食品ロス削減へ、ブロッコリーの茎を活用したチップス発売 オイシックス・ラ・大地が描く「食のアップサイクル」

捨てられるはずのブロッコリーの茎や大根の皮が、子どもも食べられるお菓子に――。生鮮食品の宅配サービスを手がけるオイシックス・ラ・大地(東京)が、廃棄食材を原料に活用したチップスを売り出した。食品ロスを削減しつつ、野菜の新しいおいしさを伝えたいという。「Upcycle by Oisix(アップサイクル・バイ・オイシックス)」のブランド名で品ぞろえを増やし、消費者への浸透を図る構えだ。(編集部・竹山栄太郎)
捨てられるはずのモノや役に立たないとされたモノに、新しい付加価値を与え、別の製品に生まれ変わらせること。大量生産・大量消費が課題のアパレル業界で取り組みが進んでおり、古着の布を使ってバッグをつくるなどの例がある。不用品を再資源化し、再利用するリサイクルとは区別される。
製造過程で残る茎や皮を活用
オイシックス・ラ・大地は、「ここも食べられるチップス ブロッコリーの茎」(内容量30g、税込み430円)と、「ここも食べられるチップス だいこんの皮」(20g、430円)の2商品を7月8日、会員向け通販サイトで発売した。

ブロッコリーは、冷凍ブロッコリーのカット工場で花蕾(からい:つぼみの部分)をカットした後に残った茎を、スティック状に。大根は、漬物をつくるときにむいて残った皮を細長く切り、それぞれココナツオイルで揚げて、チップスに加工した。1袋でブロッコリーの茎は約300g、大根の皮は約170gを使う。そのまま食べるほか、スープに浮かべたりサラダに混ぜたりするのもおすすめだという。
当初、原料の供給を受ける群馬県の加工工場では、これまでブロッコリーの茎が最大で月1.5t、大根の皮は月4t廃棄されていた。
商品開発を担当したオイシックス・ラ・大地の東海林(とうかいりん)園子さんは、「加工品は見た目が特に重視され、現場での廃棄が増える傾向にある。それを違う商品に生まれ変わらせることで食品ロスを撲滅したい。また、廃棄されるなかには実は食べればおいしいものもあり、顧客に新しい食の体験を提案したい」と話す。




「Upcycle by Oisix」の構想は昨年秋に始まり、今年春ごろから商品開発にとりかかった。最初の商品としてチップスを選んだのは、廃棄食材との関係がわかりやすく、年代や性別にかかわらず食べやすいからだという。
顧客の反応はよく、発売1週間で「ブロッコリーの茎」は計画の3倍以上、「だいこんの皮」も約2倍が売れた。7月中に1tの食品ロス削減を達成。原料の供給元を増やし、2商品合計で月2tのロス削減をめざす。
また、シリーズを広げて3年後には年間約500t、提携先100社のロスを減らす目標を掲げている。


オイシックス・ラ・大地は、「Oisix」「らでぃっしゅぼーや」「大地を守る会」のブランドで農産物の宅配サービスを展開。3ブランド計の会員数(21年3月末)は約42万人で、コロナ禍による宅配需要の高まりを追い風に前年より約8万人増えた。
年間600万tの食品ロス
日本の食品ロスの現状は深刻だ。農林水産省と環境省によると、18年度の推計値で年間約600万t。国民1人あたり年間約47kgで、「毎日茶わん1杯分のごはんを捨てているのと同じ量」にあたるという。約600万tのうち、事業系は約324万t、家庭系が約276万tとなっている。
19年には「食品ロス削減推進法」が施行された。政府は、食品ロスを30年度までに00年度の半分の500万t弱にまで減らす目標を定めている。
SDGsでは、目標12「つくる責任 つかう責任」のなかのターゲット12.3で、「2030年までに小売り・消費レベルにおける世界全体の1人当たりの食料の廃棄(food waste)を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失(food losses)を減少させる」ことが掲げられている。
日本政府は、食品ロスを「本来食べられるにもかかわらず捨てられる食品のこと」と定義する。国内では「フードロス」も同じように使われているが、両者の違いが指摘されることもある。国連食糧農業機関(FAO)は”food loss”について、小売りや食品サービス(外食など)、消費者をのぞくサプライチェーン、つまり生産や流通段階での食品の損失と定義。小売りや食品サービス、消費者による食品の廃棄は”food waste”として区別している。日本語の「食品ロス」は二つを合わせたものと言える。また、「食品廃棄物」には食品ロスのほか、魚や肉の骨など食べられない部分も含む。


新ブランド、ミツカンも
食品ロスの対策として飼料や肥料に活用する例は多いが、Upcycle by Oisixのようにこれまで食べられていなかった部分に注目する動きもじわりと出てきている。
ミツカングループ(愛知県半田市)は、パプリカのわたや枝豆のさや、トウモロコシの芯など、普段は捨てたり食べなかったりする部分も含めて、野菜や穀物をまるごと使うブランド「ZENB(ゼンブ)」を2019年3月に立ち上げた。
これまでに、野菜とオリーブオイルでつくった「ZENB PASTE(ゼンブペースト)」や、黄えんどう豆だけでつくった麺の「ZENB NOODLE(ゼンブヌードル)」など6種類計22商品を発売。レシピの提案もしている。


新しい食の体験を
オイシックス・ラ・大地で「ここも食べられるチップス」の商品開発を担当した東海林園子さんと、ブランド企画を担当した三輪千晴さんに、商品のねらいや課題を尋ねた。
――「Upcycle by Oisix」とはどんなブランドですか。
東海林 普通は食べずにごみとなってしまう食材を、新しい価値ある商品に生まれ変わらせるものです。食品ロスを減らし、新しい食の体験を提案できたらと考えています。第一弾の二つはとにかく味にこだわりました。「アップサイクルだからこの程度でいい」とは考えたくなかった。「食べられなかった部分がこんなにおいしくなるんだ」と驚いてもらえたらと思います。
――ターゲットはどんな人たちですか。
三輪 30~40代で、エシカル消費(社会や環境に配慮した消費)に関心があったり、生活にこだわりがあったりする女性です。パッケージも奇抜にせず、ピクニックに持って行ったり、お友達にプレゼントしたりできるようなものをめざしました。

――食品廃棄物を堆肥(たいひ)や家畜のエサにする取り組みもあります。なぜそうはせず、人が食べるものにしたのですか。
東海林 堆肥化が悪いわけではありませんが、食を扱う企業の責任として、ちゃんと人に食べてもらったほうがいいと思ったからです。大根の生産者は「皮は捨てられる部分だからいいや」と育てているわけではなく、一本一本に愛情を込めています。価値を上げて、新しいおいしさを提供していくほうが、課題解決につながると考えました。生産者にも「せっかくおいしいものだから、もっといい商品に生まれ変わらせましょう」と話しています。農家は人手不足で、アップサイクルに回すものを仕分ける人材の余裕がないのも実情です。効率だけを考えれば「廃棄すればいいや」という判断になってしまいがちですが、そこを我々と生産者が一緒に見つめ直せたらと考えています。


――一般のお菓子と比べると、価格はちょっと高めですね。
東海林 価格は課題です。再加工には工夫が必要でコストもかかるため、どうしても高くなってしまいます。今回の廃棄食材は関東の契約工場からいただいていますが、チップスに加工する工場は大阪にあり、いたまないように冷蔵して運んでいます。近くで加工できるようになれば――つまり、ごみが発生する場所とごみを生まれ変わらせる場所の距離を縮められれば、もっと変わってくると思います。

――今回の取り組みを通じて、提供したい価値は何ですか。
三輪 一つは、食品ロスや環境問題に関して、自分たちができることをすること。子どもの食育に使うようなことも通じて、社会全体のムーブメントをつくっていきたいです。もう一つは、野菜が本来持つおいしさや、新しい一面を知ってもらうことです。「茎や皮って、食べてみたらおいしいんだ」と感じてもらえれば、家庭でも調理してもらえるようになり、家庭の食品ロス削減にもつなげられると思っています。
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