西洋の紙は単なる実用品という感じしかしないが、和紙や唐紙を見ると、温かみを感じ、心が落ち着くようになる。作家谷崎潤一郎が随筆『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』でそう書いている▼文豪は言葉を重ねる。西洋の紙の肌は〈光線を撥(は)ね返すような趣がある〉のに対し、〈奉書や唐紙の肌は、柔(やわら)かい初雪の面のように、ふっくらと光線を中へ吸い取る〉。障子越しの淡い光になじんだ日本人には納得感のある表現だろう▼「手漉(てすき)和紙技術」がユネスコの無形文化遺産に登録される見通しになった。島根県浜田市の石州半紙(せきしゅうばんし)がすでに登録されているが、これに岐阜県美濃市の本美濃紙(ほんみのし)、埼玉県小川町と東秩父村の細川紙(ほそかわし)を加えるかたちになるという。去年の和食に続き、日本の伝統文化に世界の目が注がれることになりそうだ▼本美濃紙には1300年余の歴史がある。美しさと丈夫さを兼ね備え、高級な障子紙とされてきた。最近では京都迎賓館の回廊の障子や照明器具に使われた。障壁画や経典といった文化財の修復にも欠かせない▼細川紙は江戸時代からの歴史だ。かつては大福帳や土地台帳などに用いられ、その強さが商人らに重宝された。地元に「ぴっかり千両」という言葉が伝わる。天日干しでいい和紙ができ、よく売れるといった意味か▼私たちのくらしに繊細な「陰翳」を与えてきた手すきの和紙。それをつくる工程は大変な重労働だという。文化遺産への登録で歴史を支えた人々の労苦が報われ、伝統の技の継承にもつながるといい。