平和主義は大きくカーブを切って、日本の鼻先はあらぬ方角を向きつつある。戦争を知らぬ世代を案じて、体験を語る戦中派の声が響いた7月の言葉から▼サイパン島の陥落から70年たった。島の住人だった鈴木洋邦さん(83)は一家で自決を図ったが、米軍の収容所で意識が戻った。「(国民学校の)先生がね、捕虜になっとった。捕虜になるなら自決しなさいって教えた先生が、捕虜になっとった」▼「限定的」を強調しつつ、集団的自衛権の行使容認が閣議決定された。ノモンハン事件で最前線の歩兵だった佐藤栄三さん(96)は納得がいかない。「限定的な戦闘でも、一度入るといろんな戦争にひきずりこまれる。相手にとって銃弾1発は100発と同じです」▼元自民党幹事長の野中広務さん(88)が今の政権に、「戦争がどれだけ深い傷痕を国内外に残したか、もっと謙虚にあの時代を検証してほしい」。そして「戦争が繰り返されたら、我々世代のつらい経験は『無』になってしまう」▼各地の地方選挙で投票率が急落している。タレントの春香クリスティーンさんの見方はこうだ。「政治家にあこがれを持てないから立候補する人が限られる。選択肢が少ないから投票に行かない。悪循環を感じます」▼与謝野晶子の未発表の歌が見つかった。日中戦争の拡大を憂える一首は〈秋風やいくさ初(はじ)まり港なるたゞの船さへ見て悲しけれ〉。たゞの船とは民間の商船。横浜港で扇子にしたためたという。8年の後、破滅的敗北を喫す。