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新型コロナ対応と原発政策 共通する前提とは 蟹江教授が読み解くSDGs@米国【3】

新型コロナ対応と原発政策 共通する前提とは 蟹江教授が読み解くSDGs@米国【3】
慶応義塾大学大学院教授/蟹江憲史

蟹江憲史さん
蟹江憲史(Norichika Kanie)
慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。専門は国際関係論、地球システムガバナンス。国連が4年に一度まとめる『グローバル持続可能な開発報告書(GSDR)』において、2023年版の執筆を行う世界の15人の専門家のうちの1人。近著に『SDGs(持続可能な開発目標)』『SDGs入門:未来を変えるみんなのために』など。政府SDGs推進本部円卓会議メンバー/国連大学サステイナビリティ高等研究所客員教授を兼任。2021年8月から約1年間の予定で米国滞在中。

またか、の思い

日本でオミクロン株が猛威をふるっています。連日報告される感染者の急増は恐ろしいほどです。オミクロン株がニューヨークやワシントンDCといった都市のあるここ米国東海岸で急速に広がったのは昨年12月中旬、ちょうどクリスマスを目前に控えたころでした。そこから日本で感染が急拡大するまで1カ月以上ありましたし、それ以前に感染の波が来ていた南アフリカとはもっと時間差があります。その間、何をやっていたのか――今の日本の混乱ぶりを見ると、そんな怒りに近い疑問がわいてきます。

これまでのコラムでも書いてきたように、そもそもコロナ対策全般に関して、先進国を中心とする他国と比べたときの日本の対応の遅れは、際立っているように思えてなりません。なぜなのか。その理由を、これまでずっと考えてきました。オミクロン株への対応を見るなかで、それがようやく見えてきた気がします。

岸田文雄首相
首相官邸で東京都知事から新型コロナ対策の要望書を受け取り、会談する岸田文雄首相=2022年2月(撮影・朝日新聞)

まもなく、東日本大震災から11年の節目が来ます。東京電力福島第一原発はいまもメルトダウンした放射性物質と格闘を続け、周辺住民のみなさんは故郷から離れた生活を余儀なくされています。

歴史に残る重大事故を引き起こした原因とコロナ対策の遅れ。私は、同じところに理由があるという気がしています。すなわち、災害が起きることを想定して準備している他の国々と異なり、日本は災害が起こらないことを前提として政策を進めているのではないか、という点です。

もちろん、エネルギー問題と公衆衛生問題という違いはありますが、ともに災害であること、そして、災害があっても活動を続けられる持続可能性の問題と考えると、根本は同じです。その意味では、今も福島第一原発事故の反省が生きていないということになります。

なぜ対応が遅れるのか

1月あたりから、ここ米国でも知り合いが数週間前にオミクロン株に感染した、というような話を耳にするようになりました。ここまで身近になったのは2021年秋に渡米して初めてです。ただ、感染した知り合いのほとんどは無症状や軽症で、「検査をして初めてわかった」という方も少なくありません。

ここにきて、日本にいる私の研究室のスタッフや卒業生などからも、感染してしまったという連絡が入るようになってきました。しかし、そうした仲間から聞かれるのは、検査の遅れや検査体制の不備、そしてワクチン3回目接種をめぐる混乱ぶりといったことです。

オミクロン株の実態がわかるには、症例や研究の蓄積が必要で、ある程度の時間が必要です。しかし、目の前の問題解決には迅速に対応しなければなりません。必要なのは、正確な実態把握の結果をただ待つのではなく、いま手に入る情報からとりうる対策を次々に打っていくことです。オミクロン株の場合、先んじて感染が拡大した地域の経験やデータも入手できるので、より効果的にできたはずです。

抗原検査キット
東京都は2月、濃厚接触者向けに抗原検査キットを配送することを決めた(撮影・朝日新聞)

これまで得られる情報から、オミクロン株は感染力が相当強い一方で、重症化率は低いことがわかってきました。なぜ低いのかの原因はまだはっきりせず、若い人の感染が多いからかもしれませんし、ワクチン接種が進んでいるからかもしれません。あるいは、オミクロン株自体の性質なのかもしれない。それでも、現象として重症化率が低いということであれば、準備できる対策はあるはずです。

オミクロン株がやがて日本にも入ってくる。そうした状況下でどのように日々の生活や経済活動への影響を軽減するか。そうした前提に立てば、少なくとも検査キットの生産・配布を加速することはできたでしょう。日本より感染増大の波が早く到来した米国では、1月中旬に無料の検査キットの配布が始まりました。図書館や学校で、1人につき数回分の検査キットが配布されています。政府による郵送も始まっています。

他国はすでにモードチェンジ

ワクチンの3回目接種を促進するための時間も十分あったように思います。日本で、私より2カ月近く前にワクチン接種を終えた80代の母よりも、渡米した私のほうが3回目接種を早くできたという現実を見ると、日本のワクチン対応の遅さを感じざるを得ません。接種間隔の審査に時間がかかるというのであれば、なおさらそれ以外の部分での迅速な対応が必須です。

しかし、日本で現実に注力されていたのは、オミクロン株を「入れない」ための対策でした。多くの先進国では、オミクロン株を持ち込まない措置は感染後の対策を整えるための「時間稼ぎ」であり、国内で広がってからは再び国境を開いています。コロナの封じ込めはもはやできないと腹をくくり、いかにしてコロナと共生していくかにモードチェンジしているのです。

Covid-19リモートモバイルテストテント
ニューヨーク市マンハッタンのミッドタウンに設置されたCovid-19リモートモバイルテストテント(Getty Images)

水際対策を取れば封じ込められるはず、と人の移動をストップさせ、社会機能を抑え、封じ込めた暁(あかつき)に一気に回復させる道をとるのか。それとも、コロナと共生し、ワクチンと検査体制強化で対策を続けながら、経済社会機能の維持をはかるのか。2月後半を迎える今になっても日本が厳密な水際対策を維持してきた経緯を見ると、後者ではないことは明らかです。

災害にレジリエントな態勢を

「欧米では死者数が日本よりも多いではないか」との声も聞かれます。ですが、死者数の原因をよく見る必要がありそうです。米国で暮らしていると、政治的・宗教的信条からワクチンをかたくなに打たない人たちが一定層います。重症化数や死者数とワクチン接種の有無は、明らかに関連しています。

また、マスクの着用に関しても、できる限りしたくないという人や、着用していても鼻が出ていたりあごにマスクをひっかけたまま話をしていたりと、明らかにつけ方が悪い人たちが少なからずいます。そうしたことも含めて、国と個人の意思決定の関係を踏まえながら、コロナとの共生を不可避なものと、とらえているのです。

マスク着用義務化に反対し、街頭に立つ夫婦
マスク着用義務化に反対し、街頭に立つ夫婦=2020年7月、米ノースカロライナ州シャーロット(撮影・朝日新聞)

福島第一原発の事故の際、大津波や事故を想定した対処や避難計画があまりにお粗末だったことが反省点としてあげられました。津波は来ないし防げる、事故は起きない、という建前にこだわりすぎた結果があれほどまでの大きな被害につながった。その猛省から、その後の原発を巡る政策は大きく転換しました。

しかし、コロナ対策を見ていると、本質的なところでその反省が生きていないように思えます。エネルギー問題はエネルギー問題、公衆衛生問題は別の話、と、「タテ割り」の中でしか考えていないように見えるのです。

災害は来る――そう想定し、いざという時にいかに効果的に対応するか。不確実な未来を前にものごとを持続可能にするためには、そうした備えこそが最も重要です。何かが起こっても回復力があるという「レジリエンス」を実現するということです。

もちろん、ウイルスが広がらないように、災害が起こらないように対策を進めることが無意味だと言っているのではありません。それらにも対応したうえで、感染が広がり、災害が起こってしまったときにどうするか、ということをしっかりと考えて実行に移すことが、持続可能な社会には大事なのです。

営業短縮のお知らせを張り出す飲食店
まん延防止等重点措置を受けて営業短縮のお知らせを張り出す飲食店=2022年1月、大分市(撮影・朝日新聞)
外出自粛を呼びかける道路情報の案内表示
外出自粛を呼びかける道路情報の案内表示=2022年1月、長崎市(撮影・朝日新聞)

オミクロン株への変異でコロナが弱毒化したと考えるのは早計です。今後もコロナと共に進まざるを得ない「ウィズ(with)コロナ」が続くと腹をくくり、拡大防止に努めながら人々の生活の質や社会生活をいかに守るか。つまり、災害は来るという前提のもとで、いかにレジリエントになるか。今こそ災害大国の経験を生かすべきです。

他国がその方向に舵(かじ)を切るなかで日本だけができないとなれば、日本の成長可能性が損なわれ、大きく取り残される。そんな心配を強く抱きながら米国から日本を見守っています。

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