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バニラから食料危機を考える データで見るSDGs【11】

バニラから食料危機を考える データで見るSDGs【11】
日本総合研究所シニアスペシャリスト/村上 芽

art_00115_著者_村上芽
村上 芽(むらかみ・めぐむ)
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト。金融機関勤務を経て2003年、日本総研に入社。専門・研究分野はSDGs、企業のESG評価、環境と金融など。サステイナビリティー人材の育成や子どもの参加に力を入れている。『少子化する世界』、『SDGs入門』(共著)、『図解SDGs入門』など著書多数。

増える飢餓人口

誰もが食事を通じて十分な栄養を取れること、というのは持続可能な社会の基本的な条件です。この連載では今年、肉の消費における変化や、漁業の持続可能性について取り上げ、「誰が、何を、どのように食べているか」に注目してきました。今回は、そもそも十分に食べることができていない人がどのぐらいいるのか、見ておきましょう。

2020年にノーベル平和賞を受賞した国連世界食糧計画(World Food Program: WFP)は、SDGsのなかで「目標2: 飢餓をゼロに」を担う国際機関です。WFPが2021年11月に発表した報告書によると、世界の飢餓の状況は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック化以降、継続して悪化しています。

主な内容は以下の3点です。

・80カ国、2億8300万人の食料が急速に不安定化し、高いリスクにさらされている
・(食料不安は)2020年初頭のパンデミック以前に比べ88.8%増加しており、前例のない伸び率
・主な増加要因は、紛争の増加、コロナの影響を含む経済悪化、気候変動

地域別にみると、下図のようにアフリカ大陸の飢餓人口が多くなっていることがわかります。

図表 地域別の飢餓人口の変化 単位:100万人

art_00233_本文1_図表1_地域別飢餓人口
出所:WFP “WFP Global Operational Response Plan: November 2021”

ただし、「80カ国、2億8300万人」という数字は、あくまでWFPが活動しデータを取得できる国に限っての情報です。

2021年9月には、EU(欧州連合)、FAO(国連食糧農業機関)とWFPによる「食料危機対策グローバルネットワーク(GNAFC)」が、「42カ国、1億6100万人」という数字を発表したばかりでした。

二つの数字の違いは、データの取得可能性によるものです。対象となった国の違いに加え、難民を加えるか否かといった違いもあります。WFPが、四つの報告書を比較分析した資料を作っているので、参考にしてみてください。

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重要なのは、「悪化している」点で共通していることです。紛争、コロナによる経済影響、異常気象を3大要因とする点も共通しています。

WFPによると、新たに危機的な状況にある人が増えているのはアフガニスタン、ミャンマー、ソマリアです。また、特に深刻なレベルにある国は、エチオピア、マダガスカル、南スーダンです。

アフガニスタンやミャンマーは、最近の国内情勢の混乱が日本でもよく知られていますが、例えばマダガスカルについては、ほとんど報じられていません。そこで、マダガスカルの食料危機の周辺について調べてみると、複雑な気持ちにならざるを得ないデータが浮かび上がってきました。

バニラ最大供給国で

マダガスカルの主な産業は農林水産業、鉱業、観光業です。日本には、ニッケル、コバルト、香辛料類(バニラ、クローブ)、衣類、魚介類などが輸出されています。

この中から、バニラについて見てみましょう。

財務省の貿易統計をもとに計算してみると、2020年に日本が輸入したバニラ豆約45tのうち、約93%がマダガスカルからのものでした。

バニラ豆は、洋菓子などに甘い香りをつける香辛料です。カスタードクリームやバニラ味のアイスクリームに混じって、時々黒いツブツブを見かけることがありますよね。植えてから収穫できるまでに何年もかかるランの仲間の植物で、世界のバニラ需要の8割以上をマダガスカルが供給しています。

art_00233_本文3_バニラビーンズ
バニラ豆

世界的なオーガニックブームや中国など新興国の嗜好品消費が増えたことを背景に、天然の香料に対する需要も高まっていたところ、2017~18年に同国でサイクロン被害が発生した影響で品薄となり、相場が高騰しました。現在は一服したようですが、以前に比べると高水準が続いています。

一方、マダガスカルの食料危機は、過去40年で最もひどい干ばつが続いていることが原因です。4年も続く干ばつで農作物を収穫できず、備蓄も尽きて食料不足に陥るという悪循環から抜けられないという、最も深刻なレベルに相当する人が急増しています。人口2769万人(世界銀行調べ)に対し、131万人が食料不安に直面しており、2万8000人が大惨事レベルの状況にあるのです(WFP調べ)。

外貨獲得か食料生産か

WFPなど国際機関による食料危機の要因分析のなかで、バニラ豆に言及しているものは見つかりませんでした。マダガスカル国内には大きな紛争もありません。ただ、バニラ豆の主産地は北部で、干ばつの被害が深刻なのは南部です。バニラ価格の高騰が盗難や争いごとを招いたり、生産性を逆に低めたりする要因になっているとの見方もあります。バニラだけでなく、主食となる米の生産性を高めるべきだとする米デューク大学の研究などもありました。

外貨獲得といった経済政策の観点からは、バニラ栽培の規模を減らさず、世界最大の供給国としての地位を守ることが重要です。しかし、食べてお腹を満たすことのできないバニラに労力をかける一方で、援助に頼らざるを得ず危機的な状況にある食料の生産をどうするのか。いつ収束するかわからない干ばつのなかで考えていかなければなりません。

バニラはお金のある国で高級嗜好品として消費されており、もとはと言えば植民地時代に原産地の中南米から持ち込まれたもの、と考えていくと、サステイナビリティーをめぐるさまざまな課題が互いに絡み合っている問題であることがわかります。

「飢餓をゼロに」というSDGsのゴールとは逆に、食料難にある人が増えているという現実を理解し、どうすればよりよい世界に近づくことができるのか、多様な角度から考えてみる機会になれば幸いです。

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WFPから食料を受け取る南スーダン難民=2020年11月27日(撮影・朝日新聞)

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