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ユーグレナ、定款上の事業目的にSDGsの17目標を反映 創業社長が見すえる2025年の社会とビジネス

ユーグレナ、定款上の事業目的にSDGsの17目標を反映 創業社長が見すえる2025年の社会とビジネス
撮影・仙波理
ユーグレナ社長/出雲充

藻の一種であるユーグレナ(和名:ミドリムシ)を使った食品・化粧品の販売や、バイオ燃料の研究開発を手がけるユーグレナ(東京都、東証1部)が2021年8月、定款上の事業目的をSDGsの17目標に沿う形に変えた。会社の憲法とも言われる定款を「SDGs色」に塗り替えることで、どんな変化が期待できるのだろうか。(聞き手 編集部・竹山栄太郎)

出雲充(いずも・みつる)
1980年生まれ。東京大学農学部卒業後、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)勤務をへて2005年にユーグレナを創業、代表取締役社長に。経団連審議員会副議長も務める。著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』『サステナブルビジネス』など。2020年、コーポレート・アイデンティティーを変更し、ありたい姿として「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げた。

SDGsを会社のど真ん中に

――定款上の事業目的をSDGsの17目標にそろえました。たとえば、目標1「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」(キャッチコピーは「貧困をなくそう」)に対応して、一つ目を「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困問題を解決することに資する事業」に……といった具合です。

今後の海外展開などを考えて決算期を9月から海外標準の12月に変えるため、もともと臨時株主総会を開いて定款変更することが決まっていたんです。

すると、社内で「定款を見直す機会はめったにないので、この際全部見直そう」「事業目的もSDGsに合わせてはどうか」という声が上がりました。ユーグレナには、地球と会社の未来をよくする18歳以下の最高責任者・CFO(Chief Future Officer=最高未来責任者)とユーグレナFutureサミットメンバーがいます。彼らも賛同してくれ、今回の刷新に至りました。そんな会社がほかにあるか調べたら、少なくとも日本の上場企業では見当たらなかったし、世界を見渡しても私自身は聞いたことがありません。

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ユーグレナの変更前(左)と変更後の定款(同社の開示資料から)

変更前の定款には、「航空運送事業」や「自動車運送事業」という項目もありました。ただ、たとえば現在、事業化に力を入れているバイオ燃料事業にしても、そのためだけに開発しているわけではありません。ただの航空運送なら化石燃料でもできるけれど、それでは「飛び恥」(注)になってしまう。当社ではみんな、SDGsの目標13である気候変動対策のつもりで取り組んでいます。

(注)温室効果ガスの排出が多い飛行機での移動を避ける運動。スウェーデンで生まれた「flygskam(フリュグスカム)」という言葉に由来する。同国の環境活動家グレタ・トゥンベリさんが2019年、米ニューヨークの国連本部での気候サミットに出席するため、ソーラーパネル付きのヨットで大西洋を横断したことで注目を集めた。

これまでの事業目的自体は変えず、冒頭に「SDGsに関連する事業」などと加えることも検討したのですが、結局、「本気でSDGsをやるのだから、定款を全面的に変えよう」と決めました。

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撮影・仙波理

――変更にあたって、何か壁になるようなことはありましたか。

念のため、定款上の事業目的をSDGsに沿った内容にすることが法令違反に相当するのか、法律事務所に調べてもらいましたが問題はなく、許認可が必要な事業に影響が生じることもないと確認できました。

私自身は楽観的で、「SDGsをど真ん中に置いた会社になれるなんて、こんなにわくわくすることはない」と思っていましたが、取締役会ではリスクを指摘する意見も出て、話が止まりかけたこともありました。でも最終的には私たちのありたい姿である「Sustainability First」という原点に立ち返り、社内の雰囲気も変わっていきました。

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定款変更について説明した、ユーグレナの臨時株主総会の招集通知

CFOはもともと、環境活動家グレタ・トゥンベリさんを見て、「日本にも同じように立派な高校生は絶対いるはずだ」と思って設けた制度です。最近ではCFOの発案で、化粧品の容器の素材をサトウキビ由来プラスチック配合に変え、石油由来プラスチックの使用を9割減らすことも決めました。

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ユーグレナの2代目CFOの川﨑レナさん(左)と出雲充社長(同社提供)
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従来の化粧品容器(右)と、変更後の容器。石油由来プラスチックの使用を最大9割削減した。形状も薄いチューブタイプに変えたことで最後まで使いやすくなり、郵便受けに入るため再配達が不要になったという(撮影・仙波理)

――8月26日の臨時株主総会で定款変更が承認されましたが、議案の賛成率は91%で、ほかの議案より低めでした。

株主の皆さまが戸惑ったのは事実だと思います。総会前にも、「範囲が広すぎるのではないか。社長が好き勝手やって、しっちゃかめっちゃかになるのでは」という意見が多く寄せられました。

確かに、政府や電力会社のような公益性の高い企業が「枠を決めず自由にやる」と言い出したら心配になるのはわかります。しかし、ユーグレナはベンチャー企業です。誰も思いつかない新産業、イノベーションを起こすのが使命であり、醍醐味(だいごみ)です。投資家には「定款を夢いっぱいにしているほうが、結局株主も得しますよ」と説明し、最終的には賛成に回っていただきました。接触しきれなかった投資家にも、これからお話しすることできっと理解していただけると思っています。

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ユーグレナの臨時株主総会で、定款変更の議案について説明する出雲充社長。株主が完全オンラインで参加する「バーチャルオンリー株主総会」だったことも注目された

2025年以降、ミレニアル世代とZ世代がカギに

あと4年で、世界はがらっと変わります。2025年になったら、定款にSDGsが入っていない会社は全部つぶれますよ。

――どういうことでしょうか。

25年に、15~64歳の「生産年齢人口」の過半をミレニアル世代とZ世代(注)が占めるようになるんです。

(注)一般的にミレニアル世代は1980~95年生まれ、 Z世代は96~2015年生まれの世代などと定義される。

私自身も1980年生まれで、ミレニアル世代の走りです。ミレニアル世代とZ世代の多くは、お金を稼ぐことより社会課題を解決することに関心があります。それができる会社に就職したいと思うし、多少値段は高くても持続可能な商品を選びます。いくら給料が高くても、公害をまき散らす会社には人材は集まらないし、そんな会社の商品も買われなくなるのです。

ユーグレナのようにSDGsをど真ん中に置いた会社には、「社会をよくしたい」という思いを持った優秀な人が、いま以上に来てくれるようになると思います。

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撮影・仙波理

――今回の定款変更で、ユーグレナのビジネスはどう変わっていくでしょうか。

たとえば、すでに飼料などで研究しているのですが、ユーグレナを原料とした人工たんぱくをつくっていこうと考えています。変更前の定款は「農水産物及び畜産物の生産、養殖、加工、販売及び輸出入」としていましたが、ユーグレナは豚でも牛でもないので、畜産物ではありません。細胞から培養しますが、農産物というわけでもない。「定款に書いていないのに取り組んでいいの?」という話にもなりかねなかったわけです。

一方、明白なことがあります。牛肉1kgを生産するために11kgの穀物を牛に食べさせている。鶏肉1kgにはエサとして4kgの穀物が必要です。牛や鶏が食べる穀物を人間に回せば、世界78億人の栄養と食料事情はたちどころに解決するのです。また、牛のげっぷには二酸化炭素の25倍の温室効果があるメタンが含まれていることもよく知られています。

もし私たちがステーキと同じような味の人工たんぱくを作ることができたら、SDGsの目標2である飢餓・栄養問題の解決と、目標13の気候変動対策に寄与できます。「もうかるから」ではなく、SDGsの文脈で意義を説明すれば、みんなに納得してもらえます。今後はSDGsの目標に合致した新規事業にどんどん乗り出していこうと思っています。

――SDGsのなかには、貧困(目標1)や、平和と公正(目標16)など、一民間企業が掲げるには大きすぎるものもありませんか。

逆ですよ! 一民間企業だからこそ取り組むのです。私たちベンチャー企業は地域社会、たとえばユーグレナなら沖縄県の石垣島で、地域コミュニティーと一体で活動し、社会課題を解決して成長します。グラスルーツ(草の根)で持続可能な社会をつくっていく。国や大企業が引っ張るのは、高度経済成長時代の成功パターンです。令和の社会変革の成否は、昭和や平成と違うやり方でできるかにかかっています。

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撮影・仙波理

ユーグレナに教わったこと

――2021年6月に、バイオ燃料「サステオ」を使った初フライトを成功させました。そもそもなぜバイオ燃料の研究に取り組んでいるのですか。

昔はバイオ燃料のことはよく知らず、軽油と重油の違いもわからないぐらいでした。もともとバングラデシュの子どもたちに元気になってほしくて、栄養の勉強をしていたのです。

ユーグレナは1種類だと思われがちですが、実は100種類ぐらいいます。2008年ごろ、すごく「ぽよーん」とした、油分の多いユーグレナを見つけました。体が大きいからビタミンCやカルシウムが10倍入っているとか、何か栄養問題解決の役に立てばうれしいなと思って調べたら、何も入っていなかった。「だめな子」だと思って、放っておいたんです。

数年後、新日本石油(現ENEOS)からバイオ燃料のテストをしたいという話があり、あの「ぽよーん」としたユーグレナをテストしてみてもいいのでは、ということで渡しました。すると「油の質がいい。もしかしたらジェット燃料になるかもしれない」と教えてもらいました。

もう、大スター、エースでセンターですよ。石油のない日本で、ユーグレナからジェット燃料をつくって飛行機を飛ばせたら、世の中がひっくり返るからです。そこから10年開発を続け21年6月、初フライトに成功したところです。

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バイオジェット燃料を使ったフライトをアピールする出雲充社長(中央、ユーグレナ提供)

――バイオ燃料の実用化の見通しはどうですか。

日本が環境・エネルギー先進国だと思っているのは日本人だけです。省エネ分野では確かに先進的ですが、新エネルギー分野では何もやっていないに等しいからです。「サステオ」は新エネルギーです。そしてSDGsの目標13の気候変動対策は、新エネルギーにどれだけ本気で取り組めるかにかかっています。だから、意地でもバイオ燃料を実用化して、みんなに使ってもらえるようにしたいのです。その目標も2025年です。

2025年になったら、ガソリンスタンドで1L=150円のガソリンの隣に1L=200円のバイオ燃料が置いてあって、子どもが「小学校の授業でSDGsを習ったから、環境に優しいほうで満タンにしようよ」と言う。チケットは少し高くても、バイオジェット燃料で飛ぶ飛行機を選んで沖縄に家族旅行に行く。そんな世の中にしたいのです。

それと、僕は「ぽよーん」としたユーグレナの「栄養素がない」というだめなところに着目してしまい、そのユーグレナの本当のすごさに気づけませんでした。それ以来、絶対にそういうことはやめようと思っています。相手が人であっても同じです。ユーグレナが教えてくれたダイバーシティー(多様性)とインクルージョン(包摂)には、本当に命がけで取り組んでいこうと決めています。

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