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■「三振、ご苦労様」

 偶然なのか、何かの力が働いているのか。6月1日、ダイエーの秋山幸二選手が私の目の前で通算三振の日本新記録を達成した。5月27日に私の持っていた1587三振に並び、ちょうど試合解説の仕事があったこの日、新記録に立ち会うことができた。

 試合前から記録達成の予感はあった。「新記録」が私が観戦するのを待ってくれていたような気がしたのだ。1打席目、三ゴロ。2打席目、中越二塁打。3打席目、フルカウントから二塁内野安打。そして、4打席目、日本ハム・生駒投手の内角直球に空振り三振。新記録が生まれた。

 複雑な気持ちだった。喜んでいいのか、秋山君に悪いのか。ユニホームを脱いで13年。やっと後輩が抜いてくれたというのが、正直な胸の内だ。引退する時、この記録を抜く候補は4人いると思っていた。当時、ヤクルトにいた広沢、池山。西武にいた秋山、清原だ。その中の一人が、私の目の前で見事な空振りで記録を作ってくれた。私はスポーツの楽しさのひとつは、記録にあると思っている。10年以上破られていない記録が更新されるシーンは、それがどんな記録であれ、見る者を興奮に誘う。

 日本では三振はあまり歓迎されない。しかし、三振も野球の一部である、と私は思う。自分が1587個の三振をしたから言うわけではないが、内野ゴロも外野フライも三振もアウトはひとつだ。確かに、バットに当てて前に飛ばせば相手の失策を誘うことができることを考えると、少しは反省しなければならないと思う。その三振も見逃しと空振りとでは全く意味合いが違う。バットを振らなければ、野球では何も始まらない。永遠にボールは前に飛んでいかないのだ。一方、空振りの三振は、より強い打球をより遠くへ打ち返すために生まれたものだ。  秋山選手には、これからも強い打球、遠くへ飛ぶ打球を求めて、力一杯バットを振ってほしい。「今はいいのか、悪いのかわからない」。新記録を作って、彼はそうコメントしていた。それでいいと思う。  現役を終えて、バットを置いた時、きっと自分の手のひらが「三振、ご苦労様」とささやいてくれるはずだ。


2000年6月6日
衣笠祥雄


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