「地球に迷惑かけない洋服を」 エシカルファッションの伝道者、六つの基準で厳選【#チェンジメーカーズ】

社会課題解決のために奮闘するキーパーソンを紹介するシリーズ「#チェンジメーカーズ」。第3回は、人と環境に配慮した洋服だけを集めたセレクトショップの運営会社、Enter the E(エンター・ジ・イー、東京)社長の植月友美さんです。大好きな洋服が「迷惑」をかけているという気づきが原点だと言います。(聞き手 編集部・竹山栄太郎)
高校卒業後、古着のバイヤーなどをへてカナダのジョージ・ブラウン・カレッジで学び、米国のファッション業界で働く。帰国後、小売り大手勤務をへて2019年にボーダレス・ジャパンに参加、Enter the Eを起業。「E」にはEarth(地球)やEnvironment(環境)などの意味を込めたという。
「借金500万円」が転機
――「Enter the E」はどんな会社ですか。
人と環境に配慮した洋服だけを集めているセレクトショップです。日本ではまだ一般的ではありませんが、そういう服を着たい人が当たり前にアクセスできるようにしたいと思っています。2019年11月に立ち上げ、世界中から選んだ35ブランドを扱っています。
当初は自分のブランドをつくることも考えましたが、一つのブランドだけでは広がりません。そこで私がセレクターとなって、日本のみなさんに合い、かつ信念を持ってエシカル(倫理的)なものづくりをしているブランドを集めることにしたんです。

――これまでの歩みを教えてください。
祖父が洋品店を営み、母も洋裁好きだった影響で洋服はずっと身近な存在でした。自分も洋服にかかわる仕事をするんだろうなと漠然と思い、若い頃は古着のバイヤーなどをしながら、ファッションビジネスのなかでの自分の役割を探していました。カナダ・トロントでファッションのマネジメントを学び、ニューヨークで働きましたが、途中で大病を患って日本に帰ってきます。
帰国後はファッション関係の小売り大手に入社しました。でも仕事のストレスと、病気を経験して「人生をもっと楽しみたい」という思いから、好きな洋服に大金をつぎこんでしまい、500万円もの借金を抱えたんです。
その「500万円事件」で人生を見つめ直し、「最後は好きなもので、ちゃんと人の役に立って死にたいな」と思いました。「洋服 問題」などと検索していて、綿花栽培の裏側の映像を見つけました。農薬を散布する間は農家が家から出られず、大地も枯れる。自分の好きなものが誰かの生活や体を犠牲にしたり、地球を汚したりしていることに気づいて、すごくつらかったんです。洋服が好きなこと自体は悪いことではない。だから、誰にも迷惑をかけずに洋服を楽しめる社会がつくれないかなと考え始めました。
調べるうちに、効率を追った工業的な農業が途上国の「迷惑」になっていると知り、国内で素材をつくって服にする「自産自着」を思いつきました。体験型農園でオーガニックコットンを実際に育てることで、環境について考えてもらうというアイデアです。いろいろな人に相談しましたが、当時は東日本大震災前でサステイナブルやエシカルという言葉も知られておらず、誰もピンとこない様子でした。私自身も会社員との二足のわらじで計画を進めるのは難しく、悔しい思いをしていました。

社会起業へ背中押したひと言
――その後、会社をやめて起業します。
SDGsやESG投資が注目され、違う風が吹き始めたんです。18年、グラミン銀行の創設者ムハマド・ユヌスさん(注)の講演を聴く機会がありました。
(注)バングラデシュで銀行がない農村部の貧しい人たちに無担保で少額を貸し出し、自立を支援するグラミン銀行を創設し、06年のノーベル平和賞を受賞した。「ソーシャルビジネス」の第一人者として知られる。

ユヌスさんに直接「私、こんなことをやりたいんだけど、どう思いますか」と聞いたら、答えが返ってきました。「人は誰でも社会起業家になれる。誰でもどんな境遇でも、社会を変えることができるんだよ」
それを聞いて、気持ちが爆発しちゃって。「何でいままで立ち止まっていたんだろう。人生をかけてやらなきゃいけないことなのに」と心から思って、すぐに会社をやめちゃったんです。そして10年越しの自産自着・体験型農園の企画を抱え、社会課題解決に取り組むボーダレス・ジャパンの門をたたきました。
ただ、ビジネスプランを練るなかで、栽培体験をした人の未来を考えていなかったことに気づきました。体験者はオーガニック素材の服がもっとほしいと思うはず。でも、選べるブランドは「パタゴニア」や「ピープルツリー」くらいしかない。海外の事情を調べたら、日本が10年も20年も遅れていることもわかりました。
そこで、まずは「エシカルファッション」が洋服を買うときの選択肢となる土台をつくらなきゃと思ったんです。そのためには海外のすばらしいブランドを持ってくればいい。それでEnter the Eを始めました。
以前はきっとエゴイスティックな私がいて、自分のために「迷惑ではない洋服」という選択肢がほしかっただけだったんだと思います。でも、大事なのはどこを変えれば社会が変わっていくかという視点でした。社会のために必要な選択肢を整えることを、自分が役割として担おうと思えたのです。

価値観に合う選択肢を
――ブランドはどう選ぶのですか。
最初に六つの基準をつくりました。一つ目は持続可能な材料を使うこと。農家への配慮があるオーガニック素材、もしくはリサイクルされた素材で、最終的にリサイクルできるかということです。
二つ目は、情報の透明性。誰が、どこで、どのようにつくっているかを開示しているかも大事にしています。
三つ目は、ファウンダー(創設者)やデザイナーの思い、志です。エシカルファッションのブランドを立ち上げるのは勇気がいることです。どういう思いで始めたかはすごく大事にしていて、私自身が会って人となりを確かめたり、インタビュー動画を撮ったりしています。
四つ目は、普通に着られるデザインや値段。ナチュラルやフェアトレードを追い求めすぎると着る側を無視した洋服になり、エキゾチックすぎて仕事では着られないということもあります。つくる人、環境、着る人が「三方よし」でないといけません。
五つ目は、作り手へのリスペクト。地元の職人を支援しているとか、女性を雇用して自立支援しているといったことです。
最後は、水やエネルギーの使用量、二酸化炭素の排出量の削減に対する努力です。洋服そのものだけでなく、梱包(こんぽう)材もビニールやプラスチックを使っていないかといった点を見ています。

――ブランドの例やターゲット、価格帯を教えてください。
たとえば「Thinking MU」(シンキング・ムー)というスペインのブランドは、見た目はカジュアルですが、中身がすごくストイック。あらゆる第三者認証をつけ、水の使用量や二酸化炭素の排出量も全部公表します。一方、「BIBICO」(ビビコ)という英国のブランドは、インドで女性の雇用を進めるフェアトレードブランドで、工場で働く人たちと家族のような付き合いをしており、コストが増える認証はつけないといいます。
二つのブランドは価値観がまったく違います。でもどちらが正しいとか間違っているとかではなく、お客さんが大切にしたい価値観に合う選択肢があることがいいと思い、両方とも入れています。
想定するターゲットは社会問題に関心があるとされる2割ぐらいの人たち。購買層の中心は「バリキャリ」と呼ばれる20代後半~30代の働く女性で、男性も15%くらいいます。インスタグラムのフォロワーにはZ世代も目立ちます。
価格はTシャツなら4000円ぐらいから、コートは2万円台が中心です。適正価格ですが、普通の洋服の1.3倍ほどにはなります。いろんな人に恩恵が届くように設計されており、大量生産しないためです。各ブランドは流行やトレンドをつくらず、工場と直接契約することなどで価格を抑えています。当社も、店舗網を広げず、在庫を持たず、スタッフも雇わないことでコストを減らし、本国の価格に上乗せせずに売ることをポリシーにしています。
「スローダウン」ファッションのすすめ
――販売方法と、工夫している点は。
基本は注文を受けた分だけ仕入れる「受注仕入れ」です。ただ、服が急ぎで必要というお客さん向けに、その場で買えるものもあります。受注販売の商品はオンラインの大半と店舗の3割ぐらいで、手元に届くまでは3週間ほどかかります。

毎週木曜日、YouTubeで受注会の「スローファッションライブ」を配信しています。ブランドの思いやエシカルな点を私がしゃべりまくって伝え、ファウンダーに出演してもらうこともあります。同じ洋服も背景を知れば違って見えます。「このブラウスがそんなにするの?」と思っても、話を聞いたら「そこまでこだわってちゃ、しょうがないよね」と納得できることもあります。それに、つくり手の努力が見える服は大切に着てもらえると思います。つくる人と着る人の距離を縮めたいんです。
ほかに意識しているのは、直感的に「かわいいな」と思ってもらうことで、「こういう場面で、こんな風に着たら絶対いいよね」というポイントを伝えています。

東京・渋谷のショールームストアはお客さんと洋服の「お見合い」の場と考えていて、ブランドのこだわりを掲示しています。
――「スローファッション」を掲げています。
もともとある言葉ですが、私の考えでは、つくり手が洋服を製作するのを買い手がゆっくりじっくり待ち、長く楽しむ「スローダウン」ファッションのことです。いまのファッション業界の問題はつくる側、着る側、みんなに責任があると思います。必要なだけつくり、必要なだけ買えば、大量に出ている衣類ごみをなくせます。当社は現状では受注仕入れが大半ですが、受注生産を可能にするために日々お客さまやブランド側に必要性を説明し、働きかけています。
自分だけが楽しいファッションってもうおもしろくないと思うんです。自分もみんなも心地よい選び方や使い方がいい。だから買う人は待ち、つくる人はゆっくりつくって、必要な分だけみんなで回していく社会にしたいなと思っています。

――一人ひとりができるアクションとは何でしょうか。
一番のメッセージは「洋服を愛そう」です。食べるときに「いただきます」って言うのに、着るときには「着させていただきます」って言わないですよね。洋服って本当は農家さんや原料メーカーさんが一生懸命つくってくれたものだから、大切にしてほしい。
そのためにできることとして、まず買うときにちゃんと「お見合い」して、5年、10年持続可能かなと考えることや、誰がつくってくれたのかしっかり知ることがあります。必要以上に洗わないことや、同じ1枚を着続けず、ちゃんと休ませてローテーションすることも大事です。そして、廃棄するときにリサイクルしやすい素材を選ぶことも。
10枚に1枚でもいいので、エシカルな、物語がある洋服を選んでください。そんな洋服には、ほかの人の立場に立つやさしい自分になれるという魅力もあります。

朝日新聞SDGs ACTION!副編集長。2009年に朝日新聞社入社。京都、高知の両総局を経て、東京・名古屋の経済部で通信、自動車、小売りなどの企業を取材。2021年にSDGs ACTION!編集部に加わり、2022年11月から副編集長。
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