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「イノベーションでSDGsに貢献を」 日本・シンガポールでオンラインセミナー

「イノベーションでSDGsに貢献を」 日本・シンガポールでオンラインセミナー
朝日新聞アジア×ジェトロ・アジア経済研究所

よりよい未来のため、世界各地でSDGsの達成に向けた取り組みが進んでいる。世界経済の「成長センター」となってきたアジア地域も例外ではない。巨大なビジネスチャンスととらえ、新しい発想で課題を解決しようという企業も増えている。そこで、イノベーションの視点からSDGsについて考えるセミナーが12月1日、朝日新聞アジア(シンガポール)と、ジェトロ・アジア経済研究所(千葉市美浜区)の共催で開かれた。起業、投資、リスク管理などさまざまな経験を持つ4人の識者が、持続可能な世界に貢献する事業や投資のアイデア、日本企業に期待されることなどについて語り合った。(朝日新聞シンガポール支局長・西村宏治)

SDGs達成に向け、企業は重要なパートナー

「イノベーション視点で考えるSDGsとアジア」と題したセミナーは、シンガポールと日本を結んでオンライン形式で開催。両国のほか、アメリカや中国などから計624人が視聴した。開会にあたり都留悦史・朝日新聞アジア代表は、「SDGsの関連市場は12兆ドル(約1250兆円)とも言われるが、日本では事業というより社会貢献活動ととらえる向きもある。イノベーションを通じて、アジアでの社会課題の解決につながるヒントをさぐっていきたい」とあいさつした。

東京からモデレーターを務めたのはジェトロ・アジア経済研究所新領域研究センター法・制度研究グループ長の山田美和氏。「SDGsのアジェンダ2030は、企業を重要なパートナーとして位置づけている。それを前提に、企業にできることは何かを考えたい」と語り、全体の議論を導いた。

山田美和 ジェトロ・アジア経済研究所新領域研究センター法・制度研究グループ長
1998年、アジア経済研究所入所。経済協力研究部、バンコク駐在などを経て現職。専門はアジア法、法と開発、紛争処理制度。
「アジアに大きな可能性」ロー氏

前半では4人の登壇者がそれぞれ、いまの取り組みとSDGsについての考え方などを語った。

シンガポールで、スタートアップ企業への投資などを手がけるMistletoeシンガポールの大蘿(たい・ら)淳司・マネージングディレクターは「まちづくり」に関連した取り組みなどを紹介。「イノベーションは大事だが、それは誰のためか」と問題提起し、「テクノロジーの導入を目的にするのではなく、人間を中心に考えて、その取り組みをイノベーションとテクノロジーで支える」考え方が重要だと訴えた。

大蘿淳司 Mistletoeシンガポール・マネージングディレクター
2003年にYahoo! JAPAN初代マーケティング本部長、2010年からはSoftBank Mobile 常務執行取締役として、アジア諸国でのジョイント・ベンチャー設立、スタートアップ創業や投資活動に関与。2016年にMistletoeに参画し、現在はシンガポールを拠点に活動中。

日本の個人・企業から出資を募り、途上国の企業やビジネスリーダーに投資しているNPO法人ARUN Seedの功能(こう・の)聡子・代表理事が強調したのは、SDGs達成のために民間からの投資が必要とされていることだ。アジアを含めた世界中で、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を考慮するESG投資や、社会への前向きな影響を重視するインパクト投資が増えてきていると指摘。「リスクとリターンを考える軸から、社会的にポジティブなインパクトを追求する方向に変わってきている」などと語った。

功能聡子 ARUN合同会社代表
1995年からNGO、JICA、世界銀行などでの業務を通じてカンボジアの復興・開発支援に関与。2009年にARUNを設立し、日本発のグローバルな社会的投資プラットフォーム構築を目指し、途上国や新興国で社会起業家の発掘やインパクト投資を実践中。

シンガポールのスタートアップPiece Futureは、企業が活用できていない知的財産(IP)を、新興国での社会課題の解決に使ってもらうようにする事業を手がけている。創業者でCEO(最高経営責任者)ジェーソン・ロー氏はその事業を「テクノロジーのリサイクル」と説明し、パナソニックの特許を使い、ミャンマーの集落などで電気環境を改善した事業を紹介した。さらにシンガポール、香港のほか、マレーシアやタイにも事業を広げようとしているとして「この地域には大きな可能性がある」と語った。

Jason Loh Piece Future ファウンダー兼CEO
16年間パナソニックに勤め、2016年にIPインベストメントバンク「Piece Future」を設立。顧客企業が抱える膨大なIPポートフォリオの中から現地のニーズとトレンドに即して企業の特許評価や技術評価を行い、ポテンシャルの高い未活用特許を選別してアジアのベンチャー企業に投資する手法でイノベーションを推進中。
企業の現地での評判や、不正の有無など、幅広い調査を手がけるKroll Associates シンガポールの中村陶子・バイスプレジデントは日本企業が投資先について調査を依頼する場合の重要項目などを説明。E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)のうち、伝統的には「贈収賄リスク」など「G」の項目が多いが、「E」や「S」についての調査も増えてきていると語った。例えば環境では、「環境改善のために積極的に新技術を導入している」「工場からの排水が水質に悪影響を与えている」など、プラスマイナス両面から評価しているという。
中村陶子 Kroll Associatesシンガポール・バイスプレジデント
東南アジアでの企業向けのマーケットリサーチやリスクコンサルティングなどを経て2017年からKrollに在籍。担当はアジア太平洋地域で、主に日系企業から依頼を受け、現地投資先やビジネスパートナーなどの評価(デューデリジェンス)、不正調査などを手がける。
「水や衛生、身の回りの課題がイノベーションのきっかけに」功能氏

セミナー後半では、それぞれの立場からイノベーションとSDGsについて議論した。

大蘿氏はイノベーションについて、起こそうとして起こせるものではないと指摘。「新しい考え方ができる人が集まり、コミュニティーができ、刺激し合うようになって、そこからたまたま生まれる」と話すと、ロー氏が「コミュニティーは非常に重要。だから私も地域間のネットワークをつくりたいと考えている」と同調した。一方、功能氏はアジアでの「身の回りの課題」がイノベーションのきっかけになるとして「水や衛生、金融、ヘルスケアなどの分野からさまざまなイノベーションが生まれている」と語った。

ロー氏が、ソフトバンクで世界中のさまざまな案件に投資してきた経験を持つ大蘿氏に「どこがこれから投資すべき分野だと思うか」と質問する場面も。大蘿氏は「生活水準を上げていくことだと思っている。水もそうだし、トイレもそう。そういう分野で、非中央集権的なやり方で進められることを考えている」と語った。

新しいテクノロジーで社会課題を解決しようという場合には、その成果をどう測るかも問題になってくる。必ずしも、金銭的に大きなもうけが上げられるとは限らないからだ。

ロー氏はミャンマーでの電気事業の例を挙げ、「例えば電気が使えるようになった家庭の数などが考えられる」と説明。さらに、電気が使えるようになったことで、インターネットが使えるようになる、オンライン教材が使えるようになるといった副次的な効果も多かったと語った。

功能氏が多様な事業に共通する指標として挙げたのは「雇用への貢献」だ。「人数だけでなく、雇用の質も考える。例えば家事労働者関連の事業では、労働者の人権に気を配ったものかどうかも評価対象にしている」という。

一方、大蘿氏は「社会的にポジティブなインパクトと、投資のリターンは両立する」と強調。重要なポイントとして「現実と理想のギャップが大きいところを狙い、そこにテクノロジーや新しい発想を入れて、大きなジャンプをすること」を挙げた。リープフロッグと呼ばれるような大きな変化を招くことが、金銭的にも大きな投資のリターンにつながるとの見方だ。

「リスクへの対応、あらかじめ準備を」中村氏

セミナーの視聴者から質問も寄せられた。

「日本企業が投資先のリスクを調べるときの課題は?」という質問には、中村氏が「デューデリジェンスでリスクが見つかったときに、どう対応するのかが社内で決まっていないことがある」と回答。どの程度のリスクなら話を進めるのかなどが決まっていない会社も多いといい、「見つかったら前に進めないというのではなくて、契約に保証をつけるなど、対応方法はある。ある程度決まっていると話が進みやすいのでは」と話す。

ユニコーン企業とゼブラ企業についての質問もあった。急成長や市場の独占をめざす新興企業がユニコーンと呼ばれているのに対し、持続可能性や他社との共存を重視する新興企業はゼブラと呼ばれている。これまでは大きな投資リターンを上げるユニコーンが注目されてきたが、最近ではリターンが小さくても持続可能性が高いゼブラも同じように注目されてきている。これには大蘿氏が「独占の仕方によるが、大きくなること自体は問題ないだろうと考えている」と回答。「ユニコーンだけれども、独占ではない、シマウマであればいい。社会的に大きなことと、利益を上げることは矛盾しない」と応じた。

「SDGsに携わらないと、会社は存続できないとの緊迫感を」大蘿氏

セミナーの最後には4人の登壇者から、改めて参加者へのメッセージが送られた。

功能氏は「アジアの起業家たちが、現場で見えている課題に向き合い、解決しようと試行錯誤を繰り返している。(SDGsへの投資は)社会貢献の色が強いのかとの質問があったが、ビジネスと表裏一体。なぜならそこに人々の暮らしがあり、それを変える起業家の営みがある。日本からは見えにくいかもしれないが、関心を持ってつながることができれば日本企業が果たせる役割も大きいし、私たちが受ける刺激も、アイデアもある」と語った。

「これからは日系企業のASEAN投資も増えるだろうし、それはESG、SDGsにつながる投資になるだろう」とまとめたのは中村氏。「投資効果を最大化するには、ポジティブな面だけでなく、ネガティブな面も含めて相手が何者かを分かったうえで投資することが大事。とくに持続可能な投資では、いま問題がなくても、将来的にリスクがないのかも見極めていく必要がある」と話した。

ロー氏が強調したのは、アジアの潜在能力の高さだ。「リソースが豊富で、通信基盤などのインフラも整っている。文化も多様、言語も多様なのでこの地域を理解するのは簡単ではないが、例えば英語が分かれば架け橋にはなる。この地域の成長のためにどんな支援ができるかという開かれた心も持ってほしい。この地域の人々は教育に熱心で、学ぼうという熱意もある。日本企業も、文化の違いをあまり心配しないで、参入してほしい」と語った。

最後に議論をまとめる形になった大蘿氏は「日本はアジアの一員だと強く意識する必要がある」と訴えた。日本国内の経済規模の縮小が予想される中で、成長する市場での活躍が求められているという。「日本の素晴らしい技術とアジアの知見を生かして、融合したものづくりができるかどうか。そこに踏み込めるかどうかだと思う。持続可能性は飾りではなく、10年後には間違いなく巨大な産業になっている。それをやらないと、自分たちの会社は存続できないという緊迫感を持てるかどうかが分岐点になる」

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