いまの季節、寒い夜空に光る星を凍星(いてぼし)、荒星(あらぼし)などと呼ぶ。その天球のほぼ真北で動かぬ北極星は、古くから旅や航海の目印となってきた。評論家の加藤周一さんが亡くなったとき、存在の大きさを北極星にたとえたのは作家の井上ひさしさんだった▼「加藤さんを見て自分がいまどこにいるか、ずれていないかを確認してきました」。2人は憲法9条を守ろうと訴える「九条の会」の呼びかけ人の間柄でもあった。11年前、9人の文化人の呼びかけでできた会である▼その9人のひとりだった憲法学者の奥平(おくだいら)康弘さんが亡くなった。奥平さんもまた、多くの人にとって北極星だった。深い学識に裏打ちされた、ぶれぬ視座。憲法をめぐる様々なできごとについて、本紙でも幾度となく発言をしていただいた▼世界を揺るがせた9・11のすぐ後にはこう語っていた。「米国の人々の怒りは理解できる。それにしても、エネルギーが報復の正当化にあまりにも簡単に結びついてはいまいか」。それより「平和的にテロをなくす力」が大切だと▼奥平さんの懸念したことが、いま思えば「イスラム国」という怪物を生む一因にもなった。「テロとの戦い」が世界を一層危険にしている時代にこそ、9条に根ざした発言を続けてほしかった▼近年は特定秘密保護法に反対し、積極的平和主義に異議を唱え、集会などの政治性を理由に公共施設が貸し渋られる風潮を案じていた。享年85。後顧(こうこ)の憂いを背負いながら、天上の星になられたに違いない。