SDGs ACTION!

「日本一のマネジャー」からうつ病、そして再起 障がいのある「ミンナ」のために【#チェンジメーカーズ】

「日本一のマネジャー」からうつ病、そして再起 障がいのある「ミンナ」のために【#チェンジメーカーズ】
ミンナのミカタぐるーぷ代表/兼子文晴

社会課題解決のために奮闘するキーパーソンを紹介するシリーズ「#チェンジメーカーズ」。今回は、障がい者施設と企業をつなげる仕事マッチングサービス「ミンナのシゴト」を立ち上げた兼子文晴さん(42)です。自身がうつを患った経験で「障がい者」のイメージを見直し、障がいのある「ミンナ」の活躍の場を広げています。「日本から障がいという言葉と概念を無くす」。そんなミッションに込めた思いも尋ねました。(聞き手 編集部・竹山栄太郎)

兼子文晴(かねこ・ふみはる)
1979年生まれ、東京都大田区出身。国士舘中・高で柔道部に所属。国士舘大卒業後、建材大手のジャパン建材に入社。木材卸・加工販売会社を経て2013年、就労継続支援A型事業所を運営する「ミンナのミライ」を設立。その後、B型事業所を営む「ミンナのナカマ」も立ち上げ、2018年5月には「ミンナのシゴト」をスタートした。

柔道金メダリストの先輩

――「日本一」になったことがあるそうですね。

柔道がやりたくて、中学受験して国士舘に入学しました。強豪の柔道部に集まるのは全国大会に出た経験があるような人ばかりで、未経験者は自分ぐらい。一瞬ひるんでしまい、パソコン部に入りましたが、思い直して柔道を始めました。最初はひたすら受け身の練習です。1学年下にいたのが鈴木桂治(アテネ五輪金メダリスト)で、彼の最初の体操係は自分でした。

高校では、「あまり強くない自分が貢献できることはないか」と思ってマネジャーを志願し、3年生のとき、全国大会で優勝しました。仲間が「おまえがいたから日本一になれた」と言ってくれた。「日本一のマネジャーになれたんだ」。あの感動はいまだに忘れられません。

柔道はそこでやめ、大学時代はガソリンスタンドのバイトに励みました。人と接すること、しゃべることが好きで、いつも売り上げ上位でした。就職活動でも「日本一の会社に入りたい」と思って、建材大手のジャパン建材に入社。仙台の営業所でとにかく営業しまくりました。

――その後、「どん底」を経験します。

結婚して子どもが生まれたのをきっかけに、栃木県鹿沼市の義父の会社に移りました。同じ建材業界で、そこでも営業をやらせてもらい、売り上げを伸ばしました。「営業本部長」の肩書をもらい、「いずれは会社を継いで社長になって、日本一にしたい」。そんな野望も抱いていたんです。

ところがあるとき、長男である妻の弟が実家に戻ってきました。何となくうまくいかなくなり、自分はある日いきなり倉庫番に回されたんです。「何のためにここに来たのか……」。お酒を飲み、妻に当たってしまう。どんどん嫌になって、そのうち「おれがいなくなった方が、みんな幸せになるんじゃないか」と感じ、「死のう」と思い詰めました。30歳ぐらいのころでした。

でも、ふと考え直したんです。「おれも長男なのに家を置いて出てきちゃったし、日本一の経験もさせてもらったのに、両親に何も恩返ししていないな」って。「生きなきゃいけない」。そう思って病院の予約をとりました。「重いうつ病」と診断され、薬を飲み始めました。

兼子文晴さん

施設見学でイメージ一変

――そこから、どう立ち上がったのですか。

1年ぐらいして、「社会復帰のために就労支援事業所に見学に行かないか」と声をかけられました。地元はいやで、わざわざ名古屋まで見に行きました。主に後天性の障がいを持った人たちが通う「就労継続支援A型事業所」という施設です。

Keywords
就労継続支援A型事業所

一般就労が難しい障がい者らに就労の機会を提供する事業として、2006年施行の障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)で制度化された。利用者は事業者と雇用契約を結び、最低賃金が保証される。2020年3月末で約7.2万人が利用している。食品の製造販売や清掃作業などの仕事が多く、2020年度の平均賃金は月7万9625円(施設数3757カ所)。一方、B型事業所は雇用契約を結ばない形で、工賃が支払われる。2020年度の平均工賃は月1万5776円(施設数1万3441カ所)。

見学に行ってまず思ったのは、「えっ、誰が障がい者なの?」。みんないきいきと働いていて、首にネームプレートをかけている人がスタッフなんだろう、というぐらいの違いしかありませんでした。そのとき、「障がい者」の固定観念が自分のなかで崩されたんです。こんな世界があるんだ、と。

帰って調べてみたら、鹿沼市にはA型事業所が一つしかなかったんです。一つの事業所に通う障がい者は20~25人。一方、鹿沼市に障がい者は約5000人もいました。「全然足りない」。社長になる夢を捨てていなかったし、障がいのある人の気持ちもわかるから、自分で事業所を始めようと思いました。それが起業のきっかけです。

就労継続支援A型事業所「ミンナのミカタ楡木」
就労継続支援A型事業所「ミンナのミカタ楡木」(ミンナのミカタぐるーぷ提供)

――2013年に、就労継続支援A型事業所「ミンナのミライ」を立ち上げました。

人脈もお金も知識もない、ゼロからのスタートでした。うつで1日2、3時間しか動けないなか、必死に事業計画をつくって、銀行からお金借りて、行政に出す書類をつくりました。最初はスタッフだけでしたが、徐々に障がいのあるミンナが増えてきました。彼らはしゃべるのも仕事をするのも、本当に普通なんです。どんどん楽しくなり、笑いながらわいわいやっていました。そのころには自分の営業力も再爆発し、仕事をとるためにひたすら飛び込み営業に行きました。

障がい者に対する企業のイメージは、「簡単な仕事しかできない」「単価が安い」といったものでした。福祉業界に営業力がなく、お涙ちょうだいの営業をしていたのが一因です。「障がい者には何でもいいから作業させておけばいい」という考え方もありました。

我々が当初、引き受けていた仕事も単価の安い内職ばかり。それではだめだと思い、どんどん営業をかけて安い仕事はお断りし、単価を上げていきました。「なんでできないんだ」と怒られもしましたが、「ちょっと待ってください。この単価で御社の社員さんにやれと言えますか」と聞くと、「うーん、できない」という返事なんですよ。「同じ人間が同じ作業をするんだから、うちだってできませんよ」と言い返しました。

YouTube「ミンナのミカタちゃんねる」から
YouTube「ミンナのミカタちゃんねる」から(提供)

自分はパソコンをいじるのが好きなので、あるとき「IT系の仕事ができるのでは?」と思いつきました。東京のIT企業に営業をかけよう。でも、なかなか社内に入れない。考えた末、顧客向けの説明会に参加し、終わってから登壇していた人に営業をかけてみました。

そうして仕事をとれたのが名刺のデータ入力作業で、それがぴたっとはまったんです。自分がやってみたら4時間で500枚分しかできないけど、はじめはパソコンの電源も入れられなかったのに、4000枚とか5000枚もできる子たちがいました。いちばんできる子は重度の自閉症ですが、4時間で9000枚も入力できました。「すげーな。こういう仕事、できんじゃん」。それからIT企業への営業に力を入れるようにしたんです。

「最先端」の裏にミンナの力

――その後、障がい者と企業の仕事マッチングサービスにも乗り出しました。

数年前、全国で急増していたA型事業所が相次いで閉鎖し、社会問題になりました(注)。助成金に頼り、経営が苦しいからと安易に閉鎖されてしまえば、そこに通う子たちはお給料も働き口もなくなり、仲間と離ればなれになってしまいます。

(注)2017年7月末、岡山県倉敷市にある五つのA型事業所が閉鎖され、利用していた障がい者が一斉に解雇された。経営難で給与を支払えなくなったとされる。同様の解雇事案は、愛知県などほかの地域でも起きた。

日本には弊社創業当時で800万人、いまでは964万人の障がい者がおり、自分は「ミンナの味方になるんだ」と言っていました。何とかできないか。我々は東京の企業からたくさんの仕事を受けていたので、うちがハブになって全国の就労支援事業所に仕事を回せば、売り上げを確保できるのでは考えました。そうして2018年、施設と企業をつなぐプラットフォーム「ミンナのシゴト」を始めました。全国296の事業所が登録し、そこで働く障がい者は6533人。上場企業8社を含めた90社がサービスを利用しています。

パソコンをつかった作業風景
パソコンをつかった作業風景(提供)

――障がいがある人たちのことを、兼子さんは「ミンナ」と呼んでいます。

正直言って「障がい者」という言い方は嫌なんです。違う呼び方がないかなと思って「キャスト」とかいろいろ考えたんですが、結局、「健常者も障がい者もみんな一緒で、変わらないよね。『ミンナ』でよくね?」というところに行き着きました。我々は「ミカタ」。ヒーローみたいな「味方」であり、世間から障がいのあるミンナを見る「見方」を変えようということで、ミカタなんです。

――「ミンナのシゴト」の強みは。

自ら事業所を運営しているため、登録している事業所の悩み相談に乗れて、問題解決に貢献できるところです。定期的に勉強会も開いています。地方の事業所は営業の仕方がわからず、仕事をとるのに苦労しています。通うミンナはIT系の仕事をしたいのに、多いのは農業のほか、パンやクッキー、アクセサリーをつくるような仕事。だから我々がIT系の仕事を提供すると歓迎されるんです。

――ミンナが携わる仕事の例を教えてください。

たとえばAI(人工知能)のアノテーション、つまり「教師データ」をつくる仕事があります。車の自動運転を実現するには、AIに何百万枚もの写真を見せて「これは車」「これは人間」「これは信号」と教え込む必要がある。単純作業ですが、それを我々が引き受けているんです。おもしろくないですか? AIをつくっているのは障がいのあるミンナだって。わくわくしますよね。健常者が便利、最先端だと思っていることを、実は裏でミンナがつくっているんです。

あるいは、居酒屋のメニュー表をつくる仕事もあります。最近タッチパネルが増えていますが、そのためのデータ入力もミンナが担っています。メニューは独特の字体だから自動認識で読み込めず、人力で打ち込む必要があるんです。ほかに、YouTubeの動画にテロップやサムネイルを入れる編集作業も受注しています。

パソコンをつかった作業風景
パソコンをつかった作業風景(提供)

一方、リアルの仕事もあります。ブックオフコーポレーションの店のバックヤードで、お店が買い取った洋服をサイズごとに分けて、値札をつけ、ハンガーにかけるような仕事です。また、倉庫業の仕事もあります。ホテルのベッドメイキングも製造業も、みんな人手が足りない状況です。

「ブックオフ」の店舗での作業風景
「ブックオフ」の店舗での作業風景(提供)

事業所も学校のクラスと一緒で、25人もいれば文化系も体育会系もいるんですよ。だから、IT系のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)と人材派遣という両方の仕事を持っていないと、うまく回らないんです。コロナ禍は追い風です。テレワークが普通になり、事業所に通えない子もネット環境さえあれば、パソコンで仕事ができるようになったからです。

果てしない夢を追いかけて

――このような取り組みが、SDGsの17目標のうち七つに当てはまると言っています。

「貧困をなくそう」「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」「ジェンダー平等を実現しよう」「働きがいも経済成長も」「人や国の不平等をなくそう」「パートナーシップで目標を達成しよう」です。特に力を入れたいのは「働きがいも経済成長も」。ミンナが働きがいを持って働くことで、日本の経済を支えられます。人手不足の時代、彼らは企業の戦力なんです。

兼子文晴さん
兼子文晴さん(提供)

――今後の目標を教えてください。

めざすはIPO(株式上場)です。ミンナのシゴトは企業から頼まれた仕事を、全国の障がいのあるミンナに担ってもらっています。だから、売り上げはミンナがつくり、上場すればミンナが上場させた会社になるんです。上場したら、「障がい者雇用という言葉なんて無くさないといけない」という世の中に近づけると思うんですよ。

「日本から障がいという言葉と概念を無くす」。そんなミッションを掲げています。「自分が生きているうちには無くならないかな」とも思うんです。でも、果てしない夢を追い求めていけるところが楽しい。自分の代で、少なくとも障がい者雇用という概念は無くせるかなと思っています。

兼子文晴さんと働く人たち
ミンナのミカタぐるーぷ提供

――障がいのある人たちを支えるため、一人ひとりができるアクションとは何でしょうか。

自分自身、会社を立ち上げていろいろあったとき、過呼吸を起こして倒れてパニック障がいになり、障がい者手帳を持っています。いまでも調子が悪くなっちゃうことはあります。それも全部受け入れてくれる社会であってほしいなと思います。

企業勤めの方なら、まずは一歩踏み出して、簡単な仕事でいいので就労施設に仕事を発注してみてください。個人でも、家の草刈りやハウスクリーニングなどをしてもらえます。障がいのある人たちがどれだけのことができるか知ってください。怖がらないで普通に接して、気軽に相談してください。みんな一緒だよ。それをわかってほしいんです。

竹山栄太郎
竹山栄太郎 ( たけやま ・えいたろう )
朝日新聞SDGs ACTION!編集部員。2009年に朝日新聞社入社。京都、高知の両総局を経て、東京・名古屋の経済部で通信、自動車、小売りなどの企業を取材。2021年から現職。
この記事をシェア
関連記事