SDGs ACTION!

食品ロスと食料システムがなぜ気候変動対策の最重要課題なのか?

食品ロスと食料システムがなぜ気候変動対策の最重要課題なのか?
記録的な干ばつで干上がった田んぼ=2019年9月、タイ北部ノンブア(撮影・朝日新聞)
食品ロス問題ジャーナリスト/井出留美

art_00166_著者画像_井出留美
井出留美(いで・るみ)
奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学)、修士(農学)。ライオン、青年海外協力隊、日本ケロッグ広報室長などを経る。東日本大震災で支援食料の廃棄に衝撃を受け、自身の誕生日でもある日付を冠した(株)office3.11設立。第2回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門、Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018、令和2年度 食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。近著に『食料危機』『捨てられる食べものたち』など多数。

気候変動対策といえば、電気自動車や太陽光発電を思い浮かべる人が多い。だが、それらよりも食品ロスと食料システムのほうが環境への影響は大きく、気候変動対策にとって最重要課題の一つだ。なぜなのか。

気候変動に関心の薄い日本

国連の人権理事会は2021年10月8日、清潔で健康的な環境は人権であると認めた

世界保健機関(WHO)によると、大気汚染など環境問題が原因で亡くなる人は年間約1370万人。全世界の死亡者数の約24.3%を占める。

この環境権の決議は47カ国からなる人権理事会で審議されたが、日本は、中国、インド、ロシアといった二酸化炭素の排出量がワースト5に入る国とともに、棄権票を投じている。ここからも日本が環境問題に消極的なことはうかがえるが、もっと気になるデータがある。

それは米国のシンクタンク「ピュー・リサーチセンター」が21年に先進17カ国、1万8000人以上を対象に実施した気候変動についての意識調査だ。ほとんどの国で「非常に懸念している」という回答が15年より増えているのに対し、日本は34%から26%に減少しているのだ。

art_00203_本文_01
日本では気候変動に対する問題意識が大きく低下(出典:Pew Research Centerのウェブサイト

ビジネス情報誌「オルタナ」が、自民党の総裁選直前に4人の候補者に行ったアンケートでも、「気候変動は人間の経済活動によるものと考えているか」という問いに対し、岸田文雄首相(当時は候補)は「科学的検証が前提だが、そうした部分もあると考えている」と答えている。

art_00203_本文_02
自民党総裁選で新総裁に選ばれた岸田文雄氏(中央)=2021年9月(撮影・朝日新聞)

8月に国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表した最新報告書には、「温暖化の原因が人類の排出した温室効果ガスにあることは、もはや疑う余地がない。地球温暖化を抑制するためには、温室効果ガスの排出量を早急かつ大幅に削減する必要がある。そうでなければ、温暖化を1.5度に抑えるどころか、2度に抑えることさえ難しくなる」と明記されている。日本でも国連のグテーレス事務総長の「人類にとっての非常事態」という言葉とともに報じられた。

岸田首相は「特技は人の話をよく聞くこと」と語っているが、国連や科学者の言葉は届かなかったのだろうか。首相が10月31日~11月12日にかけて開催される気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)でどんな発言をするかに注目したいが、日本の環境問題への関心の低さが、そのまま気候変動への消極的な姿勢となって現れないか危惧している。

食品ロスの認知率は過去最高

対照的なのが、ハウス食品グループ本社が21年9月に実施した「食品ロスに関するアンケート調査」である。同社では19年から6000人以上を対象に食品ロス調査を行っており、4回目となる今回、食品ロスの認知率は98.8%で過去最高となった。

調査では、回を追うごとに「まったく知らない」「何となく知っている」という回答が減り、「かなり詳しく知っている」「ある程度知っている」が増えている。

art_00203_本文_03
食品ロス問題の認知率の増減(ハウス食品グループ本社提供)

せっかくこれほど食品ロスの認知率が上がったのだから、気候変動対策に生かさない手はない。「ちょっと待って。気候変動と食品ロスは別問題でしょ」という人にぜひ伝えたいことがある。それは、食品ロスは気候変動の最大の要因の一つである、ということだ。

温室効果ガスの8〜10%の排出源は食品ロス

21年7月に発表された世界自然保護基金(WWF)の報告書「Driven to Waste」によると、世界の食品ロス量は、10年前に国連食糧農業機関(FAO)が報告した13億tをはるかに上まわり、25億tにのぼる可能性があるという。

食品ロスは、焼却すれば二酸化炭素を発生させ、埋め立てれば二酸化炭素の25倍以上の温室効果を持つメタンを発生させる。IPCCによると、食品ロス由来の温室効果ガスは全体の8〜10%を占め、自動車からの排出量とほぼ同じだ。

気候変動に影響を与えるのは食品ロスだけではない。食料システム――すなわち食料の生産・加工・流通・調理・消費など、食に関わるすべての活動――は、世界で排出される人為的な温室効果ガスのうち21〜37%を占めるというのだ。

この食料システムから排出される二酸化炭素の量は、2100年までに1兆3560億t になると予測されており、これは気温上昇を1.5度に抑えるための排出限界量「炭素予算(カーボン・バジェット)」の5000億tをはるかに超えている。

art_00203_本文_04
食料システムだけで1.5度の炭素予算を消費してしまう(出典:Our World in Date

つまり、明日からすべての化石燃料の使用をやめたとしても、食料システムからの排出量だけで、今世紀半ばには、地球の気温はパリ協定の目標である1.5度を超えてしまうのだ(20年11月発行『サイエンス』)。

このように経済優先で環境負荷を軽視した従来の食料システムを、持続可能なものへと転換するべく開催されたのが、国連食料システムサミットである。

国連食料システムサミットとは?

9月23~24日に開催された国連食料システムサミットには、約90人の各国代表や国際機関のリーダーがリモートで参加し、環境に調和し、健康的な食料システムに移行するための意見を発表した。

国連の設定した議題は主に五つ(出典:農林水産省のウェブサイト)。

1. 質(栄養)・量(供給)両面にわたる食料安全保障
2. 食料消費の持続可能性
3. 環境に調和した農林水産業の推進
4. 農山漁村地域の収入確保
5. 食料システムの強靱(きょうじん)化

このサミットが、食料システムの脱炭素化、食品ロス削減のため、新たな国際的な連携のきっかけになることを期待する声があった一方で、大手企業や資本家の影響を受けた透明性のないものだと批判する声も上がった。

持続可能な食料システムはSDGsの基盤である。今回の食料システムサミットの最重要課題が、機能不全に陥った食料システムの問題を、世界共通の政治課題として認識させることにあったとすれば、ある程度、役割を果たせたのではないか。また、見落とされがちな気候変動のパズルの重要なピースである、「食料システム」や「食品ロス」を認識させるために欠かせない取り組みだったと言える。

art_00203_本文_05
スーパーなどから集めた廃棄食材から鶏や豚のエサをつくるリサイクル工場=名古屋市守山区(撮影・朝日新聞)

食品ロス削減を気候変動対策に

しかし、COP26のターゲットとして挙げられている以下の4点には、「食料システム」もなければ「食品ロス」もない(出典:COP26のウェブサイト)。

1. 21世紀半ばまでに世界で温室効果ガスの排出実質ゼロを確実に達成し、1.5度に手が届くようにする
    各国は、石炭使用の段階的廃止や電気自動車への切り替えを加速し、森林伐採を抑制し、再生可能エネルギーへの投資を促進する必要がある
2. 気候変動に適応して地域社会と自然を守る
    生態系を保護・修復し、防御策を確立し、警報システムを整備し、インフラや農業の回復力を高めることで、住居・暮らし・生命が失われる事態を回避できるよう、協力する必要がある
3. 資金を動員する
4. 実現に向けて協力する

やはりCOP26で議論されるのは、石炭、森林破壊、電気自動車、再生可能エネルギーについてなのだろう。気候変動対策としての「食品ロス削減」は、まだまだ認知度が低いと言わざるをえない。

しかし、世界の70人の科学者と120人の外部専門家による検証に基づいて、地球温暖化を「逆転」させるための実現可能な解決策を100通り提示し、それぞれの解決策を「二酸化炭素の削減量」「費用対効果」「実現可能性」によってランクづけした「プロジェクト・ドローダウン(PROJECT DRAWDOWN)」では、食品ロスの削減は3位にランクされている(山と渓谷社『ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法』)。

COP26では、食品ロスの削減を各国の排出削減目標(NDC)に盛り込むような議論がなされるべきだ。食品ロスの問題は、高所得国、低所得国を問わず、すべての国にとって身近な問題であり、一人ひとりが今日から取り組め、費用対効果があり、実現可能性の高い気候変動対策なのだから。

この記事をシェア
関連記事