「社会貢献を気軽に楽しく」 おにぎりの写真で、開発途上国の飢餓解消へ【#チェンジメーカーズ】

社会課題解決のために奮闘するキーパーソンを紹介するシリーズ「#チェンジメーカーズ」。第5回は、「おにぎりアクション」のプロジェクトマネージャーを務める張一華さん(33)です。おにぎりアクションは、SNSにおにぎりの写真を投稿すると、アフリカ・アジアの子どもたちに学校給食を届けられるキャンペーン。7年目の今年は10月5日に始まります。おにぎりにまつわる心温まるエピソードも紹介してもらいました。(聞き手 編集部・竹山栄太郎)
1987年、中国・江蘇省生まれ。5歳から岐阜県で育つ。名古屋大学農学部卒業後、2010年に丸紅入社。14年にNPO法人「TABLE FOR TWO International」(東京)に転職し、現在は事業開発マネージャー。20年からおにぎりアクションプロジェクトマネージャーも務める。
写真1枚で給食5食分の支援
――「おにぎりアクション」とはどんなキャンペーンでしょうか。
おにぎりの写真にハッシュタグ「#OnigiriAction」をつけてツイッターやインスタグラムなどのSNSに投稿するか、私たちのサイトに投稿すると、アフリカ・アジアの子どもたちに、1枚の写真投稿につき5食分の学校給食が届きます。投稿は誰でも無料ででき、協賛企業が寄付する仕組みです。10月16日の「世界食料デー」にあわせて2015年から毎年秋に開催しており、今年で7回目です。

TABLE FOR TWO Internationalは2007年に設立され、名前を直訳すると「二人のための食卓」です。「肥満と飢餓の同時解消」、つまり先進国で肥満や生活習慣病の予防をしつつ、アフリカ・アジアの子どもたちを飢餓から救うことをミッションに活動しています。一番基本的な「TFTプログラム」は、企業の社員食堂などで、ヘルシーな食事を通常より20円上乗せした価格で提供し、その20円で開発途上国の子どもたちに1食分の給食を届けるものです。このほか、自分が体を動かして健康になりながら、寄付を届けられるプログラムなどにも取り組んでいます。
企業とタイアップする機会はよくあったのですが、実は、活動に共感してもらえる人には「自分の子どもだけでなく世界の子どものために何かしたい」という主婦の方とか、企業に属していない人も多かったんです。そのため企業の枠組みだけでなく、個人が誰でも参加できる気軽な社会貢献活動をつくれないかと考えました。
そんななかで目を付けたのが、日本人のソウルフードであるおにぎり。小さいころ、運動会のときにお母さんが握ってくれたとか、自分の子どもと一緒に食べたとか、ほっこりしたエピソードがたくさんある食べ物です。そんな温かいシンボルフードに、世界の子どもたちへの思いを込めてほしいと思い、おにぎりを使ったキャンペーンにしました。


15~20年の6回で累計約100万枚の写真投稿があり、約540万食の給食をアフリカ・アジアの子どもたちに届けてきました。15年の初回は1カ月半ほどの期間で集まった投稿が計約5000枚。それが20年には1カ月で計20万2143枚、1日あたり6500枚の投稿が続き、90万食の給食を届けられました。みなさんに愛される活動に育ってきたと感じています。
貧困の解消見すえて
――おにぎりアクションで解決したい社会課題は何ですか。19年には政府主催の「ジャパンSDGsアワード」を受賞していますが、SDGsとの関係も教えてください。
大きな問題は飢餓です。世界でいま約8億人が飢餓にあえいでいるという統計があります。コロナ禍以前は少しずつ減って7億人ほどになったものの、コロナ禍でまた増えてしまいました。
本当に食べ物が必要な子どもたちに、ちゃんと食事を届けていく。これはおにぎりアクションの前からTABLE FOR TWOがやってきたことですが、個人の方にも参加してもらい、より多くの給食を届けて飢餓の解消につなげていきたいです。

私たちは飢餓解消の先、子どもたちに教育機会を与え、貧困から脱するための知識を習得してもらうところまで見すえています。SDGsのすべての目標を達成していく根本にあるのが栄養です。栄養状態が整って初めて教育を受けられ、貧困を解消できる。逆に言えば、栄養状態が整わないとSDGsの達成はできないと思っています。
また、いまの日本では若い世代を中心にお米を食べなくなっているという問題もあります。おにぎりアクションを通じて米農家に貢献したり、日本の食文化を世界に発信したりできたらとも考えています。

――当初は苦労もあったのではないですか。
初回はSNSをとりいれておらず、サイトでの投稿のみで、投稿の際に地点を登録すると地図上に表示される仕組みでした。世界中から参加してほしかったので、インターネットで各国の日本人会に連絡し、「みんなで世界から一斉にアクションしませんか」と地道に呼びかけました。投稿が集まるか不安で、自分たちでもかなりの数を投稿しました。
2年目にインターンの学生の発案でSNSを導入したら、一気に拡散しました。一人のインフルエンサーではなくみんながちょこちょこと発信し続けることで、「TABLE FOR TWOのおにぎりアクション」というより「友達が参加しているおにぎりアクション」として、多くの人に共感してもらえたのだと思います。


この企画は企業からの寄付があって初めて成り立つので、協賛企業を集めることが一つのポイントになります。初回は3社だけでしたが、21年はトップスポンサーの日産セレナをはじめ、過去最多の30社まで増えました。アクションの輪が年々広がっているからこそ、企業からも応援してもらえるのだと思います。おにぎりにまつわる商品がある企業には、プロモーションやマーケティングにつながるというねらいもあるようです。

思い出を写真とともに
――参加者はどういう思いで投稿しているのでしょうか。
「誰かのために何かしたい」という気持ちは、みんな心の底では持っていると思うんです。でも人前で募金するのは恥ずかしいとか、社会との関わりがあまりないといった理由で、社会貢献する機会がない方もいます。おにぎりアクションは、普段食べているごはんをおにぎりに置き換え、写真を撮るだけで社会貢献できるという気軽さが、参加者のモチベーションになっているのだと思います。自分が本来持っていた「何かしたい」という気持ちを出せる場所なのではないでしょうか。
私がぐっと来た事例をいくつかご紹介します。一つは働くママからの投稿で、高齢の母に作り置きの冷凍おにぎりを届ける話です。その方にとって冷凍おにぎりは、社会人になって一人暮らしを始めたときに、お母さんが炊き込みごはんやお赤飯を握って送ってくれた思い出の一品だったそうです。いまは逆に一人暮らしのお母さんのことが心配で、チャーハンや栗ごはんを冷凍おにぎりにして届けている。でも、お母さんからも帰り際にお漬物などをもらって、「親は子どものために何かしたい生き物なんだなと思った」という内容でした。

新婚の方からは、おにぎりがきっかけでダンナさんと結婚できたという投稿もありました。独身時代、ダンナさんが仕事ですごくたいへんそうだったときに、「がんばれ」という気持ちを込めておにぎりを握って届けた。それにすごく感動してくれて、二人は結ばれた――というエピソードです。
別の方はデイサービスで働いていて、末期がんで何も食べられない状態の患者さんに少しでも食べてほしくて、2cmほどの小さいおにぎりを一生懸命握りました。すると、患者さんは「私のためにつくってくれたの、うれしい」と言って、喜んで食べてくれたそうです。そこから患者さんが亡くなるまでの1カ月間、小さいおにぎりをつくり続けた。そしていまでもその患者さんと過ごした時間を思い出し、小さいおにぎりをつくることがあるんです、というお話でした。

亡くなったお母さんとの思い出の焼きおにぎりの写真を投稿した男性もいました。母子家庭で育ち、学校から戻るといつもお母さんは仕事で不在でしたが、テーブルの上に姉と自分の焼きおにぎりが2個置いてあったそうです。大人になって母の味をまねしようと何度も試したが、いつも失敗ばかり。「僕には無理だ」とあきらめていたといいます。ところが、おにぎりアクションをきっかけに久しぶりにつくってみたら、50年前のお母さんの記憶の味を再現できた。「母との記憶の糸が結ばれた」と喜んで投稿してくれました。
――取り組むなかで手応えを感じることはありますか。
コロナ禍前は年に1、2回、スタッフが支援先に行っており、私自身もケニアやタンザニアを訪れました。子どもたちがキラキラした笑顔で給食を食べている様子が印象的でした。

タンザニアで子どもたちにインタビューしたときのことばが、いまでも心に残っています。小学6年生の女の子に「あなたにとって人生のなかでいちばん大事なものは何ですか」と問いかけたんです。小学生だから「家族」なんて答えるのかなと思っていたら、彼女が目を見開いて言ったことは「教育」でした。
彼女は、給食を食べられて勉強ができることは当たり前でないということを認識していました。「ちゃんと勉強を続けてパイロットになる夢をかなえ、支援してくれているみなさんに会いに日本に行きたい」。そのことばを聞いて、私たちが続けている給食支援は子どもたちにとっては希望なんだという手応えを感じました。
商社から転職決断
――張さん自身の活動の原点と、いまの思いを聞かせてください。
高校生のとき、メディアで世界の食料問題が取り上げられているのを見て「将来食べられなくなってしまうかもしれない」という危機感を覚え、「食を通じて社会貢献したい」と考えるようになりました。大学時代は、スポーツの前に摂取すると疲労を軽減できるBCAAというアミノ酸を研究しました。その一方で、社会起業家をサポートする団体でインターンもしており、社会問題をビジネスの手法で解決することに興味を持ちました。
卒業後、総合商社に入社して化学品の営業や管理部門を経験し、多様なステークホルダーと一緒にビジネスをつくることを現場で経験しました。仕事は楽しかったのですが、20代後半になり、「自分が問題意識を持ち続けられる好きな分野で、社会に直接的に貢献したい」と思うようになり、学生時代に出会ったソーシャルビジネスへの転職を決めました。

TABLE FOR TWOは、自分の健康のために楽しみながらアクションをすることが誰かのためにもなるという仕組みをつくっており、その無理なく社会貢献できるところに共感しました。活動分野が食や健康という自分の関心に近かったこともポイントで、14年に転職しました。
私たちがめざす「肥満と飢餓の解消」は大きな社会問題で、世の中でうねりが起きないと解決できません。その夢を実現するために、まずは「社会貢献って気軽で楽しいものだから、参加しようよ」ということを伝えていきたいです。主体的に社会をよくしたいという人が増えれば、きっと社会は少しずつよくなっていくと思います。
――一人ひとりができるアクションとは何でしょうか。
まずは現状を知り、知ったことを家族や友人に話してみる。それだけでも小さな一歩です。自分にできることはないかと思ったとき、個人でも参加できる気軽なアクションは世の中に増えています。おにぎりの写真を撮影しておにぎりアクションに参加してみるのも一つの方法です。
世の中には自分の力だけではどうしようもない、不条理な環境で生きている子どもたちがたくさんいます。食事を食べられなかったり、教育を受けられなかったりする子どもたちの存在に気づいた人が、サポートするために行動を起こす必要があるのではないでしょうか。

朝日新聞SDGs ACTION!副編集長。2009年に朝日新聞社入社。京都、高知の両総局を経て、東京・名古屋の経済部で通信、自動車、小売りなどの企業を取材。2021年にSDGs ACTION!編集部に加わり、2022年11月から副編集長。
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