3メートルほどで止まるだろうと最初は思った。実際は標高差にして300メートルも転げ落ちた。雪に埋まり、死を意識した。登山家の竹内洋岳(ひろたか)さんが高峰で雪崩に遭った経験を『登山の哲学』で回想している。日本人で唯一、世界の8千メートル峰14座を完登した人だ▼冬山は容赦なく人に襲いかかる。今年に入り、新潟や長野でスキーヤーやスノーボーダーの遭難が相次いでいる。「バックカントリー」と呼ばれる雪山の滑走を楽しむ人たちである。スキー離れがいわれる中で近年、人気だそうだ▼人工的に管理されたゲレンデを滑るのではない。粉雪に覆われた天然の斜面がファンを魅了する。まだ誰も滑った跡のない真っ白な世界を突っ切り、自然との一体感を味わうのだろう▼しかし、ゲレンデの外側には危険がある。首都圏の登山グループが先日、新潟の妙高で実施した山スキーの訓練の映像を見せてもらった。滑り降りる前に雪を掘り出し、新雪の深さや崩れやすい雪の層がないかどうかを見極める▼その後は、雪崩に埋まった仲間の救助を想定した訓練だ。ビーコンという電波の送受信機を使い、居場所を探り当てる。埋もれて15分以内に掘り出さないと生存率が下がるから、メンバーに緊張が走る。訓練は毎年の恒例行事だ▼バックカントリーはただのスキーではなく、雪山登山と一体のもの。映像を見て納得した。今季は例年より雪が多めだ。経験や技術に装備、自然への謙虚さを欠いたまま、厳しい冬山に飛び込むのは禁物である。