心浮き立つ春は、省察に引き戻される季節でもある。忘れられないこと、忘れてならないことの多い3月の言葉から▼渡辺英莉(えり)さん(22)の宮城県七ケ浜(しちがはま)町の家は津波に流された。祖母と逃げる途中、波に足を取られ、手を離してしまった。その悔いは今も残る。「この痛み、一生消えてほしくないんです。ばあちゃんとずっと一緒にいる感覚というか……」▼大阪市の應典院(おうてんいん)は、生きづらさを抱えた若者が集う寺。オウム真理教の地下鉄サリン事件から20年を前に秋田光彦住職(59)が語った。「若者がどう転化するかは、問いかけたり悩んだりできる『余白』の場が社会にあるかどうかで左右される」▼春成幸男(はるなりゆきお)さん(89)は、火柱の噴き上がる下町に消防車で向かった。70年前の東京大空襲の日。遺体を見ても「何も感じない。空襲に慣れてしまって、もう、こういうもんだと。ただ、この戦争には勝てない。そうはっきり思っていました」▼ドイツはナチスの時代ときちんと向き合った――。来日したメルケル首相は言い切った。安倍首相と並んだ会見でも「過去の総括は和解のための前提になっている」▼6年生は1人だけ。原発事故で一時、全村避難した福島県川内村で卒業式があった。気詰まりな1対1の授業を先崎(せんざき)里美先生(38)のひと言が和らげてくれた。「お互いがんばるの、もうやめっぺ」。秋元千果(ちか)さん(12)は式で語った。「1人だけど、1人ではない。淋(さび)しいけれど、かわいそうではない」。希望にあふれた旅立ちだ。