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インドでイチゴを育てたエンジニアの「強烈にやりたいこと」【4Revs】日本のイントラプレナー②

インドでイチゴを育てたエンジニアの「強烈にやりたいこと」【4Revs】日本のイントラプレナー②
NEC コーポレート事業開発本部 AgriTech事業開発室 エキスパート/渡辺周

コンピューターや通信機器、ソフトウェア――デジタルトランスフォーメーション(DX)でしのぎを削るエレクトロニクス業界の一角、NECで、せっせと畑に通うエンジニアがいる。渡辺周さん(43)。人工知能(AI)を駆使して挑むのは、トマトなどの野菜や穀物づくりだ。目指すのは、「公平な世界」だという。(聞き手・編集部 竹山栄太郎)

「最適化」で優秀農家並みに

――「NECで野菜?」と、びっくりしました。

私たちは、「CropScope」(クロップスコープ)というAIやICT(情報通信技術)を使った農業支援プラットフォームを開発しています。

世界的に農業は集約化が進んでいます。人件費の上昇もあって、現代の農場は、いかに効率的に管理するかが課題です。そこをICTでサポートする。主軸は、衛星やセンサーを使った作物の生育状況のモニタリングですが、欧米勢が強くて正直、競争は厳しいです。

ですので、他社と差別化するために、CropScopeが力を入れているのが、データをAIでしっかり分析し、肥料や水をいつどれだけ投入すればおいしい作物をたくさん収穫できるのか、最適化のモデルをつくることです。

CropScopeで農場を管理する(NEC提供)

CropScopeのサポートがあれば、農業の経験や豊富な知識がなくても生産性を上げられます。カゴメ(名古屋市)とのトマトの栽培実験では、「篤農家」とよばれる地域の優秀な農家とほぼ同じレベルの収穫量を達成できました。農業に新規参入した法人の経営を早く軌道に乗せるのにも役立ちますし、地域全体の農業レベルを底上げすることにもつながります。

CropScopeの概要(NEC提供)

――どれぐらい広がっているのですか。

日本以外に、米国、オーストラリアなど6カ国で導入実績があります。僕の仕事はトマト以外の作物で、新しい国々へ応用展開をしていくことです。インドやインドネシア、南米など、途上国寄りの国にアプローチしています。お客さんの課題に向き合い、その地域の特定の作物でシェア1位をとるのが目標です。

5%の「違和感」、思い立ち転身

――キヤノンから転職されたんですよね。

はい。レンズの設計や海外向けに技術営業をしていました。半導体など先端技術を担当できて、仕事自体は楽しかったのです。

でも、働き始めて5年ぐらいした27、8歳のとき、「これが最終的にやりたいことなのか」と思い始めました。95%満足していたけれど、残り5%に何か引っかかった。

この違和感は何だろう。いろいろと考えていったときに、「不平等な環境を平等にしたい」というような思いに至りました。半導体が使われる液晶テレビやスマートフォンは、すでに豊かな人たちの生活をより豊かにするものです。でも、そっちではなく途上国の底上げという問題を解決したくなった。

手段としては、農業、医療、教育のどれか。なかでも農業はキヤノンで培った工業的な考え方がまだまだ必要な産業で、やりがいがありそうでした。

NECの渡辺周さん

2011年、ちょうどNECが製造業向けのコンサルタントを募集しており、ビジネスの力を磨きながら将来を考えられるのではと思い、転職を決めました。

入社後、たまたまインドで野菜(後にイチゴ)をつくる企画がCSRの部署で立ち上がったので、当初はそこにプロボノ(仕事で培った知識や経験をいかし、社会貢献をすること)として加わったんですが、ほどなくしてCSR部門に異動になりました。本格的に関わるようになり、最終的にはプロジェクトリーダーを務めました。

インドのイチゴプロジェクト時代の渡辺周さん(左端、本人提供)

「ミガキイチゴ」で知られる農業ベンチャーのGRA(宮城)にも創業直後の12年から関与することになり、海外展開や新規就農支援事業を担当しました。15年から20年までは、執行役員として経営にも携わりました。つくっているのはイチゴだけでしたが、上流から下流まで一気通貫でやっている会社で、農業を知るにはもってこいでした。

――インドでのプロジェクトはいかがでしたか。

日本からイチゴの苗を輸入し、設備をつくり、栽培方法を指導し、販路を開拓していきました。日本のイチゴは甘くて圧倒的においしく、海外では重宝されるんです。

インドのイチゴプロジェクト時代の渡辺周さん(左、本人提供)

ただ、課題は山積していました。井戸を掘っても水は出ない、電気もしょっちゅう止まる。農場をつくるとなれば、日本ならまず地面を平らに整地するでしょう? ですが、インドではそうならない。

当時は国民性の違いかと思ったのですが、後にインドから日本に来た技能実習生たちのすばらしい仕事ぶりを見て、環境の違いだとわかりました。例えば、「農場にごみを捨てない」「ハウスに入る前に手を洗って作物に触る」といったことは日本人には当たり前に思えますが、多くのインド人にとってはそうではない。インドでインド人が見たことも経験したこともないことを一生懸命教えても、身につきません。

海外に展開するときは相手目線で、現地の人ができる仕事を生み出さなければいけないと気づきました。

不確実性の中で見いだした自分の強さ

――何が渡辺さんを突き動かしているのですか。

社会課題解決を起点とするビジネスを本気でつくりたい、という志です。あと、性格として何が起きるかわからない、思ったとおりに進まないなかで意思決定をしていくのが好きなんです。もっとスピード感をもってやれないか、いまも物足りなさを感じますが、方向性に後悔はありません。「もっとやれるはずだ」「どうすればもっとできるんだろう」と日々考えています。

NECのような大企業だと新規事業といっても一定の規模感がないと継続が認められませんから、「どれだけ多くの人の生活を変えられるか」というのはチャレンジでもあります。

NECの渡辺周さん

当初は大したスキルもなく、困難にぶつかると「無理じゃないか」と何度も思いましたが、「間違っていない」「誰かのためになっている」ということが糧になりました。自分を信じていないと、意思決定したり、上司を説得したりはできません。ですから、強烈にやりたいことを持っているということは、すごく強いですよね。

「自分が会社を変えられた」とまでは思いませんが、新規事業開発をめぐる社内の制度や評価方法はずいぶんと整いましたよ。僕のように苦しみあがく人たちを見て、制度をつくろうとしてくれた人たちがいたわけです。昔は、うまくいかなくても「上司が認めない」「制度がない」と言っていればよかったですが、いまではもう会社のせいにできなくなりつつあります。

――今後の夢は何でしょうか。

社会課題解決を起点とするビジネスを本気でつくり、「自分で何かをなしえた」と言えるところまでやり続けたいです。利益を出して、世の中に認められ、誰かを助けられる仕事をつくる。そして、誰にも平等な権利がある、公平な世界をつくりたいです。

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