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失った肉声をPCで再生 がん手術の教授、教壇に戻る

2008年04月16日14時51分

 咽頭(いんとう)がんで声帯を切除した大阪芸術大(大阪府河南町)の牧泉教授(59)=量子化学=が15日、手術前の肉声を合成処理してよみがえらせるソフトを使い、1年ぶりに教壇に立った。失ったはずの声は、あたかもそのとき話しているかのように教室に響いた。

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パソコンを使い講義をする牧泉教授。キーボードで打った言葉が音声と同時にスクリーンにも映し出される=15日午前、大阪府河南町の大阪芸術大、南部泰博撮影

 講義の冒頭。牧さんは深呼吸して着席し、教壇に用意したパソコンに向かった。「チャンスを与えてくださった大学のみなさまに感謝いたします」。口は閉じているのに、キーボードを打つと、なめらかな声がスピーカーから流れ出した。

 新年度を控え、授業を選択する学生向けの講義紹介に断り書きをした。「私は声が出ません。残しておいた自分の声を基に作成されたソフトを使って、コンピューターにしゃべらせる方法で授業をします」。何人受講するか不安だったが、教室にはほぼ満員の約60人が集まった。

 8年前にがんの告知を受けた。「余命は月単位で考えてください」と言われたが、「奇跡的」に回復し、治療しながら教壇に立ち続けた。だが、昨年に再発。声帯を切除する決断をした。

 なんとか自分の声を残したい。インターネットで「自分の声」「ソフト」と打ち込み、大手電機メーカー沖電気工業(東京)の声を再生する試作ソフトを見つけた。すがる思いで連絡した。

 スタッフが自宅を訪れ、7時間かけ肉声を収録した。「今日はいい天気です」。声の特徴とイントネーションをとるため、例文を読み上げた。よく使う言葉は一語一語、録音した。家族や友人の名前、「なるほどな」「そやな」といった口癖。「結合性軌道」「グルタミン酸ナトリウム」などの専門用語。常用語は213にのぼった。

 07年10月に声帯を切除し、手術後、キーボードを素早く打つ練習を重ねた。通年科目である化学の講義は見送り、半期科目の「情報処理概論I」を担当。再発や死を意識しながらの復職だが、「声が絶対に必要な場所で、任務を果たしえることを示したい」の一念で登壇した。

 約1時間15分の講義を終えると、牧さんは深く頭を下げた。その後の取材に、パソコンで「授業中は『いけてる』と思い、グッときました。だいぶできそうな気がしてきました」と話した。

 声帯を切除後に話すには、空気をのみ込んで発声する「食道発声」や首に密着させた機械で振動を起こして声を出す「電気喉頭(こうとう)」が一般的だ。

 沖電気工業は4月から、牧さんの使う「自分の声ソフト」を、注文があれば販売する。価格は約100万円という。(市原研吾)

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