SDGs ACTION!

サステナビリティ経営の実践(上)社内浸透の壁とポイントを専門家が解説

サステナビリティ経営の実践(上)社内浸透の壁とポイントを専門家が解説
株式会社サーキュレーション/信澤みなみ

ESG投資の拡大を含め、企業経営にもサステナビリティ経営が求められています。経営方針やマテリアリティをうたうだけでなく、組織内にどう浸透させるか。実際に企業や自治体のサポートを手がける株式会社サーキュレーションの信澤みなみさんに、課題と対策を整理してもらいました。

art_00237_著者
信澤みなみ(のぶさわ・みなみ)
1988年生まれ。大手人材会社の社内ベンチャーを経て2014年、株式会社サーキュレーションの創業に参画。2019年からソーシャルデベロップメント推進プロジェクト代表として、専門分野に長じた人材を紹介するプロシェアリングを通じた持続可能な企業や自治体、社会の構築に取り組む。

加速する取り組みの一方で

近年、サステナビリティ(持続可能性)を意識した国際的なルール制定が企業経営においても重要視されるようになりました。

2006年、国連グローバル・コンパクトから発足したPRI(責任投資原則)に伴うESG(環境・社会・ガバナンス)を重視した投資の拡大、2015年国連サミットでのSDGsを含めた「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の採択、その後のCOP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)でのパリ協定合意――。

世界では短期的な利益追求ではなく、関係する全ての人たち(ステークホルダー)を重視し、社会課題解決につながる価値提供を目指す長期的な企業経営へと変革が進んでいます。

国内においても、サステナビリティを経営に実装する企業が増えてきています。KPMGの「日本におけるサステナビリティ報告2020」によると、2021年2月時点で日経平均株価の構成銘柄225社のうち99%にあたる223社が、サステナビリティリポート、統合報告書、ウェブサイトのいずれか一つ以上でサステナビリティ情報を開示しています。

このうち、自分たちの企業活動がどう社会課題の解決と結びつくのかを具体的に示す「重要課題(マテリアリティ)」を開示する企業も76%に達しました。

また、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)と地球環境戦略研究機関(IGES)がまとめた「コロナ禍を克服するSDGsとビジネス(2020)」によれば、企業のSDGsへの取り組み方を5段階で示した「SDG Compass」で見た場合、「ステップ4:経営へ統合する」のレベルへと移行した企業が27.4%と、最も多くなっています。

ただ、取り組むうえでの課題として、「定量的な指標など評価方法がわからない(51%)」、「中間管理職の理解度が低い(47%)」、「一般職層の理解度が低い(46%)」の三つが上位を占めます。マテリアリティを抽出できていても、経営に実装する際に当事者となるべき事業部の役員や部課長、現場社員の理解促進に頭を悩ます企業が多いことがうかがえます。

この理解促進において重要になってくるのが「自分ごと化」です。ただ「理解している」だけでは「やらされ感」が高まり、本当の意味での浸透と実行を促す状態をつくることは困難です。

art_00237_本文_01

私自身、この1年で上場企業の経営企画担当者やサステナビリティ推進責任者といった人たちから「事業部の役員や部課長に当事者意識をもってもらうにはどうしたらいいでしょう?」といった相談を数多く受けるようになりました。

マテリアリティを掲げるだけで終わってしまったり、既存事業の延長にすぎない保守的な目標設定にとどまってしまったりせず、サステナビリティ経営を推し進め、自社にとっても社会にとっても大きな可能性を切りひらいていくためには、どうしたらいいでしょうか。

「自分ごと化」できないのはなぜ?

日本企業のサステナビリティ方針やマテリアリティの多くは、まず経営企画部門やサステナビリティ推進室が中心となって方向性を取りまとめ、経営幹部との合意をもって決められます。

実装フェーズに移行する際に中心となるのは、各事業部の役員や部課長になりますが、大企業になればなるほど、事業部責任者がそれまでのプロセスに関与していないことも多く、サステナビリティ経営への理解・関心において経営幹部との間に認識の差が生まれがちです。

事業部の責任者によく見られる思考パターンと、そこに存在する壁について整理してみましょう。

<よくある思考パターン>
Ⅰ:ニュートラル思考
サステナビリティ/SDGs/ESGのキーワードを耳にしたことはあるが、社会の動向や企業が取り組むべき背景などの全体像を理解していない。そのため、自分自身で理解する必要があると考えておらず、関心も芽生えていない。

Ⅱ:潜在的自分ごと思考
企業が取り組むべき背景、どう取り組んでいくのかは理解できていないが、社会にとって重要な事項であるという感覚はあり、自身も理解をより深めたいという関心がある。

Ⅲ:他人ごと思考
全体的な動向や企業が取り組むべき背景について頭では理解できているが、経営企画やサステナビリティ推進室が取り組むものだと思っている。自分や関わる事業部門にとっての機会やリスクが具体的に見えておらず、自ら時間を割いて考えようとの関心も持てていない。

Ⅳ:自分ごと思考
全体的な動向も、企業が取り組むべき背景も、自らに関係があることも理解している。自身や事業部門にとって必要だと思えており、関心も意欲も高い(ただし、実際に取り組むとなると未来をとらえる思考が足りず、保守的な目標設定に陥りがちな場合もある)。

(画像をクリックすると拡大します)

(画像をクリックすると拡大します)

<よくある壁>
壁① → 社会課題と自分の仕事との紐(ひも)付けができていない
(「Ⅰ:ニュートラル思考」「Ⅱ:潜在的自分ごと思考」の壁)

・全体的な基礎知識インプット機会不足
サステナビリティ/SDGs/ESGが、どのような流れの中で浮上し、注目されるようになったのか、社会の背景や全体的な動向を理解していないため、キーワードだけでとらえてしまっている状況。そのため、企業や自分自身にとってどれくらい関係があるのか、重要なのかが理解できていない。

・自社や自分の仕事との関連付け機会不足
自分自身の仕事が社会課題とどうつながっているのか理解できていないため、自分自身が理解し取り組む必要についてイメージがわかない。また、自分の仕事が社会課題へ影響を及ぼすポジティブな側面とネガティブな側面があることを理解できていないため、自分ごとにできず、当事者意識が持てない。

壁② → 未来起点(バックキャスト)での機会やリスクが想像できていない
(「Ⅲ:他人ごと思考」「Ⅳ:自分ごと思考」の壁)

・未来起点での思考機会不足
通常業務において現在の延長線上で考えるフォアキャスト思考がしみついており、10年後、20年後の可能性を広く想像する機会がもてず、リスクに気づくこともできない。結果的に、他人ごとになってしまったり、意欲的な思考ができず短期的な視野にとどまってしまったりする。

・自部門に対する問いかけと対話不足
どのような未来を創造したいかを問われて考える機会や思いを引き出す対話、社会課題を自分に紐付ける作業が不足しており、現在の実績や課題の延長線上でしか未来を描くことができない。

(画像をクリックすると拡大します)

(画像をクリックすると拡大します)

壁を打ち破るためにすべき四つのポイント

みなさんの会社や組織では、どの思考や壁が多そうでしょうか。整理したうえで、それぞれの壁を打ち破るために今後どのような施策をおこなうべきか、アクションポイントを考えてみましょう。

(画像をクリックすると拡大します)

(画像をクリックすると拡大します)

壁①に対するアプローチ → 全体像+関連性を理解する機会の創出

・全体動向の理解
これまで社内勉強会やeラーニングで何かしらの情報を提供してきたかもしれませんが、そこで得られる知識と自社の事業環境がつながらなければ、本人たちの納得を醸成することができません。単なるキーワードの理解にとどめず「なぜ自社が取り組む必要があるのか?」をあわせて思考してもらうことで、サステナビリティ/SDGs/ESGに取り組む意義を自らの言葉に落としこんでもらい、納得を促す機会を創出しましょう。

・自部門とSDGsとの因果関係の理解
サステナビリティ/SDGs/ESGについて全体動向を理解するだけでは「なぜ自分たちが考える必要があるのか?」という関連性を理解しきれない可能性があります。その場合、自部門が社会課題とどう結びついているかを考え、因果関係を理解してもらうことが効果的です。既存事業における社会への影響や社会価値はいかなるものか、社会課題の羅針盤であるSDGsを参考にしながら整理する機会を創出しましょう。

壁②に対するアプローチ → 2030年起点での思考機会創出+問いかけと対話

・メガトレンドをふまえた機会/リスク想定
2030年など、10年~20年先を意識し、メガトレンドを踏まえたステークホルダーの変化を想定し、そこから機会やリスクを洗い出してみましょう。現在の延長線上では見えてこない可能性を抽出することができます。中長期先から、あるいは社会課題を起点に自部門をとらえることで、取り組むべき/取り組みたい未来を描く機会を創出しましょう。

・事業部の思いを引き出す問いかけと対話
中長期起点での機会やリスク、取り組むべき/取り組みたい可能性を描く機会を設けたら、それらを実現するためには何が足りないのか、それらを実現するためにはどうすればよいのか、継続して対話する機会を創出しましょう。その際、既存事業の延長で「できるか、できないか」ではなく「取り組むとしたら」の想定ベースで対話し、可能性を狭めないよう心がけましょう。

(画像をクリックすると拡大します)

(画像をクリックすると拡大します)

「問いかけ」と「対話」に重点を

サステナビリティ経営の実装においては、事業部役員・部課長自らの理解と意志がない限り、事業活動を通じた中長期の戦略策定も事業活動を通じた実現もできません。そのうえで、一般論的な重要性や取り組み意義で終わらせず、いかに「自分ごと」としてとらえてもらうか。これまでの実績や知識、経験が無意識の前提にならないよう、注意も必要です。

サステナビリティ経営の重要性を一方的に説いたり、答えを急いで求めたりするよりも、中長期の未来を想像してもらう「問い」をデザインし、実際に思考機会を創出することが有効です。この問いかけと対話を通して、新たな可能性を描いたり想像してもらったりするプロセスを創り出すことで、「自分ごと」を基盤とした中長期の事業活動目標を立てることができます。

「サステナビリティ経営の実践(下)」では、実際の取り組み事例を紹介しながら、実践への具体的なイメージをつくれるようにしていきましょう。

この記事をシェア
関連記事