ブリュード・プロテインやエナジーコクーン ゴールドウインが挑む環境配慮の新素材

ザ・ノース・フェイス、へリーハンセン、エレッセ、スピード――人気ブランドを多数抱えるゴールドウインが、環境への取り組みを加速している。2021年には長期ビジョンを策定。カーボンニュートラルや廃棄物の削減だけでなく、アウトドア・スポーツブランドならではの新素材開発にも余念がない。
中長期計画「PLAY EARTH 2030」で打ち出した3本柱
ゴールドウインは2015年に国連でSDGsが採択される前から、環境問題に取り組んできた。前提にあるのは、「スポーツを通じて豊かで健やかな暮らしを実現する」という企業理念だ。経営企画本部CSR推進室マネージャーの勝田悦弘さんは「このミッションに従って、持続可能な社会の実現に貢献したい」と話す。

2021年5月に設定した長期ビジョン「PLAY EARTH(プレイ・アース)2030」では、「環境負荷低減素材への移行」「脱炭素社会の実現」「循環型社会の実現」という3本の柱を打ち出し、2025年、2030年、2050年ごとに具体的な削減目標を発表した。

「脱炭素社会の実現」では、再エネへの転換など二酸化炭素(CO2)排出量の削減を進め、カーボンニュートラルを目指す。2020年度のCO2排出量は1292t。東京の事務所や生産拠点である富山本店を、水力を利用したグリーン電力に切り替えたことなどで、CO2排出量を前年に比べ半分以下に減らした。自社ビルへの発電太陽光パネル設置も検討中で、さらなる排出削減を進めるという。
脱石油素材の「ブリュード・プロテイン」
アパレルメーカーとして注力しているのが、「環境負荷低減素材への移行」だ。肥料や農薬の基準を守ったオーガニックコットンや、ユーカリのような成長が早く産地の環境への影響が少ない天然素材、ペットボトルをリサイクルしたポリエステルといった素材を使用した製品の販売比率は2020年度で28.6%。これを2030年までに90%まで引き上げる。
新素材「ブリュード・プロテイン™」は、微生物を活用した発酵プロセスにより作られる構造タンパク質だ。細くて強いクモの糸にインスピレーションを受けたベンチャー企業・スパイバー社(山形県鶴岡市)が開発した技術で、人口毛髪や医療などさまざまな分野で可能性のある技術として注目されている。
ゴールドウインは、2015年からスパイバー社と共同で「ブリュード・プロテイン」を使ったスポーツアパレルの製品化に向けて研究開発に取り組んできた。石油由来の合成繊維やプラスチック素材と異なり、持続可能な資源をベースとして、環境や生態系への負荷を大きく低減できるのが特徴だ。
2019年には、数量限定ながら「ブリュード・プロテイン」を使ったザ・ノース・フェイスのTシャツとアウトドアジャケットを発売し、話題を呼んだ。「現在はスパイバー社がタイに建設した工場の操業準備が進んでおり、2023年にはブリュード・プロテインを使用した当社のアパレル製品をより多く販売できるようになると思います」(勝田さん)

リサイクル素材の「エナジーコクーン」
自社での素材開発にも力を入れている。それがリサイクルポリエステルを使った、ダウンのような風合いの新素材「エナジーコクーン」だ。
防寒ウエアは、生地の中に含まれるふんわりとした空気が保温性を高めるのだが、通常のポリエステル素材の板状のわただと、つぶれて平らになってしまうのが弱点だった。羽毛のように、暖かくてふんわりとした弾力性のある風合いの粒わたを再現できないか、さらにこれをリサイクル素材にすることで環境負荷をさらに下げられないかと、2018年に開発がスタートした。
使用済みペットボトルをリサイクルしたリサイクルポリエステル素材を使い、大きさの異なる2種類の粒わたを開発。一般的な粒わたに比べてダマになりにくく、繊維内に「光電子」を練り込むことで遠赤外線効果も加わり、快適なぬくもりを生み出した。
社内でおこなった着用試験では、「ダウンのように軽くて暖かい」「洗濯ができて、手入れが楽」「リサイクル原料を使うことで環境への意識が高まる」という好反応が多く、2021年にジャケットなどのエナジーコクーンを使用した製品の発売にこぎつけた。
環境負荷が低いだけでなく、機能性や着心地にすぐれた商品を提供するためには、新素材の研究開発は必須だという。

愛される製品、長く使ってもらえるサービスを
ファッションロス・ゼロへの取り組みも強化している。製品を長く使ってもらえるよう、成長に合わせて裾や脇を調整できるキッズウエアや、出産後も使えるマタニティーウエア、自分に合ったサイズや好みの色にカスタマイズできるサービスといった企画を展開している。
製品の廃棄を削減するための、穴が開いたりファスナーが壊れたりしたウエアのリペアサービスは全ブランドが対象だ。技術拠点となっている富山県の自社工場に集約している。「衣類だけでなくシューズやバックも含め、毎年1万5000件くらいの依頼があります。同じ素材がない古いものでも、近い素材を利用してなるべく元通りに直します」(勝田さん)。リペアに必要な専門知識は、サンプルの製作や基礎研究にも役立っているという。

資源利用のための古着の回収にも積極的だ。2008年から直営店に不要になったウエアの回収ボックスを設置。自社製品以外のメーカーのウエアも受け付けている。ナイロンは東レ、ポリエステルやその他の素材は日本環境設計が引き取り、原材料に戻すケミカルリサイクルなどを行う。ダウンは羽毛精製を手がける河田フェザー(三重県明和町)が洗浄をして再びダウンに蘇らせる。「新たな資源の使用を減らし、使用後の製品を再利用していく循環型リサイクルはアパレル業界の命題。これからも注力していきます」(勝田さん)


1978年から輸入販売を始めたザ・ノース・フェイスは、「自然との共存」を掲げて1960年代に米国で創業された、ゴールドウインの主力ブランドだ。渡辺貴生社長は長年、同ブランドの責任者を務め、環境問題と向き合ってきたという。「渡辺が2020年に社長に就任し、取り組みの加速度がさらに増しているところです。全ブランド、社員一人ひとりが、地球環境を大事にし、持続可能な自然環境を未来の子どもたちに残したいという思いを強くしています」(勝田さん)。
米原晶子(よねはら・あきこ)
フリーライター。
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