「北京の秋空が美しかった」と43年前の9月に小欄が書いている。テレビの中継で見ると空気が澄んで、大通りが青ずんで見えたほどだと。スモッグの日本は北京がうらやましいと筆者は記した。時は過ぎていま、北京は大気汚染で世界に知られる▼テレビで見た昨日の北京は、しかし街が青ずむほどだった。工場を止め、車を規制した青空の下で軍事パレードが行われた。この日のために号令し、威信をかけて演出した「北京秋天」だったと聞き及ぶ▼ロシアや韓国の大統領は列席したものの、欧米の主要国は首脳級の出席を見送った。「抗日戦争・反ファシズム戦争勝利70周年」が式典だけでなく、大規模な軍事力の誇示と一体になる。その辺りに中国の危うさを見る国もあったはずだ▼中国国内に向けた意味も大きい。経済は減速し、格差は縮まらず、汚職は蔓延(まんえん)する。民衆の不満がときに各地で噴き出す中、「偉大な国」の演出で政権への批判はそれていく▼思い出すのは、「忠臣蔵は芝居の気付け」という諺(ことわざ)だ。不入りなときに客足を取り戻すなら切り札は忠臣蔵、という意味で言う。なぞらえるなら、抗日・反日は中国における「ナショナリズムの気付け」であろう。不人気なときほど政権には使いでがある▼冒頭の「秋空」は、日中国交正常化のために田中角栄首相が訪中した日の北京の空だった。周恩来首相との固い握手は記憶に残る。どちらがどうとはこの際言わない。韓国も含めて、進むに見えぬ和解がもどかしい。