幾棟もの大きなマンションに取り囲まれた谷間のような土地に現場はある。17日に全焼した川崎市の簡易宿泊所「吉田屋」と「よしの」の焼け跡である。9人もが亡くなった。おととい訪れて、周囲の環境との落差に胸を突かれた▼簡易宿泊所といえば1泊2千円前後。3畳ほどの狭い部屋、低い天井。2008年から翌年にかけ、朝日歌壇に次々と入選して話題になった「ホームレス歌人」の作品を思い出す。〈胸を病み医療保護受けドヤ街の柩(ひつぎ)のやうな一室に居る〉。柩の語にどきりとする▼火事現場からやや離れたところに、簡易宿泊所の密集地がある。不思議な建物が軒を連ねる。2階建てほどの高さなのに窓がタテに三つある。少しひしゃげた3階建て、か。超現実的とも見える光景に一瞬、めまいすら覚えた。開け放った玄関から、上階に向かう急勾配の階段がのぞいていた▼実際は3層構造なのに、届けは木造2階建て。火元の吉田屋もそうだった。3階建て以上の建物は燃えにくい建材を使った耐火建築物でなければならない。川崎市によると、この地域の7割に違法建築の疑いがあるという▼そこで暮らすのは生活保護の受給者が多く、高齢者も多い。身よりもなく、働くこともままならない困窮者が危険な場所で生活せざるをえない。違法を正すのはむろん、低所得者向けの公営住宅を拡充できないものなのか▼密集地を回って再び現場に行ってみた。隣接する駐車場の塀に小さな花束が一つ、立てかけられていた。