■1リーグ――その前にやることがある
プロ野球は1リーグ制にかじを切った。近鉄とオリックスの合併話が浮上して1カ月足らず、あれよあれよという間に既成事実が積み上げられる。
戦後、幅広い人気を集めてきたプロ野球は曲がり角を迎えている。観客数もテレビの視聴率も、ひところの勢いは消えている。球界を代表する選手は次々と米大リーグに移ってしまった。
手をこまぬいてはいられないと経営者が焦るのは当然だろう。手あかのついた2リーグから少数精鋭の1リーグへ、という構想はかねてささやかれていた。
とはいえ、1リーグへひた走る今回の動きは、スポーツの世界のさわやかさや明快さにはほど遠い。
たとえば、先日のオーナー会議だ。「もうひとつの合併話が進行中です」。そう西武の堤義明オーナーが発言したのは、議事が終わってからのことだ。近鉄とオリックスの合併さえ、まだ正式に認められたわけではない。それなのに、巨人の渡辺恒雄オーナーらが賛同して、1リーグ制への流れが決まった。
こうした重要なことを決めるには野球協約でルールが定められている。それをもとに、労組プロ野球選手会の古田敦也会長は選手と経営者側が話し合う「特別委員会」を開くよう要求した。当然のことだろう。1リーグをめざすならば、本来、そうした手順を踏むべきなのだ。
球団の経営が苦しくなった理由のひとつに、選手の年俸がふくらみ過ぎたことがある。選手会は自分たちの年俸を議論してもいい、といっている。渡りに船ではないか。1リーグ制を急ぐ前に、率直に話し合ってもらいたい。
ほかにもオーナーたちが手をつけるべきことはいくつもある。
ドラフトを下位球団から順に指名するウェーバー制にする。新人契約につきものといわれる「裏金」を監視する機関をつくる。テレビ放映権をコミッショナーが管理し、全球団に分配する。面白い試合を見せ、球界全体を安定させるには、こうした大手術が欠かせない。
改革のときこそ、最終決定者であるコミッショナーの出番だ。公正取引委員長として公正な競争の実現に努めた根来泰周氏なら、先刻ご承知のことだろう。
有力オーナーたちの無理押しで1リーグ制に移しても、球界のゆがみを正さなければ、遠からず行き詰まる球団が再び出てくる。プロスポーツが増え、大リーグが身近になったことでファンの目が肥えていることを忘れてはならない。
縮小均衡を続け、選手のすそ野が狭まることも心配だ。3軍までつくり、アマチュアと交流させる構想もある。だが、チームがあっけなく消えるようなプロ野球に少年たちはあこがれるだろうか。
渡辺オーナーは記者会見で「朝日新聞の論調に迎合するような方向に引きずられる必要はない」と語った。私たちは、プロ野球のために、議論を尽くすよう呼びかけているのだ。その気持ちを理解してもらえないのは、なんとも寂しい。
■国と地方――分権の意欲を見よう
地方分権や地域主権という言葉が参院選で飛び交っている。もはや画一的な中央集権の行政ではやっていけない。もっと地方に権限を与えよう。こう言われれば反論しにくい。だから、各党が選挙スローガンに競うように使っている。
しかし、地方分権の定義はあいまいだ。内容はあやふやなまま、語感のよさで多用されているのが実態である。
分権の目玉が国と地方の税財政改革、いわゆる「三位一体改革」だ。ここでも共通の認識があるわけではない。
今年度から3年間で、政府から自治体への補助金を4兆円削る。3兆円規模の税源を地方に移す。自治体間の格差を埋める地方交付税交付金も見直す。三つを同時に進めることは決まっている。
だが、それだけでは国と地方の金の奪い合いでしかない。どんな分権社会へ変えるのか。教育、福祉、上下水道、道路など身近な暮らしをどう良くできるのか。参院選は各党があるべき分権社会の姿を示し、その魅力を競う好機だった。
そう考えると、各党の公約はいかにも物足りない。
自民党は政府の方針をなぞり、改革の今後の工程については「秋までに明らかにする」と先送りした。06年度までの方針を語るだけなのも、任期6年の参院選の公約としては無責任すぎる。約20兆円の補助金のうち、削るのはすでに決まっている4兆円のみなのか。その先の展望を示さないのでは、そこで分権改革を終えるといわれても仕方があるまい。
民主党は18兆円の補助金削減を訴えているのが特徴だ。たしかに掲げた目標は大きい。しかし、税源移譲の具体案はない。補助金削減に伴って余ってしまう各省庁の官僚をどう処遇するかも語らない。これでは説得力に欠ける。
とはいえ、自民党と民主党には、「霞が関温存」を図るか、「霞が関解体」をめざすかの基本的な違いがある。それが補助金をどこまで減らすかの差になっているのだ。
公明党は国税と地方税の比率を1対1にすると公約する。共産党は地方財源を拡充すると言い、社民党は自治体の声を反映させる地方財政委員会をつくる、などと主張している。
朝日新聞が先週、都道府県ごとに知事の支持率を調べたところ、トップ3は岩手、鳥取、佐賀だった。地方分権を進めようと積極的に発言を続ける知事たちだ。それだけ分権への関心は大きい。
岩手の増田寛也知事は朝日新聞への投書にこう書いた。「ぬるま湯の中で問題を先送りしている『茹(ゆ)でガエル国家』からの一刻も早い脱却を地方側もめざす覚悟だ」
分権が進めば、自治体は権限を手にする一方で、大きな責任を求められる。その厳しさを一緒に受け止められる政治家はだれか。参院選での候補者選びに目をこらしたい。
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