フランスの司法官だったブリアサヴァランが、19世紀に書いた名著『美味礼讃(びみらいさん)』で述べている。「新しい御馳走(ごちそう)の発見は人類の幸福にとって天体の発見以上のものである」(岩波文庫から)。美食家の親分格のような人物だけあって、言葉にも人を食ったところがある▼新しいご馳走とは、料理法のことであり、食材のことでもあろう。となれば「うなぎの蒲焼(かばや)き」は、日本人にとって最大級の幸福といえる。いま絶滅危惧の赤ランプに、うなぎに目がない向きは気が気ではあるまい▼ニホンウナギの養殖に使う稚魚の量を2割減らすことに、日本、中国、韓国、台湾が合意した。養殖に欠かせぬ稚魚は減り続けて、このところの日本国内の推移は寂しいかぎり。この魚とのつき合い方を、真剣に考えるときになっていた▼強制力がなく、実効をあやぶむ声もあるが、ぬらりくらりの縄抜けは許されない。5年、10年という単位での厳格な管理と、資源変動の観察が必要だと専門家はいっている▼今のような蒲焼きの料理法は、江戸の頃に始まったらしい。日本人にとっての至福は、うなぎには受難の始まりだった。海に泳ぐ数を乱獲前の状態に少しでも戻してやることで、和食文化の粋を守りたいものだ▼〈夏やせの妻へうなぎの折を下げ〉という句が手もとの本にある。かつては特別なご馳走だった。手ごろな養殖ものの登場はありがたかったが、ついつい食べ過ぎてしまったらしい。細くてもいいから長く、至福を味わえればいい。