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[朝日新聞記事から]画家が敬愛した人々(上) 医師との友情(2月2日朝刊)

2011年2月2日
写真
ゴッホ「医師レーの肖像」(1889年)

 4月に横浜美術館で始まる「プーシキン美術館展 フランス絵画300年」。展示される傑作のなかから、絵にまつわる画家と敬愛した人々の物語を3回にわたって紹介する。

 ゴッホ「医師レーの肖像」(1889年)のモデル、フェリックス・レーは、耳切り事件を起こしたゴッホを診察した若手医師だ。

 1888年2月、ゴッホは画家のコミュニティーをつくることを夢見て、パリから南仏アルルに移り住む。ゴーギャンを熱心に誘い、10月から「黄色い家」で共同生活を始めた。しかし、意見の合わない2人の生活はうまくいかない。わずか2カ月後、ゴーギャンとのいさかいの末に耳の一部を切り落としてしまう。

 主治医のレーに対して、ゴッホは信頼と友情を覚えていたようだ。ゴッホは退院後すぐに書いた弟テオへの手紙に、「いまぼくはレー氏の肖像を描こうと考えている」と記している。別の日の手紙では、レーの診察室に飾るためレンブラントの複製版画を送ってほしいとも頼んでいる。レーが友人の医師2人を連れてゴッホを訪ね、絵を見せてもらったこともあったという。

 完成した肖像画はレーに贈られた。真っすぐなまなざしや丁寧に整えられたひげ。ゴッホは彼の内面を描こうとした。

 しかし、レーはこの絵が気に入らなかったらしい。彼の母親は特に嫌いで、鶏小屋の穴をふさぐために使われたという話もある。

 ゴッホは1890年、パリ近郊の村でピストル自殺を図り、37歳の生涯を閉じる。そのおよそ10年後、この絵はレーによって画廊に売られた。のちの1908年、大富豪のコレクター、セルゲイ・シチューキンの目に留まり、モスクワへ渡った。