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食品ロス削減 経済・環境・社会から見る三つの意義とは?

食品ロス削減 経済・環境・社会から見る三つの意義とは?
食品ロス問題ジャーナリスト/井出留美

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井出留美(いで・るみ)
奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学)、修士(農学)。ライオン、青年海外協力隊、日本ケロッグ広報室長などを経る。東日本大震災で支援食料の廃棄に衝撃を受け、自身の誕生日でもある日付を冠した(株)office3.11設立。第2回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門、Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018、令和2年度 食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。近著に『食料危機』『捨てられる食べものたち』など多数。

事例:回転寿司やスーパーでは

食品ロスの講演をしたり記事を書いたりすると、返ってくる言葉がある。

「食品ロスを減らすと経済が縮む」

本当にそうだろうか? 食品ロスの削減と経営を両立させている事例をみてみよう。

元気寿司は「できたてをお客様に提供したい」という思いから、回転レーンを「まわさない」店舗を2012年に開店させた。通常、回転寿司では、数回転して客に取ってもらえなかった寿司は、ネタが乾いてしまうので廃棄される。元気寿司では、注文を受けてから握るようにし、専用レーンで握りたての寿司を提供し、食品ロスを削減しつつ売り上げを1.5倍に伸ばしたという。以前は「まぐろ150皿」など、売れそうな量を感覚で準備していたが、注文データを翌日以降の食材準備に活用し、食材の無駄も削減できた。

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元気寿司の高速レーン(元気寿司提供)
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元気寿司のタッチパネル(元気寿司提供)

スーパーでは、食品を賞味期限・消費期限ギリギリまで売らず、その手前の販売期限で商品棚から撤去し、処分するのが通例だ。京都市と市内のスーパー「イズミヤ」「平和堂」が、賞味期限や消費期限ギリギリまで販売する実証実験を1カ月間行ったところ、食品ロスを10%減らし、売り上げは5.7%増やすことができた。

広島のパン屋「ブーランジェリー・ドリアン」では、常連客に焦点をしぼり、以前は40種類以上作っていたパンを、まき窯で焼く日持ちする4種類に減らし、その代わりに上質な国産の有機小麦とルヴァン種を使い、徹底的に味にこだわったところ、売り上げを維持しながらも2015年秋からパンを1個も捨てていない。従業員2人で1日8時間労働、しかも週休3日という持続可能な経営だ。

注)コロナ禍のためブーランジェリー・ドリアンは現在オンライン販売のみ。

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ブーランジェリー・ドリアン(撮影・office3.11)

これらの事例は、食品ロスを削減しつつ売り上げを維持する(あるいは伸ばす)ことは可能だということを示している。

次に食品ロスを減らす意義についても考えてみたい。主なものを三つあげてみよう。

経済的影響:5年間の経済損失は285兆円

2005~2009年の食料価格に基づいて国連食糧農業機関(FAO)が推計した世界の食品ロスの経済的損失は、社会的・環境的コストを織り込んだ場合、2.6兆ドル(約285兆円)。2021年末に閣議決定された日本の2022年度予算案は約107.6兆円と過去最大となったが、その約2.6倍だ。

食品を捨てることは、単にその食品を捨てるにとどまらない。牛や豚など家畜を育てるにも稲や野菜を栽培するにも、多くの人手がかかっている。食べられるように加工し、スーパーやコンビニに運ぶにも、多くの人手とエネルギーが使われている。食品を捨てることは、それらの経済活動を丸ごと無駄にしてしまうということだ。そして日本ではまだ十分に食べられる食品を、ごみ処理場で膨大な費用をかけて焼却処分している。

環境的影響(1):化石燃料すべてやめても1.5℃超に

環境への影響は、現在、最も注目されている分野である。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、世界で排出される温室効果ガスのうち、8~10%は食品ロスに由来するとしている。また、21〜37%は食料システム(食料の生産、加工や輸送、消費などに関わる一連の活動)から排出されたものだと推定している。

たとえ明日からすべての化石燃料の使用をやめても、食料システムからの排出量だけで、今世紀半ばには、地球の気温上昇はパリ協定の目標である1.5℃を超えてしまう(2020年11月発行『サイエンス』)。

世界中の食品ロスを仮に一つの国にたとえると、中国、米国に次いで、世界第3位の温室効果ガスの排出源となる。温室効果ガスは、気候変動を悪化させ、異常気象は農畜水産物の栽培・飼育を困難にする。

温室効果ガス発生量(土地利用・土地利用変化・森林によるものを除く)

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出典:世界の農林水産「食料ロス・廃棄の軽減を通じた気候変動対策」(FAO、2018/3/1)

環境的影響(2):見逃せない日本の負荷

グローバル化した現代の食品産業において、私たちの食べる食品は、多かれ少なかれ世界の食料システムとつながっている。世界のある場所での食品の需要は、何千kmも離れた土地の開拓を促す。アマゾンや東南アジアの熱帯雨林が焼き払われ、大豆やアブラヤシの大規模農園が次々開拓される。それほど環境に負荷をかけて農作物を栽培しておきながら、結局、それらが食べられることもなく捨てられているとしたら、熱帯雨林の開拓に何の意味があるのだろう?

食料自給率37%(カロリーベース)の日本では、その多くを海外からの輸入に頼っている。食料の重さに運ぶ距離を掛けた「フードマイレージ」をみると、日本は1人当たり6628t·km(2016年)。米国(1051)やフランス(1738)の4〜6倍である。

人間の生活を維持するためにどのくらいの面積が必要かを数値にした「エコロジカル・フットプリント」によれば、世界中の人が日本人と同じ生活をするには、地球が2.9個必要だ。

社会的影響:教育や雇用の機会奪う

2020年7月、FAOを取材した際、駐日連絡事務所のチャールズ・ボリコ所長(当時)は世界の食品ロスの社会的影響について、次のように話していた。

「食品ロスによる世界の経済的損失は2.6兆ドル。そのお金が使えたら、どれくらいの学生が奨学金をもらって進学できたでしょう? どれだけの雇用が創出され、どれだけの人が仕事を見つけられたでしょう? どれだけ多くの学校、病院、道路を作ることができたでしょう? 私たちは食品ロスによって何かを失っているのです」

食品ロスは、私たちが受けられたはずの医療や教育、福祉、雇用などの機会を奪っているのだ。

社会的影響に関連して、「倫理的影響」について言及する人もいる。まだ十分食べることができる食品を捨てることは、経済的に困窮している人の食の機会を奪うことでもある。2021年の東京五輪では、ボランティア向けの弁当が13万食、1億1600万円分が処分された(2021年12月に、実は30万食だったと公式発表された)。捨てるなら食べられない人に渡したらどうかと署名運動が起こり、関係者は6万人の署名を五輪大会組織委員会に提出した。が、許可されることはなかった。

コロナ禍で10万人以上が雇い止めとなり、今も東京都庁下では毎週土曜日に400〜500人が食料配布の列に並んでいる。SDGsの理念は「誰ひとり取り残されない」だが、現実には今日の食べ物に困っている人たちがいる。世界では何億人もの人たちが食料不安や飢えに苦しんでいる。平気で食べ物を捨てることは、倫理的・道徳的にも多くの疑問を生む。

SDGsのウェディングケーキモデル

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出典:Stockholm Resilience Centre

自然資本の維持を経営の根幹に

英国で小売り3番手だったテスコを世界第3位にまで成長させた元経営者のテリー・リーヒー氏は著書『テスコの経営哲学を10の言葉で語る』で、「自然資本」を大切にし、経営と両立させる重要性について触れている。「自然資本」とは、たとえば、海から得られる魚介類、牧場で得られる肉や牛乳、農場から得られた野菜や果物など、自然環境から得られる資源のこと。自然資本から得られるサービスの価値は、世界のGDPの1.6倍、年間124.8兆ドルにのぼると試算されている(『Global Environmental Change』、2014)。

3段重ねのケーキを模したSDGsの「ウェディングケーキモデル」は、最も重要な土台に自然環境が位置し、その上に社会、経済がある。食品ロスを最小限にすることは、自然資本を持続させること。それが、ひいては経済の循環につながっていく。食品ロスを減らして自然資本を持続させてこそ、経済循環を持続させることができるのだ。自然に対する謙虚さを、今こそ取り戻すべきではないだろうか。

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