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ウェルビーイングとは? 企業にもたらす価値と向上のポイントを解説

ウェルビーイングとは? 企業にもたらす価値と向上のポイントを解説
ウェルビーイング=心身が満たされた状態(デザイン:吉田咲雪)
発我代表/菅原聖也

ウェルビーイングとは、「活力にあふれている状態」を示す言葉です。SDGsや働き方改革などをきっかけにウェルビーイングの向上に取り組む企業が増えています。本記事では、企業でウェルビーイングの向上に尽力している筆者が、ウェルビーイングの概念と企業が取り組む際のポイントをご紹介します。

菅原聖也さん
菅原聖也(すがわら・せいや)
発我代表。外資系IT企業やITベンチャーの創業メンバーとして、システムエンジニア、プロジェクトリーダー/マネージャー、社員育成の企画/運用などに従事。現在は外資系IT企業に勤める一方で、研修講師としてレジリエンス、ウェルビーイング、心理的安全性など企業経営や個人の人生に役立つ心理学の研究と実践を伝えている。

1.ウェルビーイングとは

ウェルビーイングとは、「心身が満たされた状態」を示す言葉です。ウェルビーイングの定義としてよく引用されるのが、1947年に採択されたWHO(世界保健機関)の憲章前文にある定義です。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳

では、具体的にどのくらい満たされた状態を示すのか? 実はそれに対する決まった定義はありません。その結果、人によってウェルビーイングという言葉から連想する状態が異なることがあり、話がかみ合わないこともあります。

書籍や事例を見ていくと、ウェルビーイングという言葉は主に次の三つのいずれかの意味で用いられることが多いです。三つの段階と言っても良いでしょう。

①心身に病気を抱えていない状態
②心身が活力にあふれている状態
③心身が活力にあふれている状態に加えて、仕事や勉学、人間関係に満たされた状態(「幸せ」と表現されることもあります)

例えば「ウェルビーイング経営」「ウェルネス経営」という言葉がありますが、これらは主に②~③の段階を示している事例が多いです。似たようなもので「健康経営」という言葉がありますが、これは主に①~②を指す傾向にあります。

このようにウェルビーイングという概念は範囲が広く、日本語訳も「幸福」「健康」「福祉」など様々です。

ただ、ぴたりと当てはまる訳語が無く、ウェルビーイングとそのまま表現されることが一般的になりつつあるため、ウェルビーイングについて議論する際は、共通認識を持ってから始めることをお勧めします。

2.ウェルビーイングが注目される理由

先述したWHOの憲章前文は1947年に採択されたものなので、ウェルビーイングという言葉自体は古くからある言葉です。

しかし、その言葉が2010年代に入ってから日本、海外問わず企業からも注目されています。それには、次の五つの理由が考えられます。

(1)SDGsが掲げる達成すべき目標の一つ

SDGsとは、2015年に国連が掲げた「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略称です。

このSDGsでは17の目標(ゴール)が掲げられていますが、その一つが「GOOD HEALTH AND WELL-BEING」になります。日本語では「すべての人に健康と福祉を」です。SDGsに積極的に取り組む企業も増えており、ウェルビーイングが注目される一つの要因になっています。

SDGs目標3アイコン

(2)ポジティブ心理学の流行

ポジティブ心理学とは、人間のポジティブな側面に目を向けた心理学です。このポジティブ心理学のテーマとして、提唱者のマーティン・セリグマン博士がウェルビーイングを掲げました。

また、ポジティブ心理学は日本ではまだ認知度が高くありませんが、欧米では広く認知されています。研究から生まれた一般向けの書籍や講演などでウェルビーイングという言葉が頻繁に用いられるようになったことも、ウェルビーイングが注目されている理由としてあげられるでしょう。

近年では、組織のウェルビーイングを高める研究も進んでおり、企業からも注目されています。

(3)働き方改革への取り組み

働き方改革という言葉はすでになじみのある方が多いと思います。厚生労働省は「働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指す」としています。

特にウェルビーイングという言葉は使われていませんが、働き方改革の目指すゴールがウェルビーイングとも言えるので、注目される要因になっています。

なお、働き方改革とは別の話となりますが、日本政府の骨太方針2021に「政府の各種の基本計画等について、Well-beingに関するKPIを設定する」という一文が入りました(参考:経済財政運営と改革の基本方針 2021(骨太方針)p.37│内閣府)。

今後、ウェルビーイングという言葉が一層注目されることになるでしょう。

(4)従業員満足度への意識の高まり

近年、従業員満足度を重視する企業が増えてきています。特に日本では少子高齢化に伴う労働力人口の減少から、人材確保の観点で重視されつつあります。また、日本、海外問わず優秀な人材を確保するためにも重要です。

従業員満足度に影響する要因はいくつかありますが、働きやすい環境やストレスの少ない人間関係、健康の促進、情熱を持てる業務など、ウェルビーイングを高める取り組みが従業員満足度を高める結果にもつながるため、企業がウェルビーイングに注目する一つの要因になっています。

(5)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック

2020年から続いている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは人々の暮らしに大きな変化をもたらしました。

企業では急速なテレワークへの移行や、人と顔を合わせてもなるべく会話を避けるなどの変化により、従業員が心身の不調を訴える事例も増えています。結果として、ウェルビーイングに注目する企業が増えました。

3.ウェルビーイングの取り組み事例

ここからは、皆さんの取り組みの参考として日本企業と海外企業の事例を紹介していきます。

(1)日本企業でのウェルビーイング

日本企業の事例として、先進的な取り組みをしている丸井グループと楽天グループの2社を取り上げます。2社それぞれ具体的な活動は異なります。ともに精力的に発信されているので、各社の発信も参考にしてください。

ここでは、2社に共通する重要なポイントを3点紹介します。

●2社ともにCWO(Chief Well-being Officer)という役職を設置して執行役員が担っています。つまり経営陣がウェルビーイングの価値を理解しており、かつ権限を持った人がリードしています。

●専門の部署だけで進めるのではなく、従業員主導の取り組みが行われています。
丸井グループでは、「手挙げ文化」と呼ばれる、参加したい業務に自ら応募する文化があり、ウェルビーイングの取り組みに関しても同様に進められています。また、楽天グループでは、「Rakuten Culture Cafe」というオンラインカフェを有志の従業員中心にオープンして、そこから活動が生まれています。

●組織への影響力が大きい管理職の理解を得るための取り組みが行われています。
丸井グループでは、部長以上の役職者を対象に「レジリエンスプログラム」が実施されています。また、楽天グループでは、買収によって楽天グループに参画した企業の管理職へ向けて楽天グループの文化を理解してもらう研修が実施されています。

(2)海外企業でのウェルビーイング

海外企業に関しては筆者が直接関わりのある企業を取り上げ、より具体的な活動事例を紹介します。フォーチュン500に入り、アメリカに本社のあるグローバル企業で、ウェルビーイングの向上につながる様々な取り組みを積極的に行っています。

具体的な取り組みの一例を紹介します。

●プログラム展開にあたり、グローバルでリードするチームと、国ごとのチームを編成しています。グローバルチームと各国のチームは頻繁に情報交換を行い、意欲的にプログラムの改善にも取り組んでいます。なお、チームには様々な所属のメンバーが参加しています。日本のチームでも様々な部署から参加していて、管理職も複数人います。

●毎日15分の時間を確保して、従業員主導で瞑想(めいそう)、ヨガなど、心身を豊かにする活動をオンラインで行っています。

●グローバルチームおよび各国のチームが、DIB(※)の高い職場を築き維持するために、他国の文化・異なる人種・LGBTQ+の理解を深めるための企画などを年に数回開催しています。
特に年に1回、3日間にわたってインクルージョンに焦点を当てた対話イベントを開催するなど、経営陣はDIBを特に重視しています。

●ボランティア活動や非営利団体への寄付を助成するプログラムを企画して、従業員が地域社会へ貢献する機会を作っています。年間を通じてプログラムを提供するとともに、年に1カ月間、集中して活動を行う期間を作って各国の取り組み事例を紹介して盛り上げるなど、参加意欲を高める工夫をしています。

●四半期ごとに従業員満足度調査を行い、その結果を毎回従業員へ共有しています。そして、従業員満足度がより高まるように経営陣や管理職が中心となって改善を行っています。

このように経営陣、専門のチーム、そして様々な所属の従業員が一体となって活動することで、高い従業員満足度を達成しています。

(※)DIBとは
Diversity(多様性), Inclusion(一体性) and Belonging(帰属意識)の頭文字を合わせた言葉です。多様な社員が所属しているグローバル企業では特に大切な取り組みですが、たとえ日本人だけが所属している企業であっても、年齢、性別、価値観などの多様性を認め働きやすい職場を築くことは大切であり、日本でも注目されつつあります。

4.ウェルビーイング経営を実現するための手順

ここまで解説してきたウェルビーイングの概念や先進企業の事例を踏まえて、皆さんの企業でウェルビーイングを採り入れるためのステップを紹介します。

(1)ステップ1.多様性のある推進チームを立ち上げる

企業でウェルビーイングの向上に取り組む際に、人事や外部コンサルタントだけでチームが作られるケースがあります。

人事が主導すること自体は悪いことではありませんが、人事やコンサルタントだけで推進すると視野の狭い活動となる可能性があります。様々な部署のメンバーに参加してもらうことで、視野の広い取り組みができます。

さらに、自分たちにとって大切な活動であると実感してもらうことで推進力が高まります。事例として紹介した3社の取り組みも参考にしてください。

(2)ステップ2.自社が目指すウェルビーイングを定める

これまで解説してきた通りウェルビーイングは概念が広いため、自社として目指すウェルビーイングを定義することをお勧めします。

最初にウェルビーイングの三つの段階を紹介しました。ここから目指すところを定めても良いでしょう。

また、先述したマーティン・セリグマン博士はPERMAと呼ばれるウェルビーイングの五つの構成要素を提唱しています。それからギャラップ社も、PERMAとは別に五つのウェルビーイングの構成要素を提唱しています。このような研究も参考になります。

PERMA
・Positive Emotion(ポジティブ感情を頻繁に感じている)
・Engagement(情熱を注げる仕事や学問、趣味などがある)
・Relationship(周りの人とよい関係が築けている)
・Meaning(人生の意味や仕事の意義を感じている)
・Accomplishment(何かを成し遂げる)
※五つの構成要素の頭文字を取ってPERMAと呼ばれています。
ギャラップ社
・Career Wellbeing(充実したキャリアが築けている)
・Social Wellbeing(周りの人とよい関係が築けている)
・Financial Wellbeing(経済的に納得感がある)
・Physical Wellbeing(心身が活力にあふれている)
・Community Wellbeing(職場や地域社会とよい関係が築けている)

(3)ステップ3.具体的な制度や活動を推進する

目指すところが定まったら、いよいよ具体的な制度や活動を検討して推進するステップになります。

先述した先進企業の事例や、ステップ2で紹介した研究事例も参考にしてください。例えばPERMAのMに注目して、仕事の意義を従業員がより感じられるような取り組みを検討してみるといった利用の仕方が考えられます。

そして、一番大事なのは従業員の「声」です。ぜひ様々な立場の従業員の声を聴いて、制度や活動に生かしてください。

なお、心身に病気を抱えていない状態が最低限となるので、もしメンタルヘルス不調が原因で休職や離職となるケースが時々ある場合は、心身の健康を向上させる取り組みにまず重点を置くと良いでしょう。例えば、長時間労働の改善や職場の心理的安全性の向上などの取り組みが考えられます。

(4)ステップ4.管理職の理解度を高める

ウェルビーイングを向上させる取り組みには管理職の理解が大きなポイントになります。様々な部署のメンバーに推進チームへ参加してもらうためには、管理職がウェルビーイングの大切さを理解している必要があるからです。また、管理職の言動が部下のウェルビーイングに良くも悪くも影響を与えます。

ウェルビーイングの活動を始めるにあたり、管理職への説明会や教育を行うことをお勧めします。

(5)ステップ5.効果を測定して活動を改善する

ウェルビーイングの向上は一朝一夕で実現できることではなく、人員や費用を継続して投資しながら取り組む必要があります。経営陣の理解が必須であり、そのためにも効果を測定して活動を改善し続けることが大事です。

例えば、先述した海外事例でも触れた従業員満足度調査が測定に利用できます。また、心身の健康の向上から取り組む場合はストレスチェックの結果を測定手段として利用することもできます。測定結果を利用してより効果のある活動へと改善しつつ、継続して取り組んでください。

5.ウェルビーイングがもたらす価値

皆さんの職場の仲間や家族のことを思い浮かべてください。そして、その方々がこれまで以上に笑顔が多く、活力にあふれている姿を想像してみてください。また、皆さん自身についても同じように想像してみてください。

いかがでしょうか? 皆さんにとって大切な方々や皆さん自身のウェルビーイングがより高まった世界を想像するとワクワクしないでしょうか?

ウェルビーイングの向上は企業にも従業員にも多くの価値をもたらします。ぜひ企業経営に生かすことをご検討ください。

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