SDGs ACTION!

ワーケーションの普及 先進地・和歌山県の取り組みに見る三つのポイント

ワーケーションの普及 先進地・和歌山県の取り組みに見る三つのポイント
和歌山県提供

ワークとバケーション――仕事と休暇を組み合わせた「ワーケーション」が注目を集めている。リゾート地など普段の職場や家とは違う場所で働くスタイルは、コロナ禍で観光産業が打撃を受け、新たな集客装置を模索する政府や自治体にとっても「次の一手」。あちこちにワーケーション狙いの施設も建ち始めた。だが、考え方の整理や工夫がなければ、かつての「箱モノ行政」と同じ結果にしかならない可能性もある。ポイントは何か。以前からワーケーションに取り組んできた和歌山県の取り組みを取材してみた。(編集部・滝沢文那)

3年で100社900人が体験

まず、ワーケーション先進地と言われる和歌山の実績をざっと見てみよう。

県情報政策課によると、本格的にワーケーションに取り組み始めた2017年からコロナ禍で移動が難しくなる2020年3月までに、100社900人以上がワーケーションを体験した。

白浜町では三菱地所がワーケーション拠点としてビルの一部を借りている。自社ビルのテナント企業向けにあっせんしており、2022年3月現在は満室状態が続いている。

田辺市で地元企業が運営するワーケーション向けのサテライトオフィスも、4社分が満室になっている。2018年度から都市部の家族を対象に親子ワーケーションを開催。翌年には首都圏企業のリーダー候補を招いた研修も実施し、虫食いで価値の下がった木材をどう活用するかなど、地域課題を議論してもらった。

art_00278_本文_01
和歌山県提供

ポイント1:自治体はハード整備より「自走」の仕組みを

自治体が取り組むワーケーションの施策といえば、Wi-Fi(ワイファイ)などリモートワークに必要な通信環境が整っている施設整備が思い浮かぶが、和歌山県ではワーケーションのためだけに県が単独でハード面の整備をしたことはないという。

県情報政策課の桐明(きりあけ)祐治課長は、「既存の施設や民間のサービスを活用していく方針でやってきました。そのほうが、(県が予算を使わなくても)自走するだろうという考えです」と話す。

art_00278_本文_02
和歌山県情報政策課 桐明祐治課長

和歌山県では、もともとWi-Fiの整備が進んでいたという事情もある。政府が海外からの観光客を増やすインバウンド政策に力を入れはじめた2010年代後半から、インターネット環境の整備を進めていた。2018年には人口当たりのワイファイ整備数で、沖縄県に次ぐ全国2位になっている。

代わりに取り組んできたのは、ワーケーションにまつわるもろもろを包括的にカバーする仕組み作りだ。

コーディネート事業者がカギ

県では、ワーケーション受け入れに取り組む民間事業者を、①Wi-Fiと電源を備えたカフェなどのワークプレイス、②宿泊施設、③農業体験やビーチでのヨガといったアクティビティー、④コーディネートの4カテゴリーに分けて紹介している。

このなかでも、特徴的なのが、④コーディネートだろう。

コーディネート事業者は、ワーケーションを導入する企業側の要望に応じて、プランの作成から宿の予約、農業体験の場となる受け入れ農家との調整まで引き受ける。

art_00278_本文_03
和歌山県提供

和歌山県のワーケーションは主に企業がターゲットだが、内容は様々だ。チームでの合宿もあれば、研修のような形で社員を派遣するケース、会社が制度を整えて社員が各自で希望してやってくるワーケーションもある。

「企業のニーズに合わせて、地元のどんな人とマッチングするか。双方がwin-winのパートナーになれば、継続的な関わりが生まれます。コーディネート事業者がどのくらい機能しているかが、ワーケーション受け入れで一番大事だと思います」と桐明さん。

このコーディネート機能、当初は県の職員が担っていたが、現在では地元の旅行関連事業者などに託している。現在では、県でもリアルタイムでは把握していない事案が増えているという。「今はもう、自走しており、あちこちで地元にお金が落ちるような体制になっています」

ポイント2:移住者より「関係人口」を増やせ

今でこそワーケーションに取り組む自治体は増えているが、2017年の段階でなぜ着目したのだろうか。

発端は、県の南部を中心に20年にわたって力を入れてきたIT企業誘致にあるという。

和歌山県南部は、白浜や熊野古道といった全国的な観光地を抱える。南紀白浜空港は羽田空港から飛行機で約1時間と、首都圏からのアクセスもいい。しかし、産業振興という点では課題があった。海と山が接近した地域で、大規模な工場の誘致には向かないからだ。

そこで、広い場所を必要としないIT企業に狙いを定め、誘致に尽力してきた。「ただ、従業員ごと移住してもらうことが前提になっていたので、かなりハードルが高かった。なかなか来てくれる企業が見つからなかったり、一度は来てくれた企業も定着しなかったり、という状況が続きました」

2015年にセールスフォース・ドットコムが白浜町にサテライトオフィスを開設するなど、成果は出はじめていたものの、さらに加速させるには次の手が必要だった。

あえて観光色は排除

そこで、2017年当時の担当課長が「海外で話題になっている」と目をつけたのが、「ワーケーション」だ。

「いきなり移転や移住は難しい。1週間、いや2泊3日でもいいので和歌山に来て、お試しで仕事をしてもらうというアイデアです。『意外と近いよね』『きちんと仕事ができたね』『開放感があって生産的になれるよね』と実感してもらい、和歌山にオフィスを構えようと考えてもらうきっかけにしようと考えました」

白浜をはじめ全国的な観光地を持つ和歌山県だが、企業向けの資料では「観光」の色をあえて抑えている。

はじめはきれいな海の写真を目立つように使っていたが、経団連に説明すると、「やめたほうがいい」とアドバイスを受けたのだという。

「観光を前面に出すと、どうしても『遊びに行かせるのか』というイメージが先行してしまう。もちろん、希望に応じて観光案内もしていますが、基本的には地元の方と企業が交流しながらイノベーションの機会を探していただくという説明をしています」

art_00278_本文_04
和歌山県提供

ワーケーションは「ワーク」と「バケーション」をあわせた造語だが、和歌山県では、バケーションだけでなく、「コラボレーション」や「イノベーション」といった多様な意味づけをしている。

ビジョンとツールが整理できた

桐明さんは、「『関係人口』ならぬ『関係企業』のような形で協力してもらうことで、こちらとしては地域が抱える課題をクリアする効果が期待できます。企業にはワーケーション先を新しいビジネスチャンスやイノベーション創出の場と考えて利用してほしい」と語る。

「住む」ことを前提にした産業誘致から、県外の人たちとの継続的な交流の重視へ――。地域活性化の目標を切り替えてみると、移転や移住には至らなくても、和歌山に関わり続けてくれる人たちがいることが徐々にわかってきたという。

観光で訪れた白浜や田辺、和歌山市などを気にいって、繰り返し来てくれる人がいる。オフィスを借りて、社員が自由に使えるようにしてみよう、という企業も出てきた。東京に本社があるIT企業がワーケーションで白浜町を繰り返し訪れ、町と共同して観光アプリの開発を手がけるといった事例も生まれた。

「最初はワーケーションで訪れる企業や個人はゲストと捉えていましたが、いまは同じ方向を向くパートナーに近い関係になっています。ワーケーションは、長期的に関わってもらうツールと考えるようになりました」

2021年10月には富士通と、地方創生や地域課題の解決、地域の産業活性化などを目的とした包括協定を締結した。軸の一つがワーケーションで、サステイナビリティー(持続可能性)をテーマにしたツアーなどを予定しているという。

試行錯誤のなかでビジョンと手段が整理され、後は自走できるような施策を整えることに注力したことが結果的に、和歌山県を「ワーケーション先進地」と呼ばれるまでに押し上げたと言えそうだ。

ポイント3:競合するより連携を

2020年7月27日、政府の観光戦略実行推進会議で菅義偉官房長官(当時)が、新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークが定着し、ワーケーションの機運が高まっていると指摘し、一気に注目度が上がった。和歌山県には、東京のキー局からも取材が殺到した。

働き方改革からのニーズもあり、流れは定着したように見える。ただ、リモートワークになじめない企業や仕事内容から実施がむずかしい部署は少なくなく、ワーケーションも一過性に終わる可能性がなくはない。今後も選択肢として社会に根付いていくのだろうか。その意味でも注目したいのが、自治体間の連携という点だ。

和歌山県は、ほかのエリアにも精力的に声をかけている。2019年7月18日には仁坂吉伸・和歌山県知事と阿部守一・長野県知事とが「ワーケーション・スタートアップ宣言」にサイン。続けて、三重県志摩市や長崎県五島市など、65自治体によるワーケーション自治体協議会(WAJ)も立ち上げ、仁坂知事が初代会長に就任した。白浜町では、ワーケーション関連のプレーヤーが集まる「リーダーズ・サミット」も開催した。

art_00278_本文_05
「ワーケーション・スタートアップ宣言」に署名し握手を交わす阿部守一・長野県知事(左)と仁坂吉伸・和歌山県知事=2019年7月18日(撮影・朝日新聞)

桐明さんは、「ワーケーションのお客さんは基本的に都市部のビジネスパーソンです。しかし、それぞれの地方から都市部に情報発信するのは、なかなか難しい。そこで、統一的にPRして、認知度を上げていこうと考えました」と、WAJの狙いを説明する。

ワーケーションに興味を持った企業や個人が、目的にあわせて自治体を選ぶことで裾野が広がる効果も期待している。

「自治体側も、企業誘致や観光などワーケーションの目的がそれぞれ違っているので、必ずしも競合するとは考えていません。まずはワーケーションという文化に触れてもらう機会を広げることが、限られたお客さんを囲い込むよりも大事だと思っています」

箱モノ先行は危うい

2022年1月までにWAJの参加自治体は203(1道23県179市町村)まで増え、関心の高さがうかがえる。先行した自治体だからこそ見えている懸念についても、あえて聞いてみた。

「施設の建設が先行しかねない状況です。ワーケーションは、あくまで手段にすぎないのですが、何のためにやるのかを考えず、それ自体が目的化してしまっていないか。注目度は高いものの、現状ではけっして巨大な市場ではありません。ブームが去って数年後には箱モノだけが残るということにならないか。その点は心配ですね」

この記事をシェア
関連記事