海水使う温室で農業の水不足を解消する 【4Revs】ケーススタディーから 8月お薦めの1本

イノベーション・プラットフォーム「4Revs」との共同企画となるこのコーナーでは、4Revsが会員向けに提供している情報の一部を紹介していきます。毎月第3週は、世界各地のプログラムマネジャーやリサーチャーが報告する「ケーススタディー」から、お薦めの1本をお送りします。
企業名:レッドシー・ファームズ(RED SEA FARMS サウジアラビア)
飲料水の半分は海水の淡水化
サウジアラビアは恒常的な河川がない、世界で最も乾燥した国の一つだ。この国では、水を次の四つの水源から得ている。
① 深層化石帯水層からくみ上げる地下水(再利用不可)
② 海水を淡水化した水
③ 地表水
④ 浅い沖積地の帯水層からくみ上げる地下水
③④は再生可能だが、取水量は少ない。サウジアラビアの飲用水は、50%が海水淡水化プラントからで、40%が地下水、10%が地表水だ。97%の国民が飲用水にアクセスできているものの、世界で最も水資源が乏しい国に分類されている。
国連は絶対的な水不足とされるレベルを1人あたり年間500㎥と定めているが、サウジアラビアの水資源は1人あたり年間89.5㎥しかない。

サウジアラビアで水は主に農業に使われており、水利用全体の83%を占める。水不足はこれまで農業の大きな制約となっており、作物の自給率向上の足かせとなってきた。
海水の淡水化技術はより多くの水資源の確保につながったが、1㎥の淡水を得るのに1ドルかかり高コストなことに加え、大量のエネルギーを消費するため環境への負荷も大きい。海水の淡水化は年間14%のペースで増加しているが、サウジアラビアのエネルギー消費量の20%を占めている。
この国には、もっと低コストで低エネルギーな水資源へのアクセスが必要だ。とりわけ、水消費量の多い農業分野で解決策を探ることが重要となる。
海水で育つトマトを開発
この課題に取り組んでいるのが、サウジアラビアのスタートアップ企業、レッドシー・ファームズだ。同社は、中東を足場に、塩水に耐える作物や海水を利用した水耕栽培式の温室の開発を進めており現在、特許を出願している。
トマトの栽培からスタートした同社は、淡水の代わりに塩水をそのまま利用する技術と植物科学の研究を進めてきた。そして、通常のトマト栽培に使われる淡水の90%を海水に置き換え、エネルギー効率も6倍向上させることに成功した。

彼らの革新的な技術は、既存の温室に後付けできる栽培システムにある。温室内の蒸発冷却用に海水を使い、遠隔操作もできるようにすることで、自律的でインテリジェントな農業を生み出している。
レッドシー・ファームズはこの方式で、無農薬で遺伝子組み換えもしていない有機栽培トマトの生産に成功した。通常のトマトより多くのビタミンCを含み、保存性にも優れている。最近では、この生産システムを成長・拡大させるため200万ドルの資金調達にも成功した。

同社は、2000㎡級を含む四つの温室施設で自社技術を検証している。今後は、海水温室へ設備投資した農家が2年以内に資金回収できるようにし、国内にある温室の5%を海水温室へと転換させる計画だ。

ほかの乾燥地域への普及に期待
水不足の問題は今後、さらに深刻になっていくだろう。世界で最も水が不足している17地域のうち、12地域が中東と北アフリカに集中している。どこも水利用の大部分を農業が占めており、水不足はそのまま各国の食料自給力に直接影響する。実際、これらの地域の多くの国は食料の大半を輸入に頼っており、2035年には輸入額が年間700億ドルに達するとされている。
レッドシー・ファームズが開発する海水利用の水耕栽培は、こうした国々に対し、再生可能な水の取得にかかるコストを最小限にして農業従事者に安定をもたらし、食料の自給自足を実現する道筋を提供するものだ。
水耕栽培温室の活用は、無農薬・有機栽培による作物の普及にもつながる。サウジアラビアの温室の5%を海水温室にしようという彼らの取り組みは、他の乾燥地域や海岸線での作物栽培に応用できるだろう。(編集協力:慶応大学経済学部3年 青柳識)
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