【荒ちひろ、伊藤喜之】東日本大震災の被災地で、参院選の候補者が復興を訴えている。被災者は耳を傾けるが、具体策は示されず、人口が減る地方の将来像も見いだせない。震災から2年4カ月余りたっても進まぬ復興に、政治への期待は薄らいでいる。
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宮城県石巻市の「仮設にっこりサンパーク団地」。市中心部から車で約30分と離れた仮設住宅団地に、候補者が初めて来たのは10日。公示6日後だ。「しばらく仮設での生活が続くが、社会保障にも力を入れていく。応援してほしい」
訴えを聞いた仮設団地の自治会長、佐藤富士夫さん(64)は「何のために来たんだか」。妻を津波で失い、三男と仮設に暮らして2年。子育て中の家族もいる団地住民の最大の関心は住まいの確保だが、候補者は「段取りに時間がかかる」としか語らなかった。
震災まで集落に暮らしていたのは38世帯。当初は30世帯ほどが高台への集団移転を望んでいたが、残土の行き場などが課題で進まない。希望世帯は20世帯を切り、集落が縮んでいく。
震災前までコメをつくっていたが、津波に農機具が流され、農地も沈んだ。日本がTPP(環太平洋経済連携協定)に参加すればコメの価格が下がる可能性があり、「復旧させた田んぼを守っていけるのか」と不安はつきない。
同じ仮設団地の主婦、佐々木美香さん(37)は夫、子ども3人と暮らす。音が周辺に響くので、子どもたちに我慢を強いている。「昨年の衆院選は復興策に期待して投票したが、何も変わらなかった」。今回、候補者を新聞でチェックしたが、違いは感じられない。「誰に入れても一緒かな」
■建設業界 将来に不安も
仙台市のホテルでは13日、全国の建設業者が推す比例区の候補者が「公共事業を継続的にやっていく」と訴えた。宮城県建設業協会の佐藤博俊会長は「復旧復興の仕事に傾注できたのは候補の力」と呼び掛け、集まった業者ら約1300人が拍手した。
だが、会場にいた県北部の50代の建設会社社長は、浮かない表情だ。「復興工事は10年もすれば終わる。大半の業者は小銭を稼いだ後、自主廃業だろう」
自身は、被災した沿岸部に暮らす。家族と社員は無事だったが、沿岸にあった事務所と資材倉庫5棟を津波に流された。市街地のかさ上げは始まらず、バイパスは寸断されたまま。人口が減るまちで目にとまるのは、工事の関係者ばかりだ。
阪神大震災から数年後、関西では建設業者がばたばた倒産したと聞く。震災後の新規採用は15人に抑え、首都圏で働く20代の長男を呼び戻すつもりもない。業界の将来に希望を持てないからだ。「公共事業を一時的に増やしてもカンフル剤に過ぎない。現状を取り繕うだけの政治に、興味はない」
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朝日新聞仙台・盛岡総局と東北大学が宮城、岩手両県の仮設住宅の住民に行ったアンケートで、参院選で重視する政策に「震災復興」を挙げた人が83%にのぼった。調査方法が違い単純に比べられないが、朝日新聞の全国郵送世論調査で復興をあげたのは38%で、意識の差が浮き彫りになった。
アンケートは6月、両県の11市町の仮設住宅で計2千人に配り、558人(28%)の回答を得た。参院選で重視する政策について、5月から6月の全国郵送調査と同じ質問をし、10の選択肢から複数回答で選んでもらった。
ほかに差が大きかったのは「景気・雇用」で仮設52%、全国76%だった。「外交・安全保障」は仮設21%、全国33%、「財政再建」は仮設23%、全国34%だった。
調査にあたった東北大の河村和徳准教授(政治意識論)は「時間がたち、復興政策は防潮堤の高さや高台移転、復興住宅といった課題が技術的で、地元以外の人には分かりにくくなった。被災地以外の有権者が具体的にイメージしにくくなっている」とみる。(蔵前勝久)
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朝日新聞官邸クラブ