大阪万博のあった1970年は、テレビCMの名文句の当たり年だった。「男は黙ってサッポロビール」「モーレツからビューティフルへ」「ハヤシもあるでよー」。いやはや筆者の世代には懐かしい▼もう一つのとびきりが「違いがわかる男」。松山善三さん、遠藤周作さんら大物の文化人、芸能人が登場したネスカフェ・ゴールドブレンドのCMは、長く続いた。♪ダバダー……の旋律を耳は覚えている▼そのCMなどでインスタントコーヒー市場を広げたネスレ日本と、業界団体の間で「論争」が起きていると、本紙記事が伝えている。いささか複雑だが、新製法による商品の分類をめぐる悶着(もんちゃく)らしい▼ネスレは「レギュラーソリュブルコーヒー」と呼び、インスタントとの「違い」を売り物にしたい。といっても湯を注いで溶かすいれ方は変わらない。団体側は「基本はインスタント」と結論づけた。不本意なネスレは、四つの業界団体から脱退するそうだ▼当方、どちらかに肩入れする義理はなく、思うのはシェークスピア劇の名せりふだ。「バラと呼ぶ花を別の名前にしてみても、美しい香りはそのまま」。インスタントでも、舌をかみそうなカタカナでも、飲む側に大事なのは味わいに尽きよう▼〈高校生コーヒーなんか飲み出して人生の話までし始めて〉は先の本紙歌壇にあった松田由紀子さんの作だ。たしかに青春の前期、褐色の一杯は背伸びの小道具でもあった。経済面の記事にしばし、色んな思いを巡らせてみた。