♪汽笛一声新橋を……で始まる「鉄道唱歌」はよく知られている。それをもじって、詩人の谷川俊太郎さんが「新・鉄道唱歌」を作ったのは新幹線の開業前のことだ。夢の超特急をユーモアと風刺で包んだ落首(らくしゅ)、つまり戯(ざ)れ歌である▼歌い出しは「汽笛もなしに東京を はや我(わが)特急は離れたり 予算の山に入りのこる 八百億を友として」。八百億とは報じられた予算超過額である。そして2節目は「はるかにみえし富士の嶺(ね)は はや我そばを遠ざかる 心もはやるバカンスの 時速は二百有余粁(キロ)」と続く▼鉄道唱歌の「東海道編」は新橋から神戸まで、沿線の地理歴史を歌い込んで66番まである。これに対し谷川版はたった3節。超特急らしく、あっという間に終点に着く。歌の短さも風刺のうちだったろうか▼東海道新幹線が開業して、今日で50年になる。この間に約56億人を運んだという。開業前は東京―大阪間に6時間半を要した。短縮した時間の膨大な累計に、「時は金なり」の格言も脱帽だろう▼列車名の「ひかり」は一般募集で最も多かった。「こだま」は10位だったが東海道線の特急名に以前からあり、光と音の組み合わせの妙で名づけられたそうだ。名コンビに時速270キロの「のぞみ」が加わって、22年たつ▼幾万の商機を実らせ、遠距離の恋を取り持ち、帰省の孫を祖父母に届けてきた。ありがとうは尽きないが、競うような速さよりむしろ確かな安全で応え続けてほしい。時間よりも「無事は宝なり」である。