カリブ海の真珠と称される美しい島ながら、アメリカに突きつけられたナイフにも例えられてきた。年配の方にはこの国の名を、冷戦期のキューバ危機で記憶する向きもあろう。「米ソが核戦争の瀬戸際に立った13日間」である▼人類の奈落は回避されたが、ケネディ大統領の顔は引きつり、両目は苦悩で灰色に見えるほどだった。極度に緊張した局面で、大統領が「今週は給料分の仕事をしている」とウィンクしてみせたという挿話が今に残る▼ケネディ氏を敬愛するオバマ大統領も「給料分の仕事をしたぞ」と言いたいところか。キューバとの54年ぶりの国交回復を発表した。近くて遠かった敵意の海を越えて、ようやく握手の手が双方から伸びる▼国交断絶は1961年1月、オバマ氏はその年の8月に生まれた。キューバのラウル・カストロ国家評議会議長は、過去の経緯について「オバマ大統領に責任がないことはわかっている」と言う。課題はまだ多いものの、新しい世代の人が扉を一つ開いたことになろう▼「給料分――」ではなく、オバマ氏はホワイトハウスで「歴史的な一歩だ」と誇らしげに語った。残る任期は1年半。後世に残すレガシー(遺産)が欲しいとの見方もあるが、冷戦の遺物の清算を世界はおおむね歓迎している▼そういえば、キューバで長く暮らした米国人ヘミングウェーが猟銃自殺したのも61年だった。どちらの国でも愛される「老人と海」の大作家、犬猿の仲の修復に天上で杯を挙げていようか。