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「ひめゆり平和祈念資料館」に見る、SDGsと平和教育のいま ビジネスパーソンのためのSDGs講座【12】

「ひめゆり平和祈念資料館」に見る、SDGsと平和教育のいま ビジネスパーソンのためのSDGs講座【12】
横田浩一(よこた・こういち)
慶応義塾大大学院特任教授。企業のブランディング、マーケティング、SDGsなどのコンサルタントを務め、地方創生や高校のSDGs教育にも携わる。岩手県釜石市地方創生アドバイザー、セブン銀行SDGsアドバイザー。共著に「SDGsの本質」「ソーシャルインパクト」など多数。

ひめゆり平和祈念資料館(沖縄県糸満市)が経営の危機に直面している。修学旅行などで1度は訪れたことがある方が多いのではないかと思うが、この資料館が民間の経営だということはあまり知られていない。新型コロナウイルスによる影響で、2020年度の入場者は、前年と比べて86%減少し大変な状況だ。資料館の現状と意義について、古賀徳子学芸課長に聞いた。

リニューアルされた第1展示室(写真=ひめゆり平和祈念資料館)

コロナ禍で入館者が激減し、寄付呼びかけ

今年6月上旬、ひめゆり平和祈念資料館のTwitterに、寄付のお願いが投稿された。

2019年度の入館者数は約50万人。それが20年度には6万6千人まで落ち込んだ。ちなみに、過去最高は1999年度の100万人で、この10年は減少傾向にある。民間経営である資料館は、年間1億4000万円程度の維持費がかかるが、収入のほとんどは入館料だ。

このTwitterの反響は大きく、約1万6000のリツイート、1万4000を超える「いいね」がつき、大きな反響を呼んだ。1カ月の間に8917件5086万円の寄付が集まった。

さらに、支援の輪は広がる。この経営危機を知ったミュージシャン、MONGOL(モンゴル)800のキヨサクさんが、チャリティーライブを企画。「ひめゆりの塔」の前で収録し、「慰霊の日」の23日に配信を始めた。スペシャルゲストとして、Kiroroの玉城千春さん、沖縄を代表する民謡歌手の古謝(こじゃ)美佐子さんが参加した。3人は、沖縄戦をどう語り継いでいくかや、それぞれの「ひめゆり」への思いも語っている。

県内の自治体でも支援の動きが出始めた。糸満市と中城村(なかぐすくそん)は、夏休み前に、親子入館券を小中学校の全児童・生徒に無料配布した。子どもたちの平和学習と資料館の経営支援を両立する狙いだ。

若い世代に向けリニューアル

資料館は今年4月にリニューアルをした。1989年に設立され、2004年にリニューアルをして以来17年ぶりだ。元学徒も高齢化がすすみ、戦争から遠くなった。若い世代にどうやったら伝わるのか、どうしたらわかりやすくなるのかに力点を置いた。

第1展示室では、ひめゆり学徒の学校生活を生き生きと伝えている。写真はできるだけ笑顔や飾らない雰囲気のものを選び、生徒のありのままの姿を感じてもらえるように配慮した。当時、生徒が先生にあだ名をつけていたことなどを盛り込んだ展示は、修学旅行生などの現代の若者にとって身近な内容となっている。

第1展示室。普通の学生生活があったことが描かれている(写真=ひめゆり平和祈念資料館提供)

次の展示室では、生徒が沖縄戦に巻き込まれていく様子を訴える展示にした。陸軍病院での仕事や過酷な体験を通して、楽しく、普通の学校生活が沖縄戦によって壊されてしまったことが印象に残るようにした。イラストを効果的に使用し、文章では理解しづらい内容が目で見てわかるようになった。

第2展示室「ひめゆりの戦場」(写真=ひめゆり平和祈念資料館提供)

第5展示室では、ひめゆり学徒の戦後の歩みを紹介した。長い間戦争を語ることができなかった元学徒がひめゆり平和祈念資料館を建設し、戦争体験を語るまでを伝えた。元学徒は90代となり、昨年2月からは、新型コロナの影響で、30年間続けてきた展示室での証言活動も休止している。

第5展示室。「ひめゆりの戦後」(写真=ひめゆり平和祈念資料館提供)

元学徒の思いを伝えるために

古賀学芸課長は「来館者の感想を見ると、当時の生徒と自分たちに共通点が多いことは伝わったと思う。その一方で当時の教育や社会のあり方は、今と大きく違うことについては、もっと伝えていく必要があると思います」と語る。

古賀徳子さん(撮影・筆者)

古賀さんは北九州市出身。大学生のときにスタディーツアーで沖縄を訪れ、資料館も見学した。高齢の元学徒が、自分のように沖縄戦のことを何も知らない来館者に、つらい戦争体験を話すのは大変だろうなと感じたという。そして、2度と戦争をしてはいけないと真剣に語りかける姿を見て、何が原動力になっているのだろうと思った。そして、大学を卒業して沖縄にきて、資料館に関わるようになったという。

「絵本ひめゆり」。イラストで戦争の悲惨さを伝えている(写真=ひめゆり平和祈念資料館提供)

高まる平和教育の重要性

SDGsの17目標には、「質の高い教育をみんなに」(目標4)、「平和と公正をすべての人に」(同16)という目標がある。SDGsという考え方が普及していく中で、平和教育の必要性は高まっている。
古賀さんは「質の高い教育」に着目している。

平和教育を推進するためには、まず、若い人たちに平和に興味をもってもらうことが必要だが、若い人には、戦争に関しては教科書でも学んだし、「その重要性は知っているよ」という気持ちもある。
資料館を訪れる修学旅行生には、事前、事後学習が重要になるが、若い人向けメディアであるYouTubeやSNSに平和教育に関する情報は少ない。平和の大切さの伝え方、若い人へのアプローチの仕方など工夫が必要だと感じているという。

工夫の一つとして、古賀さんは、オンラインのワークショップも試みている。今年3月、古賀さんは筆者や慶應義塾大学の学生らと、イラストを主に使う「フォトランゲージ」ワークショップを実施した。写真やイラストを見て、解説を少し聞いて何を感じるかというディスカッション中心のワークショップだ。

大学生からは、「インパクトが強いので感情や理屈を消化しきれない。上手に伝えるにはそれを分解する必要があるのではないか」「正しい情報をどうやって入手するか、それでどう判断するかなど、今の自分として考えたい」「現実は二項対立ではない。視点が変われば解釈が変わる」などの意見が出た。資料館に行って理解し感情移入することは大切だが、その場限りになってしまうことも多い。このようにディスカッションを行うと平和教育に深みを持たせることができる。

「平和なくして持続的開発はない」

学校における新学習指導要領の中で、総合的学習や探究学習が進められている。その中に平和学習を取り込む先生も多いだろう。このような授業において、「なぜ戦争がおきたか」「沖縄戦の県民の犠牲がここまで多くなったか」など多くの視点で議論をできる学習が必要だ。

そして修学旅行で沖縄を訪れる際には、事前、事後学習が大切で、その際、是非生徒による議論や探究の時間を持ちたい。そのためには、この分野のファシリテーターができる先生や教育関係者が重要で、そのための教材も必要だ。

国連の主な目的の一つは平和と安全の維持だ。SDGsを盛り込んだ2015年の「2030アジェンダ」の中で「平和なくして持続的な開発はあり得ず、持続的な開発なくして平和もあり得ない」と明記している。その礎となる平和教育。語り手が高齢化する中で、SDGs視点や探究学習視点をさらに進化させる時期かもしれない。ひめゆり平和祈念資料館は日本における平和教育について重要な役割を担ってきたし、これからも長くそうであることを期待したい。

ひめゆり平和祈念資料館(撮影・筆者)

Keywords
ひめゆり学徒隊

1945年3月23日、沖縄師範学校女子部と県立第一高等女学校の生徒222人と教師18人が南風原(はえばる)の沖縄陸軍病院に動員、負傷兵の看護にあたった。その後南方へ撤退し6月18日解散命令。240人中136人が犠牲になった。戦後、「ひめゆり学徒隊」と呼ばれた。

Keywords
ひめゆり平和祈念資料館

1989年開館。ひめゆり同窓会が「戦争体験を語り継ぎ、平和の大切さを訴え続けること」を目的に設立。開館から30年を経て、その活動は戦後生まれの職員に引き継がれている。戦争からさらに遠くなった世代に戦争の恐ろしさと命の尊さ、平和の大切さを伝えていくため、今年4月に2回目の展示改装を行った。

 

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