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日清カップヌードル、「猫耳」のフタが示す50年目の挑戦 環境対応も「らしさ」も

日清カップヌードル、「猫耳」のフタが示す50年目の挑戦 環境対応も「らしさ」も

今年で発売50年を迎える日清食品の看板商品・カップヌードルに最近、ある異変が起きた。プラスチックの使用量を減らすため、底についていた「フタ止めシール」がなくなり、代わりにフタの開け口(タブ)が二つに増えたのだ。フタの裏には猫の顔が描かれ、二つのタブが「猫耳」に見える。変化の背景にあるのは、ただ環境を守るだけではなく、「らしさ」にもこだわろうとする「トレードオン」思考だ。(編集部・竹山栄太郎)

シール廃止で年間33tのプラスチックを削減

「発売50年を機に、カップヌードルの底に付けていた『フタ止めシール』を廃止することにしました」

「世界環境デー」前日の6月4日、カップヌードルのツイッターアカウント(@cupnoodle_jp)がこう投稿すると、ネット上では瞬く間に反響が広がった。

フタ止めシールは、カップヌードルのカップの底についた39mm×20mmの小さなシール。お湯を注いでできあがりを待つ間、フタが開かないように留めておく役目がある。

フタ止めシール(日清食品ホールディングス提供)

シールの廃止は「カップヌードル」のほか、「シーフードヌードル」「カレー」などのレギュラーサイズが対象。切り替えは順次進めるので、店頭に並んでいるものにはまだシールつきもある。廃止により、年間33tのプラスチック原料削減になるという。

従来のカップヌードルの底(左)にあったフタ止めシールが、切り替え後の商品(右)ではなくなった

シールがなくてもフタを留めやすくするため、開け口を二つに増やした新しいフタは、「Wタブ」と名づけられた。フタの形が変わるのはカップヌードルの発売以来初めてだという。

「Wタブ」になった新しいフタ(左)と従来のフタ

できることを今すぐに

カップヌードルは1971年9月18日、世界初のカップ麺として生まれた。翌年起きた「あさま山荘事件」で機動隊員がカップヌードルを食べている姿がテレビで中継され、ヒットにつながったとされる。今年で発売50年を迎える。

フタ止めシールは84年9月に登場した。日清食品マーケティング部でカップヌードルの責任者・ブランドマネージャーを務める白澤勉さん(47)によると、当時のカップは断熱性や保温性にすぐれた発泡スチロール。底は現在のようにへこんでおらず平らで、そのころ普及し始めたバーコードを印字できない問題もあった。そのため、シールには登場当初、次の三つの役割があったという。

(1)カップを包むフィルムをはがしやすくする
(2)バーコードを表示する
(3)お湯を注いだ後、フタを留めておく

発泡スチロールのカップは2008年、環境への配慮から、主原料を紙にした「ECOカップ」に変更された(注)。そのため、三つのうち(1)と(2)の問題は解決し、この後はもっぱら(3)の「フタ止め用」としてシールが残されてきた。日清食品の調査によると、フタ止めシールは消費者の6~7割が利用していたという。

(注)19年以降は石油由来のプラスチックを植物由来のバイオマスプラスチックに一部置き換え、「バイオマス度」を81%に引き上げた「バイオマスECOカップ」への移行を進めており、21年度中に切り替えが終わる予定。

これまでのカップヌードルのカップ。(左から)発売当時、08年のECOカップ変更前、従来の商品、新しいWタブ(いずれも提供)

日清食品は19年、「カップヌードル DO IT NOW!」と名づけたプロジェクトをスタート。「地球と人の未来のためにすべきこと、できることに今すぐ取り組んでいく」として、サステイナビリティーに配慮した「RSPO認証パーム油」(注)の導入や、健康のために通常より30%減塩した新商品の開発を進めてきた。今回のフタ止めシールの廃止もその一環だ。

(注)パーム油は、アブラヤシの果実からとれる植物油。食品や洗剤、化粧品などに広く使われる一方、生産過程での熱帯林の破壊や農園での強制労働といった問題を抱えている。2004年に「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO: Roundtable on Sustainable Palm Oil)が設立され、国際基準を満たしたパーム油の認証制度が始まった。

白澤さんによると、「カップヌードルが環境のためにできることを考えたとき、フタ止めシールはなくてもいいのではと考えた。廃止については以前から議論しており、社内で大きな反対はなかった」という。

「フタはアイデンティティー」 変更に賛否

ただ、話はそれで終わりではなかった。白澤さんは「お客さまの利便性を下げてはいけないし、ただシールをなくすだけでは芸がない」と力を込める。1年半ほど前から検討を進め、行き着いたアイデアが、タブを一つから二つに増やして、フタを留めやすくすることだった。

そもそも、紙とアルミ箔(はく)を貼り合わせたフタをカップに密着させ、食べるときにはがすというしくみは、湿気を防いで長く保存できるようにするためのもの。日清食品の創業者でカップヌードルを生んだ安藤百福のアイデアだ。海外出張の際、飛行機のなかで出されたマカデミアナッツの容器にヒントを得たという。

そんなフタの形状を変えることについては当初、社内で賛否が分かれたという。「カップヌードルのアイデンティティーであり、思い入れがある社員も多い」(白澤さん)。18年に稼働を開始した関西工場(滋賀県栗東市)の入り口の屋根が、フタの形になっているほどだ。

日清食品の関西工場。入り口の屋根がカップヌードルのフタの形になっている(提供)

現場レベルでの調整を進める一方、白澤さんは安藤徳隆社長(安藤百福の孫)に相談した。すると社長は「時代に即していくには変化は必要だ」と賛成。徳隆社長の父で、持ち株会社・日清食品ホールディングスの安藤宏基社長・CEO(最高経営責任者)も、「いいんじゃないか」とゴーサインを出した。トップのお墨付きを得たことで、社内も「Wタブ」の実現に向けて本格的に動き出した。

二つのタブのサイズや位置をめぐる検討のなかで浮かんだのが、タブを「猫耳」に見立てた「カップニャードル」。

2020年2月22日の「猫の日」に合わせて、カップヌードルのツイッターに投稿されたCGだった。12万件あまりの「いいね」がつく好評ぶり。新しいフタの裏に、同じように猫の顔を描くことにした。

フタを開けると……
猫の顔になる

なお、新しいフタの裏の一部には、猫ではなくシークレットキャラクターの「チベットスナギツネ」が描かれている。「遭遇率は6%」(広報担当者)だという。

チベットスナギツネが描かれたフタの裏。シュールな表情が特徴だ(提供)

カップヌードルはこれまで、ユニークなテレビCMやグッズでも注目されてきた。

過去のCMには、原始人がマンモスを追いかける「hungry?」シリーズや、Mr.Childrenの曲で平和を訴えた「NO BORDER」シリーズなどがある。日清食品グループのオンラインストアでは、「カップヌードル食ってる風Tシャツ」や、麺に見立てた紙テープと具材風の紙吹雪が飛ぶ「カップヌードルクラッカー」といったグッズが売られている。

「カップヌードル食ってる風Tシャツ」(提供)
「カップヌードルクラッカー」(提供)

白澤さんは「カップヌードルは、おいしさだけでなくエンターテインメントや楽しさを提供していくブランド。食べるときにくすっと笑ったり、ほっとしたりしてほしい」。

環境対応に「ユニークさ」をプラス

「100年ブランドをめざす」というカップヌードル。環境面での進化は、安全性や便利さとのバランスを見極めながら探っていくことになりそうだ。

ブランドマネージャーの白澤勉さん

カップは輸送時のパッケージであるとともに、食べるときには食器にもなる。そのカップを包むフィルムについて、白澤さんは「ラーメン屋のどんぶりが汚れていたら嫌なのと同じように、カップが汚れることへの抵抗感は小さくない。安全性や衛生面は大前提であり、いまの時点でフィルムをなくすのは難しい」と話す。

また、完全に紙製のカップを導入することに関しても、「技術的にはできるが、お湯を入れて持つと熱いといった問題があり、現時点では考えていない」という。

白澤さんは、フタ止めシール廃止をめぐるネットでの反響について「想像以上だった。多くの人の生活に密着したブランドなんだと改めて感じた」と振り返る。

二つのタブが「猫耳」に見えるカップヌードル
ブランドマネージャーの白澤勉さん

「カップヌードルには、どんどん変えていく部分と守らなければいけない部分がある。環境に関しては時代に合わせて進化しなければいけない。一方で、楽しみながら食べてもらうことも大切。環境問題に取り組むときも、カップヌードルらしいユニークさを加えていきたい」

企業が注目するサステイナブル経営では、「環境かコストか」といったトレードオフ(二律背反)が壁となりがちだ。日清食品が取り組む「環境対応も『らしさ』も」は、二兎を追う「トレードオン」思考。ロングセラーのささやかな一手に、これからの価値創造のヒントがあるかもしれない。

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