その時、国定忠治には子分が11人いた。上州から信州に落ち延びるにあたり、連れを3人に絞りたい。そこで親分について行くのは誰が適任か、全員に無記名で投票させることにした。菊池寛の短編小説「入(い)れ札(ふだ)」だ▼一番の年頭(としがしら)なのに、最近めっきり信望を失った子分がいる。後輩らに追い抜かれ、親分にも軽んじられている。誰が誰に投票するかはわからないが、自分は3人の中に入るまい。この子分の寂しさや嫉妬、そして入れ札にどう臨んだかを軸に物語は進む▼この作品に対する哲学者柄谷行人(からたにこうじん)さんの分析が興味深い。ここで扱われているのは、日本国憲法も保障する「投票の秘密」だという。匿名だからこそ他人の目を気にせず、自分の考えを貫ける。そのことが人々の自由を最終的に守るのだ、という議論につながっていく▼統一地方選の後半戦がきょう投開票される。前半戦では平均投票率が戦後最低になった。より身近な市区町村の選挙はどうか▼投票率向上をめざすNPO法人「ドットジェイピー」が今月、全国の若者1400人にアンケートをした。大学に投票所を、と望む回答が6割近くあった。今回、期日前投票所を学内に設ける動きが広がったのは朗報だろう▼ネットで投票できるなら投票すると7割以上が答えたのも学生らしい傾向だ。もっともこちらは投票の秘密を守れるかという問題が残る。今の仕組みではやはり定まった場所に足を運ぶ手間は省けない。自由な社会を守るために、どうか投票所へ。