公的年金の積立金の運用で昨年度、約5・3兆円の損失が出た。運用を担う年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が公表した。

 リーマン・ショックがあった08年度(マイナス約9・3兆円)、サブプライム・ショックの07年度(同約5・5兆円)に次ぐ損失の大きさである。

 主因は国内外の株式投資の不振だ。14年秋に運用基準を見直し、株式の割合を増やしたことが裏目に出た。

 短期の損失が即座に給付に影響するわけではない。自主運用を始めて以降の積立金の運用収益は累計で約45兆円にのぼる。年金は現役世代が払った保険料と国庫負担(税金)で毎年の給付を賄うのが基本的な仕組みで、積立金は給付に必要な財源の約1割に過ぎない。

 だが、国債など国内債券を中心に運用していたころに比べ、株式市場の不安定な動きの影響を受けやすくなり、変動幅が大きくなったのは事実だ。

 野党は「国民の大事な年金を危険にさらしている」と批判を強めている。それは、国民の間に根強い不安や不信があると見定めてのことでもある。年金制度にとって、国民の理解と納得を欠く状況が広がることは、見過ごせないリスクになる。

 株式の比重を高めたことについて、GPIFはあくまで経済情勢や運用環境の変化に合わせた見直しだと強調する。

 しかし、世界経済フォーラム(ダボス会議)で「GPIFは成長への投資に貢献する」と述べるなど、運用基準の変更を政権の成長戦略と結び付けて語ってきたのは、ほかならぬ安倍首相だ。「政治主導の見直し」「政権の株価維持対策」との見方が消えないゆえんである。

 運用の見直しとセットのはずのGPIFの組織改革は積み残されたままだ。今年になってようやく、理事長に権限や責任が集中している体制を合議制に改める改革法案が国会に提出されたが、審議は進んでいない。

 これでは、GPIFがいくら「不安にならず、長い目で見守って」と呼びかけても、国民には届かないだろう。

 まずは約束した組織改革を早期に実現し、GPIFへの信頼を高めることが不可欠だ。

 資産配分についても、どこまでリスクをとるのか、安定重視の運用だと将来の給付水準はどうなるのか、選択肢を示しながら、労使の代表も入った厚生労働省の審議会で改めて議論してはどうか。

 国民の理解なくして安心なし。それを肝に銘じてほしい。