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食品ロス削減のカリスマ、セリーナ・ユールが説く「三つの3」とは

食品ロス削減のカリスマ、セリーナ・ユールが説く「三つの3」とは
セリーナ・ユール(本人提供)
食品ロス問題ジャーナリスト/井出留美

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井出留美(いで・るみ)
奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学)、修士(農学)。ライオン、青年海外協力隊、日本ケロッグ広報室長などを経る。東日本大震災で支援食料の廃棄に衝撃を受け、自身の誕生日でもある日付を冠した(株)office3.11設立。第2回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門、Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018、令和2年度 食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。近著に『食料危機』『捨てられる食べものたち』など多数。

チャーミングでエネルギッシュな専門家

セリーナ・ユール(Selina Juul)は、北欧デンマークの活動家、食品ロス問題の専門家として世界的に有名な女性である。彼女は2008年からデンマークの食品ロス問題に取り組み、政府や王室をも動かし、5年間でデンマークの食品ロスを25%削減するという快挙をなしとげた立役者だ。いまは国連やFAO(国連食糧農業機関)など国際機関の活動にも協力している。

数年前、筆者は彼女を取材する機会があったが、とにかくチャーミングでエネルギッシュな人だ。休む間もなく動きまわり、どんどん人を巻きこんでいく。彼女に頼まれれば、超多忙な有名シェフであっても、嫌な顔ひとつせず協力してくれるというのもうなずける。

セリーナ・ユールは1980年にロシアのモスクワで生まれ、13歳のときに家族とデンマークに移り住んだ。言葉もわからなかった移民の少女が活動家となり、移住先の国や社会を動かして活躍する、そのことに感銘を受ける。

本人はさばさばしたもので「活動といっても最初はフェイスブックでグループをつくっただけ」と語る。「ロシアのスーパーの食品棚はいつも空っぽだったから、食べ物のたいせつさは子どもの頃から身に染みているの。それがデンマークに来てみたらスーパーには食べ物があふれていて、みんな食べ物をそまつに扱っているでしょ。それがとてもショックだった。そのことが、私が食品ロス問題に取り組もうと思った原動力かな」と屈託がない。

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セリーナ・ユールの呼びかけに応じて無駄につながりやすいまとめ売りをやめた食料品ディスカウントチェーン「REMA1000」(Getty Images)

取材時に彼女から食品ロスの「三つの3」を教えてもらった。それは次のようなものだ。

1.地球上の二酸化炭素排出量(CO2)のうち、3分の1が食料生産の過程で発生している。
2.環境に負荷をかけて生産された食料の3分の1にあたる13億tが捨てられている。
3.気候変動を防ぐためにできる10のことの第3位は「食品ロスを減らすこと」である。

世界の食品ロス、実は年間25億t

「こうして並べてみると、食品ロスを減らすことが、いかに大切かわかるでしょ」とセリーナ・ユールは話していた。今回は新しい知見も加えた最新版「三つの3」を紹介したい。

食品ロスの「三つの3」(最新版)

1. 世界の温室効果ガス排出量の3分の1は食に関連
2021年3月の「ネイチャー」誌に掲載された研究では、1990年から2015年にかけて世界中で人為的に排出された温室効果ガスのうち、3分の1は「食」に関係していたことが発表された。その推定値は25〜42%と、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の推定値21〜37%を上回った。論文では「2015年の温室効果ガス排出量のうち、食料システムによるものが34%を占める」としている。

2. 食品ロスは世界第3位の温室効果ガスの排出源
世界中の食品ロスを国に見立てると、中国、米国に次いで、世界第3位の温室効果ガスの排出源である。水分が多く含まれる生ごみは燃やしにくく、焼却処理する過程でたくさんの二酸化炭素を排出する。二酸化炭素を出さないように埋め立てると、二酸化炭素の25倍以上の温室効果といわれるメタンを排出する。こうして世界の食品ロスから年間4.4Gt(ギガトン)もの温室効果ガスが排出されている(世界資源研究所/FAO)。

3. 気候変動を防ぐためにできる100のことの第3位は「食品ロスを減らすこと」
「プロジェクト・ドローダウン」では、世界の70人の科学者と120人の外部専門家による二酸化炭素の削減量や実現可能性、費用対効果の検証に基づき、地球温暖化を「逆転」させる100通りの解決策を提示している。その100通りの気候変動対策の中で第3位となっているのが、食品ロスを減らすこと。2021年の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で議論されていた電気自動車は26位、飛行機の燃費向上に至っては43位である。

セリーナ・ユールの取材時には、国連FAOが2011年に発表した「世界の食料生産のうち、3分の1にあたる13億tが捨てられている」というデータが世界の食品ロスを表す数字として広く使われていた。2021年7月、WWF(世界自然保護基金)は、実は世界の食品ロスは13億tではなく、25億tだと発表した。農場からの食品ロス12億tが見過ごされてきたためだという。

となれば、およそ40億tの世界の食料生産量のうち2分の1以上が無駄に捨てられていることになる。そんなわけで食品ロスの「三つの3」から除外した。

甘い設定、日本の食品ロス削減目標

取材時にセリーナ・ユールから、「日本は2030年までに食品廃棄物を半減するという目標を立てたんでしょ。それが達成できなかったらどうなるの?」と逆に質問された。筆者は、日本の目標値は食品ロス量が多かった2000年度からの半減であり、おそらく達成できる目標値だと説明すると、セリーナから「それで本当に効果があるの。大きな変化は期待できないんじゃない?」と言われた。

SDGsの目標12(つくる責任 つかう責任)ではターゲット3に「食品廃棄物の半減」が明記されているが、日本の基準年は、ゴールの2030年に対して30年も前の数値である。ドイツは2015年比であり、英国は2015年比で2025年までに20%減(2005〜2012年に計290万tを削減済み)、フランスは2013年比で2025年までに半減としている。

そもそもSDGsでは、まず理想となる目標を掲げ、その目標に対していま何をすべきかを逆算して計画を立てていく「バックキャスティング」型の方法論をとるが、日本の目標の立て方は、現時点の状況を見て「このくらいなら達成できそうだ」と石橋をたたいて渡る「フォーキャステイング」型の方法論なのだ。

art_00313_本文2(グラフ日本の食品ロス削減推移)

上のグラフからわかるように、日本の2000年の食品ロス推計量は980万tと、直近5年間の食品ロス量(平均614万t)に比べてかなり多い。英国やフランスなみにとは言わないが、せめてドイツなみに2015年比にできなかったのだろうか。2000年比の半減であれば目標値は491万tだが、2015年比であれば323万tまで減らす必要が出てくる。

食品ロス対策にも脱炭素予算を

削減目標のハードルを上げるのなら、手厚い対策が必要になる。そこで提案したいのは、食品ロス削減による温室効果ガス削減を、日本政府が提唱している「2050年カーボンニュートラル」の施策に組み入れることだ。食品ロス削減対策にも、しっかり国家予算をつけてもらいたい。COP26に登壇した岸田首相は、「2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向け挑戦を続けていくことをお約束いたします」と発言していたではないか。

世界に先駆けて食品ロス削減で脱炭素に力を入れる。今さらターゲットを変えられないというのであれば、英国やフランスのように、削減目標の達成を2030年から2025年に前倒しすることも有効だ。食品ロス削減に1ドル投資すれば、さまざまな点で14ドルのリターンが見込めるという試算(英WRAP)もあるくらいなのだから。

カーボンニュートラルは食品ロスの削減で、という政策は、原子力発電への回帰や「技術的課題があり高コストでネットゼロ達成と両立しない」(TransitionZero)とされる石炭火力新技術より、ずっとグリーンだと思うのだが。

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