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 home > 今日の朝刊2004年06月16日(水)付 

 社 説


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06月16日付

■納税者番号――正攻法でいくべきだ

 政府税制調査会が納税者番号制度の導入を提案した。金融取引に限定するとともに、選択した人にだけ制度を適用する、という内容だ。

 「公平・簡素・中立」というあるべき税制をめざすには、職業や収入源を問わず所得や資産を把握する仕組みが欠かせない。納税者一人一人に番号をつける納税者番号制度は、そのための有力な手段だと思う。

 しかし今回の提案には、もろ手を挙げて賛成するわけにはいかない。一気に全面導入を狙うより現実的というのだろうが、選択制はいただけない。

 この提案は税制改革の基盤づくりというより、株式投資を盛んにするための方策といった色合いが濃い。株で損しても、預貯金や公社債の利子などと合算することで課税を軽減してあげるという仕組みだからだ。

 個人金融資産を貯蓄から投資へ振り向けたい政府の考えに沿ったつもりだろう。しかし、ニンジンをぶらさげて希望者を募るようなやり方は、長い目で見て納税者番号制度をゆがめることになりはしないか。

 選択制にしたのには、納税者の抵抗感を和らげる狙いもあろう。だが、株式売買を活発に行っているような資産家の中には、金融資産をさらけ出すのを嫌う人もいるはずだ。預貯金の利子は当初、合算対象から外されるという見方もある。そうなればなおのこと、利用者がどれだけ出るか疑問になる。

 78年以来、納税者番号の導入を掲げてきた税調は、所得を把握されたくない自営業者たち、彼らの支持を当てにする自民党などに反対されて、思いをかなえられずにきた。だからといって、入りやすそうなところから始める、というのはいかにも安易なやり方だ。

 最初から全部の所得や資産をつかまえるのは難しいから、株式、債券、預貯金など金融資産の把握から手がける、という考え方は理解できる。しかし導入にあたっては、選択制でなく、すべての納税者を対象とする正攻法でいくべきだ。

 もうひとつ強調しておきたいのは、納税者番号制度の議論は、税制改革だけでなく、年金改革も念頭に置いて進める必要がある、ということである。

 厚生年金と国民年金などとの一元化は、自営業者らの所得の正確な把握なしにはできない。そこでも納税者番号制度が求められよう。

 将来は、税と年金の保険料を一緒に集める「徴収の一元化」を図るのが好ましい、そのためには国税庁と社会保険庁の統合も考えたらいい。朝日新聞はそう主張している。その立場にたてばなおさらのこと、先行きを考えたスタートをしてもらいたい。

 住民基本台帳ネットワークシステムでも問題になったプライバシーの保護に配慮すべきは当然のことだ。欧米諸国や韓国など、すでに納税者番号制度を導入している国の経験に十分学んでほしい。


■介護保険――「楽」がくせものだ

 介護保険の利用者は、制度が始まった4年前にくらべて、ほぼ2倍になった。新しい保険が社会に受け入れられ、定着したあかしだろう。

 しかし、気がかりなことがある。6段階ある要介護度のうち、「要支援」「要介護1」など症状が比較的軽い高齢者が、サービスを受け始めて短期間で重くなる例が少なくない。車いすや介護ベッドなどの福祉用具が安易に使われているのも、その一因だ。

 福祉用具は在宅サービスを受けている高齢者の3人に1人が利用している。高価な用具が1割の自己負担で借りたり買ったりできる。「移動が楽」「寝起きしやすい」などと勧めるサービス事業者もあって、最も軽い「要支援」の人たちも車いすや介護ベッドを使っている。

 努力すれば歩ける人が車いすに頼り、過剰な介護を受けていると、すぐに筋力が落ちる。筋力が落ちるとますます歩きづらくなり、外出がおっくうになる。悪循環である。

 厚生労働省は、「要支援」の人が車いすや介護ベッドを使う場合は原則として自己負担にする方針を出した。代わりに筋力を高める活動などを取り入れたら、より好ましい。

 現在、介護保険はさまざまな視点で見直しの作業が進められている。サービスの内容が、ほんとうに高齢者の自立を支えるものになっているのかどうか、きめ細かく見直さなくてはならない。

 リハビリテーションのあり方も変える必要がある。厚労省の高齢者リハビリテーション研究会が今年1月にまとめた報告が参考になる。病院の訓練室にこもって機能訓練を中心に行ってきたリハビリを、生活の場で役立つリハビリに転換するよう迫った提言だ。

 茨城県守谷市に住む染谷亨さん(65)が脳出血で倒れたのは53歳のときだった。手術を受けたあと6カ月寝たきりで、退院後は車いす生活だと告げられた。

 染谷さんを歩く努力へと駆り立てたのは、娘の結婚式に出席したいという願いだった。リハビリ専門医の指導で、つえや足につける装具を工夫して、歩く訓練に挑んだ。

 家の中には手すりをつけず、壁や家具を伝って歩く、といった暮らしぶりが体全体によい影響を与え、回復を早めた。要介護度は介護保険スタート直後の4から2へと、大幅に改善している。

 花を育てたいなら庭仕事ができるように。家事をしたいなら立って家事ができるように。たとえ体が不自由になっても、その後の人生で大切にしたいことができるように応援する。求められているのは、そんなリハビリだ。

 「サービスは何でも使わないと損」などと考えたら、寝たきりに向かってまっしぐら、ということにもなりかねない。 一人ひとりが持っている心身の機能を生かし、生き生きと暮らす。

 サービスを受ける方も提供する方も、そう考えたい。



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