SDGs ACTION!

コロナ禍にどう向き合うか 米国と日本 蟹江教授が読み解くSDGs@米国【1】

コロナ禍にどう向き合うか 米国と日本 蟹江教授が読み解くSDGs@米国【1】
慶応義塾大学大学院教授/蟹江憲史

蟹江憲史さん
蟹江憲史(Norichika Kanie)
慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。専門は国際関係論、地球システムガバナンス。国連が4年に一度まとめる『グローバル持続可能な開発報告書(GSDR)』において、2023年版の執筆を行う世界の15人の専門家のうちの1人。近著に『SDGs(持続可能な開発目標)』『SDGs入門:未来を変えるみんなのために』など。政府SDGs推進本部円卓会議メンバー/国連大学サステイナビリティ高等研究所客員教授を兼任。

米国から日本を客観視したい

8月中旬、緊急事態宣言下の日本を出発し、米国ワシントンDCにやって来ました。

私の所属する慶応SFC(湘南藤沢キャンパス)では、3年ごとに半年分のサバティカル(研究に集中できる期間)を得られます。私の場合、6年分を「貯めた」ため、1年間の権利を確保していました。ちょうど海外留学の制度もあったため、これを利用して海外で研究を進めることにしました。2023年の国連によるSDGsの報告書Global Sustainable Development Reportの執筆者に選ばれ、これに関する研究を国連の近くで進めたいというモチベーションも働きました。

1年前にこの計画を立てたときには、1年もすればだいぶコロナ禍も先が見えているのではないか、と考えていました。実際にワクチン接種も始まり、アメリカをはじめとする対策の進んだ地域では、少しずつコロナ禍収束の出口が見え始めてもいました。とはいえ、日本をはじめ多くの地域ではコロナ禍のまっただなか。海外に出ることについては、かなりの苦労を伴うチャレンジだったのも事実です。しかし、元来の海外好きと好奇心にもくすぐられ、逆に今だからこその得難い経験もある、との思いが勝りました。

居住中のマンションにあるマスク着用を促すポスター
居住中のマンションにあるマスク着用を促すポスター
屋外ではマスクをしている人はあまり見かけない
屋外ではマスクをしている人はあまり見かけない(いずれも筆者撮影)

新型コロナウイルスの感染症はまだ予断を許さない状況下にありますが、いずれは、コロナ禍からの回復という歴史的大転換が待ち受けています。そして、SDGsを達成するためには、この大転換がラストチャンスになるでしょう。つまり、この大転換が持続可能な社会へ向けた大転換となるか否かが、人類の将来を決定づける――Build Back Betterを掲げるバイデン政権のチャレンジは、その命運を握る一つの鍵でもあります。だとすれば、その胎動を米国で間近に見聞きし、同時に日本の動きも海外からの視点で客観的に見ることは、かけがえのない経験になる。そんな思いもありました。

コロナ禍克服の実験場で

コロナ禍でSDGs達成へ向けた進捗は大きな後れを取りました。ただでさえ困難だと言われた17目標の達成がさらに遠のいてしまったことは、統計データからも明らかとなっています。貧困は深刻度を増し、過去20年で初めて世界の貧困人口は増加に転じました。多くの人が職を失い、とりわけ航空業界へのインパクトは甚大です。温室効果ガスの排出量も増え、地球の平均気温上昇には歯止めがかかっていません。

他方で、コロナ禍のダメージは、変革へ向けたチャンスととらえることもできます。そもそも変革をするためには、既存のものを一度壊す必要があります。経済や社会の仕組みを立て直すときは、変革のこれ以上ないチャンスとなりうるのです。この歴史上まれにみる機会をどのように生かすのか。そしてそのチャンスは、持続可能な世界へとつながるものでなければなりません。

世界に同じように降りかかった危機だからこそ、回復の様子を国際的に比べることが、市民や国の力を計る絶好の機会にもなる。そう考えながら、ワシントンDCでの生活を始めることになりました。

建物の入り口には消毒液が備わる
建物の入り口には消毒液が備わる(筆者撮影)

実際に生活を始めると、こちらの状況は日本の一歩先を行っているように感じます。特に私が今いる地域は、感染症対策で日本のニュースでも頻繁に耳にする国立衛生研究所のお膝元であり、米国の中でもワクチン接種率が最も高い地域の一つです。どのようにすればコロナ禍を克服することができるのかの「実験場」と言うこともできるでしょう。

私が渡米したころはデルタ株の影響が広がりつつあり、屋内では、マスク着用義務が復活していました。それでもワクチン接種率は7割を超え、屋外でのマスク着用義務はありません。ワシントンポストによれば、この地域ではワクチンとマスク、それに検査体制の整備を基本とする対策により、9月の週間新規感染者数は10万人当たり10人程度、つまり人口の0.01%に抑えられているということでした。復興へ向けた対策を示唆しているようにも見えます。10月に入ると、友人たちは3回目の接種を始めました。接種後6か月で打てるようになっています。12歳未満の子供への接種も始まり、11歳の我が長男もすでに接種を終えました。

日本は本質をとらえているか

さて、日本出国時にはPCR検査が義務づけられているわけですが、その値段の高さには驚きました。色々調べてみても、どうやら1人当たり3万円程度が相場のようです。家族が4人いれば、ゆうに10万円を超える計算です。これでは検査も進まないのではないでしょうか。

対してアメリカでは、大学生であれば構内で誰もが無料で検査を受けられます。小学校でもランダム検査が始まりました。すでに長男も2回検査を受けています。無症状でもこれにより感染状況がわかるというわけです。結果は翌日にメールで送られてきますから、親としても安心です。

先日は、私の住むマンションにも検査ユニットがやってきました。検査を希望すれば無料で受けることができ、さらに希望者にはワクチン接種もおこなわれます。極めて気軽に検査を受けられる体制ができているというわけです。ワクチン接種が進んでも自らの意思で接種を受けない人もいるのが、自由を尊重する国アメリカです。そうした人たちも検査を受けることで、感染拡大を抑えようという戦略が徹底されていることが身近に感じられました。

街の薬局でもワクチンが受けられる
街の薬局でもワクチンが受けられる(筆者撮影)

もちろん、ここに至る道は一筋縄ではいかなかったという点も押さえておくべきでしょう。ロックダウンと感染症対策とで、9月の新学期からようやく小中学校でも対面授業が完全再開されましたが、それまではオンライン中心、対面も週に数回というペースだったそうです。日本では昨年から学校が対面で行われていたのとは好対照です。ワクチンの普及によってようやく、そして一気に、動き出したというのが適切な見方でしょう。

米国入国に際しては、首都圏の州では隔離期間もなく、数年前と同様のスムースさで入国しました。オミクロン株の出現もあり、すべての国が同じように入国できるわけではありませんが、ワクチン接種証明は入国に際して一つの鍵となりそうです。11月からワクチン接種証明があれば入国しやすくなったことに伴い、GSDR2023へ向けたニューヨークの国連本部で行われるミーティングも、1月にはようやく対面実施されようとしています。徐々にコロナ禍からの回復が見え始めてきました。

日本への入国規制は、厳密さを欠く実施体制や、成田空港から関西までの移動さえ公共機関が使えないなど理不尽な話を耳にすると、改善の余地は多いように感じます。オミクロン株の出現で水際対策が強化されましたが、それ以前の対策にしても、隔離緩和条件などについて、あまりにも非効率な対策が多すぎるように思います。建前を重視しすぎるあまり、本質を見ていないように映ります。きちんと対策をとることは重要ですが、世界の中の日本だという意識をもち、島国意識をなくしていかないことには、今後の日本の復興も成り立たないと考えるべきでしょう。グローバルな社会の中での日本であり、パンデミック対策であることへの認識を欠いてしまっては、持続可能な社会へ向けた復興もおぼつかないことに気づくべきです。そもそもオミクロン株についても、途上国におけるワクチン接種の遅れが招いていると言っても過言ではありません。もはや我々は地球規模で物事を考えないわけにはいかない世界に住んでいるのですから。

そんな視点から、これから物事を見ていき、議論のきっかけをつくれればと思っています。

この記事をシェア
関連記事