に拉致された。もう37年になる。「こんな大変な人生を送ることになるなんて」と、母親の早紀江(さきえ)さん(78)が先の本紙で、自身について語っていた▼どこの世界に、わが子が邪悪な国家犯罪を告発する象徴になるのを、望む親があろう。待ち続けた苦しみに「喜びの終止符」を打ちたい。早く静かに、普通の人になりたい。それが夫の滋(しげる)さん(81)との願いだ。拉致被害者家族の心情は誰も同じだろう▼そうした願いも、北朝鮮には駆け引きを有利に運ぶ材料としか見えないのかと思う。約束した拉致被害者らの再調査は初回報告が先送りされた。協議するも先は見えない。再会を待つ家族の心中は、察するに余りある▼鹿児島の被害者、市川修一さんの父が8月に99歳で亡くなった。熊本の松木薫さんの母は1月に92歳で他界。被害者の親の平均年齢は80歳を超えている。解決への最善手を政府は早く見いだしてほしい。