帝国ホテル、料理長考案のフレーバーソルトで食品ロス削減 ラグジュアリーホテルが取り組む食のサステナビリティ【3】

東京の高級ホテルの「食」に関するサステナブル(持続可能)な取り組みを紹介するシリーズの第3弾(最終回)は、帝国ホテル東京のホテルショップで販売されているフレーバーソルトの「サステナブルソルト」。料理長がみずから考案し、「食材を余すことなく使いきる」というフランス料理の考え方をベースに、食品ロス削減にもつなげている。(編集部・竹山栄太郎)
ジャガイモの皮が塩に
サステナブルソルトは、帝国ホテル東京のホテルショップ「ガルガンチュワ」で販売されている。2021年9月に第1弾の「根菜」が、2022年1月には「柑橘」も登場した。

材料は館内の調理過程で発生した、ふだんは料理で使われることが少ない食材だ。「根菜」はジャガイモの皮を低温のオーブンで焼き上げ、パウダー状にして天日塩と混ぜたもの。「柑橘」はグレープフルーツの皮の房の内側、白いわたのような部分を使う。それぞれの素材の香りが料理の味を引き立たせる。
帝国ホテル東京料理長の杉本雄さん(41)が考案した。フランスの有名レストランで腕を磨き、2019年、38歳で第14代東京料理長に就いた。「生産者や食材に敬意を持って対峙(たいじ)し、余すことなく使い切る。サステナブルソルトのベースにあるのは、そんなフランス料理の考え方です」と解説する。


大正時代からレシピに登場し、ガルガンチュワの人気商品でもある帝国ホテル伝統のポテトサラダをつくるため、ホテルでは毎日何十キロものジャガイモをボイルし、皮をむいている。「この皮を余らせるのでなく、使いきりたい」。サステナブルソルトは、杉本さんのそんな思いからスタートしたという。


使い道は幅広く、例えば「根菜」なら「ジャガイモを使った料理やジビエなどの肉料理とよく合います」(杉本さん)。キャベツの外側の葉っぱを活用した新商品の発売も予定しているという。
杉本さんは「ラグジュアリーとサステナビリティの両立を、食の面で表現していきたいと考えました。食卓に彩りを添える品としてすべての方に味わっていただきたいです」と話す。
帝国ホテルは、西欧化を進める明治政府から要請を受けた実業家・渋沢栄一らの旗振りで1890年(明治23年)に開業した。海外からの賓客を迎える「迎賓館」の役割を担い、東京の「おもてなし」をリードしてきた。 2020年には、SDGsへの対応を進めるため、既存の「環境委員会」を「サステナビリティ推進委員会」に改め、食品ロスの削減にも力を入れている。

食材に対する敬意
帝国ホテルの杉本雄・東京料理長に、サステナブルソルトに込めた思いや、料理とサステナビリティの関係に対する考えを尋ねた。
――サステナブルソルトはどういう経緯で商品化されたのですか。
帝国ホテルは130年間、フランス料理を主体に営んできました。フランス料理では、メインとなる魚や肉の骨や皮から出汁(だし)をとり、ソースに仕立てます。食材を余すことなく、敬意を持って対峙していくのです。サステナブルソルトのベースにはそんなフランス料理の考え方があり、食品ロス削減にもつながっています。
実は、ホテルショップで発売する半年以上前から、宴席のお料理などに使っていました。メインダイニングの「レ セゾン」では、1日1組限定で私が演出する「ル サロン アンティミテ」というプランがあります。そのお客さまに、飲みごろを過ぎた赤ワインやふだんは取り除かれてしまうイチゴのへたを活用し、つくり出したお塩を提供したのです。最後に種明かしをすると、ありがたいことに「売り出されたら絶対に買うよ」というお声を多くいただき、商品化を考え始めました。

――こだわった点を教えてください。
サステナビリティの観点を取り入れた“道徳的な思い”の詰まっている商品でありながら、ラグジュアリーなギフトでもあるものをつくりたかったのです。箱のデザインも私が考えたのですが、重厚感があり、塩をぱっと振ったようなイメージに仕上げてもらいました。
塩はオーストラリアの世界自然遺産・シャークベイでつくられた天日塩。海水を太陽の熱で蒸発させてつくるので、環境に配慮されているのが選んだ点の一つです。さらに、売り上げの一部を環境NGOに寄付する仕組みもとりいれました。

マインドの変化と説明責任が必要
――サステナビリティと高級ホテルのブランドの関係についてどう考えますか。
これからの時代、ラグジュアリーとサステナビリティをどれだけ両立できるかを考えることが必須になると思います。コロナ禍でそれまでたくさん来てくださっていたお客さまがいらっしゃらない状況となり、食材を買う必要がなくなってしまった。市場では、売れないので食材の取引が無くなってしまう。市場での取引が無くなれば、生産者がその食材をつくらなくなる。当たり前が当たり前でなくなる現実に直面したことが、目の前の食材に改めて向き合うきっかけの一つになりました。我々の提案するラグジュアリーとは、サステナブルな観点がしっかり組み込まれているものだと伝えていきたいです。
お客さまに我々の取り組みや料理観を伝えることは、我々に課された説明責任でもあります。例えば、「なぜここで養殖の魚を使うのか」「なぜ経産牛を使うのか」といったことを説明し、お客さまに思いを共有してもらい、実際に食べて、感じてもらうことによって、ラグジュアリーだという評価を得られるのだと思うのです。
これまでホテルでは、いつも食材や商品が潤沢にある環境のなかで、「売り切れ」がないことが美徳とされてきました。しかし今後は、季節の食材はそのおいしい時期に、鮮度のいい食材は鮮度のいいうちに使い切ったことに誇りを持てるよう、マインドを変えていくことが、サステナビリティの面からは必要だと思います。なぜ売り切れを許容していくこととしたのか? そこでも大切なのは説明責任です。
――サステナビリティを突き詰めると、料理のあり方自体が変わっていきそうですね。
料理観が変われば、料理の構成物も変わります。アワビに伊勢エビ、キャビア、ホタテ貝……と、いろいろな食材を少しずつお皿にのせるという料理観と、一つの食材を様々に調理しどう一皿に仕上げていくかという料理観はまったく別物です。今後のコース料理は食材にフォーカスして、何を食べてもらいたいかが明確にわかるようなつくり方になっていくと思います。
サステナブルソルトは、これまで使われる機会が少なかった食材を循環のなかに戻すアップサイクルの取り組みです。私はいま、フランス料理を変えたいと考えています。それは、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方をふまえてレシピを構築するということです。例えば、ソースづくりの中で食材を濾(こ)して、濾した後のものは捨ててしまっていたのを、その食材を細かく粉砕して取り入れていく。フランス料理の本質はぶらさずに、どれだけ循環させ、ムダを出さないつくり方に変えていけるか。そこにトライしていくつもりです。
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