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コロナ危機で変わる社会

「信頼と連帯」 21世紀の潮流を見逃さない 立命館アジア太平洋大学・出口学長

「信頼と連帯」 21世紀の潮流を見逃さない 立命館アジア太平洋大学・出口学長
APU提供
立命館アジア太平洋大学(APU)学長/出口治明

パンデミック後に前進する力を

パンデミック(感染症の爆発的な拡大)のような大事件が起こったときに大切なのは、長期的な視野から本質を見極めていくことです。

新型コロナウイルスの感染拡大は自然現象であって、誰かの特定の意図のもとに生じたものではありません。そもそもウイルスは、地球上で数十億年も生き続けてきました。たかだか誕生して20万年の歴史しかないホモサピエンスに比べると大先輩です。動物や人を介して移動しますから、これだけ人が移動するグローバル化の時代、ウイルスと人間とがどこかで接触するのはむしろ当然であり、必ず一定の確率で起きるものと考えたほうがいい。14世紀のペストの流行と同じで、何度も繰り返されてきたものがまた起きた。そう考えると、問題が見えやすくなると思います。

人間は先が見えないと「いま」がずっと続くと思いがちですが、円を少し転がせば接線の角度が急に変わるように、状況は刻々と変化します。新型コロナも、いずれは収束します。では「withコロナ」と「afterコロナ」の分水嶺はどこにあるのでしょうか。

これは、治療薬やワクチンができるかどうかです。薬がない間は、一見下火になったようでもウイルスは活動し続けますから、必ず第2波、第3波が訪れます。俗にニューノーマルといわれるマスク、手洗い、ソーシャルディスタンシングの3点セットが常に必要ですし、患者数が増勢に転じれば何らかの手段で人の移動を制限し、ステイホームを続けるしかありません。

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Gerd Altmann=Pixabayから

ピンチはチャンス

ですが、ワクチンや薬が開発されれば、新型コロナもインフルエンザと同じレベルの感染症になります。インフルエンザが流行ったからといって、経済活動をストップしたりはしませんね。ですから、世界のリーダーたちは「with」の期間に生じるマイナスの影響をどうやって小さくするかに注力しています。医療機関や食料品店などコロナ禍のもとでも働かなければいけない人を支え、失業者など社会的弱者を救済しなければなりません。

ですが、すべての物事にはピンチの面もあれば、チャンスの面もあります。歴史をひもといても、パンデミックの後には文明社会の前進や大きな変革が起きています。

例えば、新型コロナのおかげでリモートワークやオンライン授業があっという間に普及し、日本社会のITリテラシーは格段に上がりました。ラッシュの中を決められた時間に出社し長時間仕事をすることが美徳とされた従来の働き方も、改革の必要性が叫ばれていながらなかなか変えることができなかった。ですが今回、多くの企業がテレワークを採り入れ、不可欠な仕事と不要不急な仕事を仕分けし、仕事の仕方にも工夫が求められるようになりました。これらはコロナが収束しても元には戻らないでしょう。古い価値観をとりはらい、日本の大きな課題だったG7(主要7カ国)最下位の労働生産性を向上させる絶好の機会です。

感染拡大をめぐっては、差別や南北問題、大国同士の対立などが顕在化し、世界の分断化や二極化が進むと心配する声もあがっています。ですが、これもまた一面的なものの見方ではないでしょうか。分断化に進もうとするベクトルがないとは言いませんが、同じように人類の「信頼と連帯」が必要だという力も、強く働いているのです。

リーマンショック以上といわれる経済の停滞が心配されるなかでも、主要国の為替や株価が比較的落ち着いているのは、世界の中央銀行が緊密に連絡をとりあって動いているからです。G20(主要20カ国・地域)も4月には発展途上国の債務返済を猶予する支援策を打ち出しました。

SDGsはまさに「信頼と連帯」をベースにした取り組みです。企業を含む多くのセクターがコロナ危機に直面してもSDGsの取り組みを強化していることは、まさにこの潮流が大きなものであることを示しています。20世紀とは、そこが違うのです。

思い込みを排し、データに基づいて世界を見る必要性を説いた『ファクトフルネス』という本がベストセラーになりましたが、政治やメディアは、雰囲気や個別の事象、特定の人物にひっぱられることなく、世界で何が起きているのかをもっとデータベースで見せていくべきです。

もちろん、今秋の米大統領選でトランプ大統領が続投となるか民主党のバイデン候補が勝つかによって、米国のかじ取りは大きく変わるでしょう。ですが、トランプ大統領の言動やそれを支持する人たちの動きだけを見て分断が助長されているとみるべきなのか。トランプ大統領は4年前の大統領選で民主党のヒラリー・クリントン候補に勝って就任したわけですが、その勝敗は誤差といっていいものでした。僕は長い歴史スパンで考えるとこれは「トランプ現象」という個別事象だと考えています。世界の大きな潮流は「信頼と連帯」です。

人・本・旅で脳を鍛える

変化の激しい時代には、備えよりも状況に適応していく力をつけていくことが重要です。人間の脳の活動のうち、意識できる活動というのは1割もないそうです。無意識の部分の活動が、実は人間の行動のほとんどを支配している。意識できている部分が「データ思考」であり「備え」だとすると、無意識部分は「デザイン思考」や「直観」です。無意識の9割を含めて脳全体をどう活用できるかが、変化への適応力を決めます。

無意識の部分とて、最初から備わっているわけではありません。さまざまな経験を通して蓄積した情報を統合することで、引き出しの多さが決まってきます。学習しないと「直観」も育たないのです。僕は人・本・旅が学びの基本だと考えています。

人工知能(AI)の発達で、オンライン会議のツールに自動翻訳の機能が備わるようになるのも時間の問題でしょう。そうなれば、ますますコミュニケーションと学びの機会は広がります。

グローバルな信頼と連帯の醸成を怠らずに続けていけば、未来は決して捨てたものではないと確信しています。

(構成・高橋万見子)

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