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鉄人野球帳

■足にスランプはない

 ひとつのプレーが、野球というスポーツを考えるきっかけになることがある。 5月17日の巨人対広島戦。7回無死1、2塁で巨人のメイが送りバントをした。 その全力疾走が目を引いた。3月29日のメッツ対カブスの大リーグ開幕戦でも、 メッツのハンプトン、カブスのリーバー両投手の全力疾走に心が動いたのを思い 出す。この全力疾走が、日本の選手ではなかなか見られないプレーになっている。

 野球の入り口は3つある、と私は子供たちによく説明する。打つこと。守るこ と。走ること。その中で、見落とされ、おろそかにされることが多いのが走るこ とだ。打つことは、練習でも楽しいから、どの選手も一生懸命頑張る。守りも、 あまり下手では監督が試合に出してくれないから、練習をする。どちらも上達の 具合をすぐに自分で実感できるから、選手も楽しさを見つけやすい。しかし、走 ることが好きな選手はあまりいない。走る練習は単調で、楽しみも見つけにくい からだ。しかし、走る力が身につけば、これは大きな武器になる。ゲームを続け ていく中で最もスランプになりにくいのが、「走ること」だからだ。

 少年の野球だけではない。プロ野球でもキャンプ、オープン戦ではどこのチー ムも「走ること」に積極的に取り組んでいる。ところが、ペナントレースが開幕 して、勝った、負けたを繰り返しているうちに、ゲームの重点は打つ、守るに移っ ていく。各チームとも、走ることをおろそかにし始めるのだ。

 全ての打者は打ったら、ベースを目指し、全力で走る。塁上にいれば、相手投 手のスキを狙って次の塁に挑戦する。それは野球の本質的な部分のはずだ。野球 が本来持つスピードとスリルを放棄するのは、プロ野球ファンに対する裏切りだ とも言える。

 ペナントレースは厳しい戦いが毎日続く。好不調の波が選手、チームを翻弄す ることになるのだが、「足にスランプはない」という野球界の格言を、監督、選 手にもう一度思い出してほしい。


2000年5月22日
衣笠祥雄


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