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「ふつう」って何? ――トイレから考える障害と社会【全国高校生探究SDGsサミット】

「ふつう」って何? ――トイレから考える障害と社会【全国高校生探究SDGsサミット】
塙幸枝・成城大学専任講師
Sponsored by 成城大学

大学での学びは社会の課題解決にどうつながるのか。1121日に朝日新聞社(総合プロデュース本部)がオンラインで開催した「全国高校生探究SDGsサミット――地域課題からキャリアを考えよう――」(朝日新聞総合プロデュース本部主催)の中から、成城大学のプログラムを紹介します。文芸学部の塙(ばん)幸枝・専任講師が「『ふつう』って何?――トイレから考える障害と社会」と題して授業を行い、参加した約70人の高校生に、障害者を包摂する社会のあり方について解説しました。

全国高校生探究SDGsサミットとは

高校生が日ごろの探究学習を通じて抱いた興味や関心をさらに深め、将来の進路選びなどに生かしてもらおうと開催した。5大学の研究者らが参加し、エネルギー問題や生物多様性などSDGsに関わるテーマで計5コマの授業を展開したほか、現役大学生や大学院生による座談会など3コマの授業外講義を実施した。

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ばん・ゆきえ
2018年3月、国際基督教大学大学院アーツ・サイエンス研究科アーツ・サイエンス専攻博士後期課程修了。テレビにおける障害者表象の分析をつうじて、社会的・歴史的な障害観の変遷や、障害をめぐる社会問題を研究。

「ふつう」って何?――トイレから考える障害と社会

「ふつう」について考えるのは、意外に難しいことです。自分と異なる立場にある人の視点を借りることを意識してみましょう。視点をずらすと、自分が何げなく受け入れてきた「ふつう」に疑問を感じたり、その疑問から社会の問題点が見えてきたりするからです。今日は特に障害という点に注目します。

01
オンラインで講義する塙専任講師

そもそも「障害」とは何か。まずは学問的な定義を確認しておきましょう。障害のとらえ方には二つの異なる立場があります。一つは障害の「医学モデル」、もう一つは「社会モデル」です。

障害を抱えるのは個人?社会?

医学モデルでは、障害は障害者個人に帰属する身体的・精神的欠損との立場を取ります。これにしたがえば、障害に関わる困難の軽減にはリハビリテーションなど個人の努力が必要という発想につながります。しかし障害というのは個人の問題なのでしょうか。社会モデルでは障害を「障害者に不利益を生じさせる社会的障壁」ととらえます。障害は社会の側の問題とみて、困難の軽減には社会の変革こそ必要だという考え方です。

02
トイレをさまざまな角度から撮影してみる(塙専任講師の資料から)

トイレの外観や設備の写真を見てみましょう。一番左はトイレの入り口です。白い部分を外から押すと、少し重い扉が開きます。みなさんは特に難しさを感じないかもしれませんが、もし自分が車いすに乗っていたとしたらどうでしょうか。片手で扉を押しながら車いすを操るのは結構難しいかもしれません。視覚障害者だったらどうでしょう。ここに扉があると気づかなかったり、トイレがあることすらわからなかったりするかもしれません。

真ん中の写真は個室の中ですが、これも車いすだと間口が狭すぎて入れないかもしれない。洗浄レバーやいろいろなボタンはトイレによって位置が異なるので、視覚障害者が家の外でトイレを使うときにその都度、確かめないといけない難しさは、よく指摘されています。

「ふつう」を押しつけない

手洗いの場所も、身長が低い人だと高い位置にある蛇口は使いにくいかもしれません。車いす利用者も蛇口に手が届かない可能性がある。自分は「ふつう」と思っていても、それが「ふつう」であっては困る人がいるということが見えてきます。

「ふつう」が一方的に押しつけられることで、だれかが社会から排除される状況になってはいけません。ではどのように改善していけばいいか。障害者差別解消法では、障害者に対する不当な差別的取り扱いが禁止されています。「不当な差別的取り扱い」というのは聞き慣れない言葉ですが、簡単に言うと、障害を理由に公平な機会を与えないことです。

03
合理的配慮とは(塙専任講師の資料から)

そうしたことが生じないようにするためには、合理的配慮という考え方がよりどころになります。これは、差別しないように配慮しなければならないが、サービスの提供者側に過度の負担にならないよう、合理的な範囲でなされればよい、というものです。

階段しかないビルの2階にレストランやカフェがあったとしましょう。そこに車いすユーザーが来ましたが、階段は上れません。みなさんが店員だったらどうしますか。「うちには階段しかないので車いすの方はご利用いただけません」と言ったら、それは差別的取り扱いに該当します。障害を理由に店を利用する機会を奪うことになるからです。ただ、すぐにスロープやエレベーターを設置する、というのはあまりに負担が大きい。合理的な範囲でできる対応の一つは、スタッフを集め、人力で車いすを2階まで運ぶことです。

04
ユニバーサルデザインとは(塙専任講師の資料から)

もう一つ、社会の「ふつう」を考える手がかりになるのが、ユニバーサルデザインという考え方です。簡単に言うと、すべての人にとって使いやすいデザインを指しています。

「すべての人」想定する難しさ

歩道で目にする黄色い点字ブロックは、視覚障害者にとってはなくてはならないデザインですが、他方で車いすが進みにくくなると言われることがあります。ある人たちにとって大事なものが、別の人に困難をもたらす。そんなせめぎ合いがどうしても起こります。そこで大事なのは、すべての人のニーズをかなえるデザインなど存在するのかと放棄するのではなく、多様なニーズを想定してみることではないでしょうか。

自分は障害者ではないから関係ないと思えるようなことも、いざ障害者になったら、現状が「ふつう」では困る、と感じるかもしれません。社会について考えることは、自分について考えることでもあります。自分の中の凝り固まった「ふつう」から一歩飛び出し、いろいろな「ふつう」があることを前提に、いろいろな人が一緒に暮らしていくためにはどうしたらいいかを考えてみることが重要ではないかと思います。

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