インド南部の漁村に暮らす13歳の少年サミュエルは足が不自由で歩けない。毎日、おんぼろの車椅子に乗り、2人の弟が学校まで押していく。片道4キロを1時間15分かけて通う▼近道のつもりで川に入って動けなくなったり、路上でタイヤが外れたり。トラブルに腹を立てて口げんかにもなるのだが、すぐに屈託のない笑顔が戻る。大人の助けも借りながらなんとかたどりつけば、今度は級友が手を差しのべる▼フランスのドキュメンタリー映画「世界の果ての通学路」が全国で順次公開されつつある。過酷な道のりをものともせずに学舎(まなびや)をめざす少年少女らの記録である。ケニアのジャクソンは片道15キロを2時間がかりで走破する。アルゼンチンのカルロスは馬に乗って18キロの行程だ▼家が極貧である。両親は教育を受けていない。そんな厳しい境遇でも、いや、だからこそ、彼らの学ぶ意欲は燃え上がり、みる者の心を打つ。サミュエルは医師になりたい。夢を語る表情は笑顔から一変し、精悍(せいかん)で真剣な若者の面構えだ▼映画の公式サイトによると、パスカル・プリッソン監督は彼らとの出会いにたいへん驚かされたという。欧米や日本の子より「ずっと成熟している」からだ。置かれた環境があまりに違うといえばそれまでだが、ずしりと響く言葉である▼むろん途上国には、飢餓に瀕(ひん)し、大志を抱くどころではない子どもも多い。この映画の前売り券では1枚につき20円を、彼らの学校給食のための寄付にあてる仕組みもとった。