SDGs ACTION!

SDGsを学ぶことでキャリアを考えるきっかけに ビジネスパーソンのためのSDGs講座【10】

SDGsを学ぶことでキャリアを考えるきっかけに ビジネスパーソンのためのSDGs講座【10】
横田アソシエイツ代表取締役/横田浩一

横田浩一(よこた・こういち)
慶応義塾大大学院特任教授。企業のブランディング、マーケティング、SDGsなどのコンサルタントを務め、地方創生や高校のSDGs教育にも携わる。岩手県釜石市地方創生アドバイザー、セブン銀行SDGsアドバイザー。共著に「SDGsの本質」「ソーシャルインパクト」など多数。

キャリア教育の重要性

中高生に対するキャリア教育の重要性が増している。

人生100年時代、70歳すぎまで働く時代において、転職や起業、独立が当たり前になった。40~50年、同じ会社にずっと勤める人のほうが少なくなるだろう。そうなると、良い大学へ進学し、ブランド力の高い企業に入れば人生安泰という、何となくあった「勝ち組」の構図がすでに崩れてきている。筆者の周りの学生からも、就活時に「どこの会社に入ると成長できますか」と聞かれることが多い。ずっとその会社にいることよりも、どの職場だと自分の価値を高めることができるかが、1社目の選択の重要な基準になっている。このように若者は、転職や起業も視野に入れたキャリアを描くことが普通になった。

しかし、残念ながら早くからキャリアを考えている大学生はそう多くない、と感じる。また、大学3年生の就活時期からキャリアを意識していても、結局は内定をもらった中で、ブランド力のある企業に進むことが多い。そうしたことを考えると、筆者は大学でキャリアを考え始めるのでは遅いのではないかと感じている。

高校時代からキャリア教育を

このようなキャリアプランを考える授業を、筆者は高校生に対して行っている。考えるきっかけは早いほうがよい。これから何ができるか、自分で考え行動できるか、どのような仲間がいるのか、そして何をすれば幸せかを考え、自己決定していく時代だ。それを考えるためには、将来何をしたいか、どのような職業に就きたいかからさかのぼって、いまどう行動すべきかを考えることが有効だ。もちろん、描いたプラン通りに人生を送ることができる人は少数かもしれない。しかし、自分の頭で考え、自分で選択し、今そのために努力する経験は後に残るし、自己決定することが自己肯定感を高め、幸福感を得るために重要なのだ。

しかし、高校生は先生と親の仕事ぐらいしか職業のイメージが湧かない。学校や塾と家の往復だけで、地域活動やコミュニティーに属していないと、地域社会がどのようなものか、地元はどのような特徴があるのかも分からないまま、進学することとなる。このように高校生にキャリアを考えようといっても難しい。働くことや仕事が想像できないのだ。

SDGsをテーマに総合学習を

そこで有効なのがSDGsをテーマにした探究学習、総合学習だ。社会課題を調べることにより、地域や社会の人や組織、構造を理解する。そして活動的なグループは、実際に社会課題解決をしている人や当事者に話を聞いたり、調べたりする。その結果、そこで活動している人たちの活動を知り、社会の仕組みや仕事の実感も持つようになる。

SDGsの本質について、筆者は「ありたい未来」から現在の行動を考える「バックキャスティング」、異なるアクターで協力しあう「マルチステークホルダー」、そして社会課題に接することで、内発的動機づけによるアクションにつなげる「自分ごととしての行動」の3点を、『SDGs の本質』(共著)で指摘した。

<SDGsの本質 3つのポイント>

「SDGsの本質」(御友・横田・原2020)から

リンダ・グラットンが、人生100年時代の働き方について書いた著書「ワーク・シフト」の中で、これからのキャリアに必要と指摘しているのは「連続スペシャリスト(専門性)」「協力して起こすイノベーション(人的ネットワーク)」「情熱を傾けられる経験(生き方・価値観)」の3点だ。これは「SDGsの本質」で指摘した3点と親和性が高い。

<人生100年時代に必要な3要素>

リンダ・グラットン「ワーク・シフト」から筆者作成

   <SDGsの本質3つのポイントと人生100年時代に必要な3要素の比較>

未来のありたい姿を考え、いま行動していくことは、キャリアに置き換えると、どのような専門性を持つべきかを考えるきっかけになる。私たちが指摘した「異なるアクターのつながりによる変革」は、グラットンの言う「協力して起こすイノベーション」と同義だ。そして内発的動機づけからの「自分ごととしての行動」を起こすことにより、自分の生き方や何をやるべきかという価値観の形成につながる。SDGsを学び、行動することは、その後のキャリア教育を行う際に、基礎ができていることになるのだ。

2018年に政府が発表したSDGsのアクションプランの3本柱の一つに次世代・女性のエンパワーメントが挙げられている。次世代に対するSDGs教育や学びが重要視された。同時に学校においては新学習指導要領が導入される。昨年から小学校、この春から中学校で実施され、来春からは高校でも年次進行で実施される。新学習指導要領の前文と総則に「持続可能な社会の創り手の育成」が明記され、主体的、対話的で深い学びの視点から「探究」の授業が始まっている。そして探究の授業とSDGsは親和性が高い。社会課題を考えることで、困っている人や課題に共感し、内発的動機づけで行動を起こすことができるからだ。

石川県立金沢西高での実践

金沢市のSDGsのプログラムとして、石川県立金沢西高校でSDGsをテーマにした総合学習の授業が行われている。基本的な組み立ては、筆者及び大学生が金沢市の協力を得て実施している。

2019年度のプログラムは、「私と私の街の未来について考えたい10のこと」として社会課題を設定、好きなテーマを選んでグループで発表してもらった。「快適でここちよい街づくり」「教育の機会が公平」「ダイバーシティー」「環境」「生涯にわたって活躍」「AI時代に活躍できる人材」「コミュニティー」「文化を守り発展」「多文化共生」などを挙げ、大学生や社会人のメンターから意見を聞きながら進めていった。実際に高齢者に会って話を聞いたり、LGBTQのセミナーに自主的に参加したりしたグループもいた。フリースクールを見学したグループは、学校外での教育の重要性について校内でプレゼンをした。

20年に実施した2年目のプログラムでは、今までの人生のアップダウンを図にして、今までの自分を理解した上で、仕事やプライベートなど30歳でのなりたい姿を考えてもらった。そしてそのためにいま何をすべきかを記入してもらった。公務員になりたい、大企業に入りたい、看護師になりたいと具体的に書ける生徒もいれば、良い仲間と仕事をしたい、海外で仕事をしたいという夢を書く生徒もいた。また、飲食店を経営したい、NPOを設立したいという起業志向の生徒もいた。

それを書いた上で、どのような大学、学部や専門学校に進学すべきか、その夢を叶えるためにはどのような努力が必要かを書いて、その夢の解像度を上げていく。そうすると、もっとも多感な時期に、キャリアを考える習慣がつくようになる。

金沢西高等学校における総合学習の発表会(2020年2月、筆者撮影)

社会課題を起点に考え、行動できる人材を

困っている人を目の前にすると、「何かできないか」と思う人が多いだろう。共感とは2つの側面がある。他者の内面について想像や推測をする「認知的側面」と、他者の感情を同じように理解する「感情的側面」だ。そして共感をすると、その人に対して援助行動をしたり、自分は何もできないと罪悪感を持ったり、社会的課題を解決するための行動そのものに向かったりする。援助活動をする、あるいは人や社会のために無心で行う向社会的行動を起こしたりすることは、「問題解決型学習」(プロジェクトベースドラーニング=PBL)であり、キャリア教育にもつながるのだ。

活動を進める中で、SDGsを学び、それが共通言語になることで、学生たちは大人とも対等な議論ができるようになる。また、地域を知ることになり、自分の地域を愛する「シビックプライド」を醸成することができる。シビックプライドが高い生徒は、継続してその地域に居住したり、違う地域に行ってもその地域と関係性を持ったりするようになる。


  【金沢西高等学校におけるアンケート】

(注:2年続けて同じ生徒を調査。2020年3月N=312、2021年3月N=353)

このような価値観を持つ将来世代が就職するとき、どのような組織や働き方を選ぶか。やりたいことで企業を選ぶ時代だ。終身雇用のイメージの「就社」から、キャリアの選択肢が多くなった就活において、サステイナビリティーというキーワードが挙げられるのは間違いない。企業としても、このような教育に直接関わる、あるいはNPOを支援することなどで、その感覚や感性を肌感覚として持っておくことはとても大切であるし、次世代育成に貢献することは企業の社会的責任として求められている。

この記事をシェア
関連記事