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「本当は2倍?」世界の食品ロス 実態と解決策とは

「本当は2倍?」世界の食品ロス 実態と解決策とは
食品ロス問題ジャーナリスト/井出留美

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井出留美(いで・るみ)
奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学)、修士(農学)。ライオン、青年海外協力隊、日本ケロッグ広報室長などを経る。東日本大震災で支援食料の廃棄に衝撃を受け、自身の誕生日でもある日付を冠した(株)office3.11設立。第2回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門、Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018、令和2年度 食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。近著に『食料危機』『捨てられる食べものたち』など多数。

見過ごされてきた農場由来

2021年7月に発表された、世界自然保護基金(WWF)と英国の小売り大手テスコの報告書「Driven to Waste」から、全世界で25億tもの食品ロスが発生していることが明らかになった。これまでの世界の食品ロスの推計値は、国連食糧農業機関(FAO)が11年に発表した13億tを使うのが一般的だったが、この数値を2倍近く上回ることになる。また、食料生産のうち40%は廃棄されていることもわかった。FAOの調査では、食品ロスの割合は3分の1(約33%)とされていたので、こちらも見直しが必要になりそうだ。

報告書では、25億tの内訳を、農場からが12億t、貯蔵・加工・製造・流通からが4億t、小売り・消費で9億tと推定している。FAOの推計値から大きく変わったのは、農場からの食品ロスだ。

art_00199_本文1(円グラフ)

農場からの食品ロスは過小評価されてきた。廃棄された農産物の測定が困難なこともある。しかし、食品ロス削減の取り組みとして、これまで農場にスポットライトが当たることはなかった。国連の持続可能な開発目標(SDGs)で17ある目標の12番目は「持続可能な生産消費形態を確保する」だが、目標ごとに設けられた具体的なターゲットを見ても、数値目標がないのだ。

art_00199_本文2(ターゲット12.3)
国連SDGsのターゲット12.3(出典:Champions12.3)

SDGs12.3のターゲットを見てみよう。

「2030年までに、小売り・消費レベルにおける世界全体の1人あたりの食料の廃棄(Food Waste)を半減させ、そして、収穫後損失を含む生産・サプライチェーンにおける食料の損失(Food Loss)を減少させる(拙訳)」

小売り・消費は「半減」とあるが、生産から流通では「減らす」という表現にとどまっている。農場からの食品ロス問題が見過ごされてきたのには、SDGsのターゲットの設定にも問題があるのかもしれない。

注)FAOの定義では、食品サプライチェーンの前半(生産から流通)で発生するのが「フードロス」、後半(小売り・外食・家庭)で発生するのが「フードウェイスト」である。日本で使われている「食品ロス」は、英語だと「フードロス&ウェイスト(Food Loss & Waste)」が正しい。「フードロス」だけだと小売り・外食・家庭からの廃棄物が含まれないので注意が必要だ。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書「気候変動と土地」では、10〜16年に排出された温室効果ガスの最大の排出源のひとつとして食品ロス(8~10%)が挙げられている。食品ロスは気候変動への影響が大きいにもかかわらず、「パリ協定」に署名した190以上の国・地域のうち、国別削減目標に食品ロス対策を盛り込んだのは11カ国にとどまる。WWFの報告書では「農場から出る食品ロスは、見過ごされているホットスポット」と指摘されている。

高まる農家のリスク軽減を

農林水産省と環境省が推計する日本の食品ロス量にも一次産業からのロスは含まれていない。日本の食品ロスは年間600万tだが、取れすぎた野菜の価格を維持するための生産調整や規格外のため出荷できない農産物は含まれていない。農林水産省の野菜生産出荷統計によると、17年に日本で収穫された野菜は1334万tで、そのうち出荷されたのは1141万t。残りの193万tは、農家の自家消費もあるだろうが、多くは規格外や余剰のため廃棄されたものとみられる。

筆者が18年にイタリアで取材した際、行政の担当者は、同国の事業系食品ロスのうち、64%は一次産業からと話していた。米国では、19年に農場から出荷されなかった農産物は1670万tあり、そのうち850万tは十分に食べられたにもかかわらず、規格外のため廃棄されたものだという。

art_00199_本文3(落ちたブドウ)
台風による強風で収穫前に落ちてしまったブドウ(撮影・朝日新聞)

農家は常に自然災害のリスクにさらされている。販売先との契約を維持していくため、必要以上に栽培せざるをえないのが現状だ。契約量を上回る収穫物や、見た目の悪いもの、規格外の農産物は農場で廃棄される。コロナ前の19年、米国で余剰農産物をフードバンクで再利用できた割合はわずか1.7%だったという。

英国の非営利団体WRAP(ラップ)では、これまで手つかずだった一次産業の食品ロスを削減するため、余剰や廃棄の定量化に取り組みはじめている。日本も英国にならって削減方法を考えるべきではないか。ただし、その責を農家に押しつけることなしに、である。一次産業の食品ロスを削減するためには、包括的な支援策が必要なはずだ。

小売りや消費者ができること

例えば、現状の契約条件だと小売りが有利で生産者が不利というヒエラルキー(階層)が生じていることが多い。気候変動の影響で豪雨、干ばつ、冷害の増加が予測されるなか、農家はすでにリスクを背負わされている。気候危機下にあっては生産者と小売業者が平等にリスクを分担する必要がある。その一例が生産物の「全量購入契約」だ。

これは小売りが規格外も含め農場で生産された全農産物を購入する契約である。全量購入契約を結ぶことで、生産者は過剰生産から解放されて生産量を適正化でき、小売りは農産物を通常より安く仕入れることで消費者に旬の農産物をお手頃価格で提供できる。農場の食品ロスを削減すれば気候変動の緩和にも貢献できる。

規格外の農産物を廃棄せずに低価格で流通させる動きは、欧米、オーストラリアやニュージーランドで広がっており、消費者にも好意的に受け入れられているようだ。

しかし、規格外の農産物を全量販売できるわけではない。冷凍野菜やミールキット、惣菜(そうざい)などに加工することも必要だ。今のところ全量購入契約のできる小売りは、資本力のある大手スーパーに限られそうだ。

art_00199_本文4(斗々屋)
しょうゆや酢、みりんも量り売りの斗々屋京都本店(撮影・朝日新聞)

2021年7月、京都にすべての食品を量り売りで販売するスーパー「斗々屋(ととや)」が開店した。斗々屋は寺岡精工の量り売りシステムを導入し、ユニークな取り組みで農産物を含めて食品ロスを減らそうとしている。それが小売りの「三毛作」と呼ばれるものだ。

1. スーパーで農産物を販売
2. 売れ残りそうになったら調理し、お惣菜か併設の夜間営業の飲食店で提供
3. それでも余ったら真空瓶詰め加工

例えば、契約農家の農場でトマトが取れ過ぎてしまった場合、斗々屋はその余剰トマトを買い取り、ラタトゥイユやケチャップに加工して販売する。一般のスーパーが行っている店内調理以外に、常温で1〜2年保存可能な「真空瓶詰め加工」ができるのも斗々屋の強みだ。

私たち消費者にもできることはある。コロナ禍で「ポケットマルシェ」や「食べチョク」など、生産者から直接、農産物を購入する通販が注目された。仲介業者をはさまず、消費者と生産者が直接代金前払い契約を結ぶ「地域支援型農業」でも、生産者は天候に左右されずに安定収入を得られ、計画的な農業経営ができる。消費者は旬の農産物を定期的に購入でき、農業体験や子どもの食育に役立てることができる。一般的な流通だと見た目や規格ではねられる割合は高いが、生産者からの直接購入だと規格外でも流通させることは可能だ。

12億tもの食料が世界中の農場で廃棄されている実態は、経済や気候変動への影響を考えても無視できる問題ではない。その仕組みをすぐに変えることはできなくとも、できるところから着手していきたい。

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